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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第2章 小学校(上)
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12

 8月17日、いつものように夏の朝が来た。今日も全国高校野球の熱戦が繰り広げられている。高校球児たちは、仲間たち、そしてここまで支えてくれた人々の想いを胸に頑張っている。それはこれから平和な日本の夏の風物詩になっていくんだろうか? それがいつまでも続くように、そして平和な日本が続くように願いたいものだ。


 その日の朝、雅は新聞を真剣に見ていた。何があったんだろうか? どこか暗い表情だ。有名な人が死んだんだろうか?


「どないしたん?」

「ベーブルースが亡くなったんやて」


 ベーブ・ルースはアメリカのメジャーリーグの人気選手で、通算714本塁打を放った。1935年には日本を訪れ、プロ野球誕生のきっかけになったそうだ。そんなベーブ・ルースが昨日、亡くなったというのだ。


 だが、浩一は全く興味がない。その人を全く知らないようだ。もう20年余り前に引退した選手だ。だけど、死去の知らせが新聞に掲載されるほどだから、よほどすごい人なんだろうと思った。


「どんな人なん?」

「野球の神様みたいな人やで」


 雅はベーブ・ルースを見た事がある。初めて見た時は、とてもすごかったな。これが本場の野球なんだな。いつか日本もアメリカと肩を並べるほどになるんだろうかと思ったものだ。


「ふーん」

「昭和10年、日本にやって来たんやで。すごかったわ。あれで日本でもプロ野球ってのができたもんやで」


 戦争で中断していたプロ野球も、ようやく再開した。そんなプロ野球があるのは、ベーブ・ルースの影響だろう。そう思うと、ベーブ・ルースがこんなにすごい人なんだなと思った。


「そうなんや」

「がんに侵されてたらしいで。6月13日、ヤンキースタジアムに来たらしいけど、かなり衰えてたそうや」


 新聞によると、6月13日に、ヤンキー・スタジアム会場25周年記念のイベントに参加したそうだ。そこで、自らが付けていた背番号『3』が永久欠番に指定されたそうだ。だが、ベーブ・ルースはバットを杖代わりに使わざるを得ないほどに衰えていたという。それからベーブ・ルースは入院生活に入った。先月26日、自伝映画『ベーブ・ルース物語』の試写会に参列したが、しゃべれないほどに衰弱して、痩せこけていたという。


「やけど、ちょっと若すぎるんちゃう?」

「そやね」


 53歳と少し早い死だった。雅は思った。どうしてこんなに早く死んでしまったんだろうか? もっと生きていれば、もっと野球のために貢献できたんじゃないかと思った。


「こんな人、いたんやね」


 浩一は生で見た事がない。だけど、こんなすごい人がいたんだと実感できた。


「やから、日本のプロ野球はあるみたいなもんやで」

「ある意味、すごい人なんやね」


 今でも、ベーブ・ルースはアメリカで絶大な人気を誇っているという。今のメジャーリーグがあるのも、この人のおかげじゃないかと思えてきた。


「ほんで、アメリカでも絶大な人気を持っていたんやで」


 ふと、浩一は思った。アメリカに行って、メジャーリーグの試合を生で見てみたいな。きっと素晴らしいだろうな。


「へぇ。メジャーリーグか。いつか、生で見たいわ」


 雅もそれを聞いて、乗り気になった。だが、どうやったら行けるんだろう。日本からアメリカなんて、かなり時間がかかる。だが、いつかアメリカに行ける手段ができてくるだろう。その時になったら、行きたいな。


「いつか、旅行で行こうや!」

「そやね!」


 ふと、雅は何かに気が付いた。山崎さん家が静かなのだ。何があったんだろうか? まさか、2人が別れたんだろうか?  雅は気になって、山崎さん家にやって来た。中には、竜太郎と奈津江がいる。2人とも、静かな表情だ。


「ど、どないしたん?」

「あの女の人が結核を患って入院したんや」


 それを聞いて、雅は驚いた。先日、竜太郎がひそかに会っていた女が、まさか結核だったとは。結核は伝染病だ。竜太郎は感染していないか不安だ。もし、感染していたら、どうしよう。


「まさか、結核やったとは」


 だが、奈津江はそれでよかったと思っている。あの女にもう会えないから。これで再び竜太郎はここに戻ってくるだろう。これからも2人で生きていこうと思ってくれるだろう。


「そっか。でも・・・」


 だが、竜太郎はあの女の事が忘れられない。まさかこんな事になるとは。伝染していそうで怖いな。


「もうあの女の事は忘れよや。これからも一緒に妻といられるのがいいんやろ?」


 雅の声掛けに、竜太郎は反応した。女とは会えなくなった。だけど、これで今の妻を一途に愛する事ができるだろう。でも、それはそれでよかったんだろうか?


「うーん。でもあの人の体調が心配やわ」


 竜太郎はその女の体調が気がかりだ。ひょっとして、結核が悪化して死んでしまうのでは? そして、自分がもし感染していたら、死ぬのでは? とても不安だ。


「そやね。元気になる事を祈ろう!」

「うん!」


 と、そこに菜々子がやって来た。菜々子はまだ眠いのか、目をこすっている。菜々子は慣れない表情だ。言い争っているはずの2人が、今日は言い争っていない。どうしたんだろう。


「あっ、おはよう」

「おはよう」


 竜太郎は優しそうな表情だ。その表情を見て、菜々子はほっとした。元の竜太郎の戻って、本当によかったな。


「ふーん。またいつものお父さんとお母さんに戻ったのか。よかったやん」

「よかったんかな?」


 突然、雅は竜太郎の肩を叩いた。竜太郎は驚いた。


「よかったと思うで!」

「そ、そやね」


 奈津江も戸惑いつつ、これでよかったと思った。離婚の危機にあったものの、何とか大丈夫だった。これからも、3人仲良く生きていこう。

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