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その日の夜、千尋は外を歩いていた。その理由は雅ではない。竜太郎の事だ。竜太郎が夜、何をしているのか調べてほしいと言われた。何がなんでもその理由を突き止めないと。
千尋の横には、菜々子もいる。菜々子もとても気になっている。竜太郎は毎晩、どこに行くのか。今までそれを深く調べた事はなかったものの、今日初めて調べる。
しばらく歩いていると、竜太郎を見つけた。それを見て、菜々子はハッとなった。千尋は思った。これが竜太郎だろうか?
「これがお父さん?」
「うん」
どうやら、竜太郎のようだ。一体、竜太郎はどこに行くんだろうか?奈津江はとても気にしていた。
「最近、お父さんの様子、おかしない?」
菜々子は気にしていた。ここ最近、竜太郎の様子がおかしい。何か秘密があるようだ。わからないが、とても怪しい。それに先日、服にキスマークがあった。女にキスされたのでは? 不倫しているのでは?
「うーん、そういえば」
千尋もそれを感じていた。毎晩、こんな夜に出歩くなんて、明らかにおかしいだろう。
「調べてみたいと思わん?」
菜々子は調べたいと思っていた。だが、なかなかその気になれなかった。
「うん。でも、君たちで夜道はおっかない。お母さんに任せてや」
だが、夜道は危ない。不審者に襲われて、命を落とすかもしれない。一緒に行けば、大丈夫だろう。
「うーん・・・。は、はい・・・」
突然、千尋は菜々子の肩を叩いた。どうしたんだろうか?
「うちに任せてや!」
それを聞いて、菜々子は安心した。この人が何とかしてくれるだろうな。
「ありがとう、千尋さん」
菜々子は不安だった。自分のしたことで家庭崩壊が起きないだろうか? その時は、自分に責任が下るのでは?
「お父さん、大丈夫かいな?」
2人は竜太郎の様子を陰で見ていた。竜太郎は駅前をうろうろしていた。どこに行くんだろうか? 全くわからない。
しばらく見ていると、竜太郎はある店に入った。それは、居酒屋だ。毎日ここに行っているんだろうか? どうして奈津江と一緒に行かないんだろうか?
と、2人はある女を見つけた。その女を見た竜太郎は、手を挙げる。どうやら、その女を待っていたようだ。秘密で別の女性と会っていたようだ。これは夏江に報告しないと。
竜太郎は陰で2人が見ていると知らないまま、居酒屋に入っていった。それを確認した2人は、それぞれの家に戻っていった。
翌日、山崎家は騒然となっていた。昨日、女と会っていたのを見られたからだ。菜々子は陰でその様子を聞いている。自分のした事でこうなってしまった。申し訳ない気持ちだ。本当にやってよかったんだろうかと思ってしまう。
「どうして女と会ってたんや!」
奈津江は怒っていた。居酒屋で女と会っていたとは。明らかに不倫だ。どうしてそんな事をしていたのか、はっきりと言ってもらおうか。
「そ、それは・・・」
突然、奈津江はちゃぶ台を叩いた。とても怒っているようだ。それを見て、竜太郎は下を向いた。すっかり頭が下がらない様子だ。
「愛してるのはうちだけじゃないん?」
「そやけど・・・」
その表情を見て、奈津江はますます竜太郎を問い詰める。
「なのにどうして男と会っていたんや!」
「それは・・・」
突然、奈津江は竜太郎をビンタした。竜太郎は呆然となった。
「ふざけないで!」
菜々子はもう聞いてられないと思ったのか、松岡家に向かった。今日も全国高校野球選手権大会がやっているようだから、そっちを聴こう。そっちの方が興奮するし、楽しいだろうから。
その頃、千沙と浩一は今日も全国高校野球選手権大会を聴いていた。徐々に決勝が近づいてきた。とても興奮するな。自分もこんな大会に出てみたいな。
と、そこに菜々子がやって来た。今日も聞きに来たんだろうか?
「どないしたん?」
「今日も言い争っとるんや」
菜々子は晴れない表情だ。昨夜の事がばれて、言い争っているんだろう。
「そんな・・・」
菜々子はため息をついた。どうしたら仲直りするんだろう。このまま離婚するんじゃないだろうかと思えてくる。もし離婚したら、家はどうなっちゃうんだろうか? 引っ越すんだろうか? 住み慣れたあの家を離れるのは嫌だな。
「なかなか仲直りしないんやな」
「うん」
ふと、千沙は思った。浩一は虐待されていた。あの夫婦よりももっとひどい事をされていたんだな。
「浩ちゃんはもっとひどいことやられとったんやろ?」
「えっ!?」
それを聞いて、浩一は驚いた。確かに自分は、大志田夫妻に虐待を受けていた。だけど今は、ここで世話になっていて、毎日楽しく過ごしている。今の生活がずっと平和だ。
「育ての両親に殴られてたんやろ?」
それを聞いて、菜々子は驚いた。こんな事をされていたとは。全くわからなかったな。
「そんな・・・。こんなひどい事をされとったん?」
「うん」
菜々子は浩一の頭を撫でた。こんなひどい事をされていたとは。
「辛かったやろね」
「うん。でも、今は安心しとるで」
「そう。よかったな」
3人は楽しそうにラジオを聴いていた。竜太郎と菜々子の夫婦喧嘩はラジオの音にかき消されて、全く聞こえない。それを聴いていると、苦しい事を何もかも忘れる事ができる。ラジオって、とても素晴らしいものだな。