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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第2章 小学校(上)
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16

 それから、男の足取りは全くつかめなかった。一体どこに行ったんだろう。全くわからない。警察は必死で探していたものの、なかなか見つからない。変装しているからなのか、また整形しているのか。次第に人々は思い始めてきた。本当は逮捕しようとしていないのでは? 次第にみんな、あきらめ始めていた。もうこんな奴忘れて、前向きに生きていこう。


 そんなある日だった。上田先生の様子がおかしい。上田は大阪の南、堺から通勤していて、妻と3人の子供がいるが、空襲で1人の子供を失った。


「先生、どないしたん?」


 上田は振り向いた。そこには千沙がいる。千沙は上田の表情が気になっていた。もし、気になる事があったら話してほしいな。


「先生の家の近くで空き巣が多発してるんや」


 それを聞いて、千沙は大学生と名乗っていた空き巣犯を思い出した。今度はここで空き巣をやっているのかな? それとも、また別の人だろうか? いずれにしろ、許せない事だ。警察に言わないと。


「まさか、あの人がここでも?」


 上田はこの辺りで多発していた空き巣犯を思い出した。誰がやっているのかわからないけれど、先日、この辺りでも空き巣が多発していたので、もしかしたら同じ人物がやっているかもしれないと思った。もしそうなら、大スクープだろう。けっこう有名な空き巣犯だから。


「そうかもしれんな」


 千沙は思った。ひょっとして、あの空き巣犯がここでも空き巣をしているのでは? しばらく消息がつかめなかったが、ここにいたとは。本当に驚きだ。今度こそ捕まえてほしいな。この辺りでも空き巣をしていたので、許せない気持ちがある。


「どないしたん?」


 千沙は振り向いた。そこには浩一がいる。千沙が何を話しているのか気になって、浩一はここに来たようだ。浩一は興味津々な表情だ。


「ここにおった空き巣犯が先生の近くにおるかもしれないって」


 それを聞いて、浩一は驚いた。まさか堺にいたとは。どうしてそこの警察はあの男を見つける事ができなかったんだろうか? そんなに見つかるはずがないと思っているんだろうか? それとも、やる気がないんだろうか?




 翌日は小学校が休みだ。その日、千尋と千沙、理沙、浩一は堺に来ていた。堺に行くには大阪市電と南海電車を使った。4人はあまり南海電車を使う事がないので、少し興奮していたという。だが、興奮している場合じゃない。堺に行き、空き巣犯があの男かどうか確かめるためだ。旅行目的で来たんじゃない。男を調べるためだ。


 4人は堺駅に着いた。堺駅は大阪ほどじゃないが、多くの人が住んでいる。まるで都会のようだが、大阪がもっと都会だ。


「そっか。この辺りでも空き巣が起きているのか。お母さんが見張るさかい」


 千尋は真剣な表情だ。どこで多発しているんだろうか? とても気になるな。その現場に行かないと。


「お母さん、ありがとう」


 千沙は頼りになる千尋に感謝していた。困った時は母が何とかしてくれるだろう。時には厳しく、時には優しく指導してくれる。本当に頼もしいものだ。


 突然、千尋は千沙の頭を撫でた。千沙は驚いた。


「お母さんはいつだって千沙や理沙、浩ちゃんの味方やで!」


 4人は、空き巣が多発しているという上田の近所に向かっていた。そこは歩いて徒歩10分ぐらいの所だ。一体どこだろう。全くわからないな。




 4人はその現場にやって来た。現場はとても静かな住宅街だ。ここはすっかり復興が進んでいて、戦争の爪痕は全くと言っていいほどない。戦争でいろいろあったけれど、ここもよく発展してきたな。もっと大阪も見習わないと。


「ここに来るん?」

「うん」


 千尋は首をかしげていた。本当にここに空き巣犯が現れるんだろうか? 警察の動きを察知して、もう逃げたのでは? どこに行っても、必ず見つけてほしいな。そして、罪を償ってほしいな。


 静かな住宅街だ。今日は日曜日で、家にいる家族がほとんどだが、大阪などに出かけていて、留守の家族もいる。男はそこを狙って、空き巣をしているんだろうな。


 しばらく待っていると、ある男がやって来た。その男は周りを気にしている。明らかにおかしい。それに、全身黒い服を着ている所も怪しい。先日、近所で見た空き巣犯もそんな感じだ。


「あっ、来た来た!」

「こいつか」


 と、千尋はある事に気が付いた。あの男、先日ここでも空き巣をしていた男だ。上田が言っていた空き巣犯は、やっぱりあの男だったのか。


 男は焦っていた。大阪で空き巣をしていたが、みんなが警戒していて、なかなかする事ができなかった。空き巣をして、お金を集めないといけないのに、どうしよう。


「すいません、何をしてたんですか?」


 男は振り向いた。そこには、千尋がいる。まさかここまでやって来たとは。ここで空き巣をしているという噂を聞いて、ここにやって来たんだろうか?


「い、いや・・・」


 男は戸惑っている。何を言おうか、わからなかった。


「そこ、人の家やで!」


 千尋は強い口調だ。だが、男はそんな雰囲気に慣れているのか、全く物動じない。


「いえ、パトロールですけど」


 いつもの言い訳だ。だが、本当に通用するのか心配だ。どうしよう。


「あなた、空き巣してたの、見たんやで! これ、何や?」


 千尋は男のポケットからあるものを出した。それは、空き巣で近所の人が奪われた財布だ。それを見て、男は戸惑った。


「こ、これは・・・」

「逮捕するで!」


 そう言われて、男は降参した。そして、4人と一緒に警察に向かった。




 帰りの電車の中で、4人は思っていた。まさか、あの人が空き巣犯だったとは。とてもまじめそうな雰囲気だったけど。金がなかったから、こんな事をしたんだろうか? いずれにしろ、やってはいけない事だ。しっかりと罪を償ってほしいな。


「まさかあの人が空き巣犯やったとはなぁ」


 千沙は思った。人は見かけによらぬものだ。今まで大学生だと思っていた自分を恥じた。


「見かけで人を判断しちゃいけないって事やね」

「ああ」


 浩一は空き巣犯の事を考えていた。人はどうして悪い事をするんだろうか? してはいけないとわかっているのに、どうしてやってしまうんだろうか?

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