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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第2章 小学校(上)
23/40

10

 それから数日後の事だ。今日も全国高校野球が続いていて、毎日熱戦が繰り広げられている。浩一はそれをラジオで聞くのが好きだ。負けたら終わりで、それは3年生などとの別れを表している。あまりにもかわいそうだが、人々は別れを通じて成長していかなければならない。そして、進まなければならない。きっとそれが自分の成長のためになるんだ。


 そこに菜々子がやって来た。菜々子は不機嫌だ。ここ最近、両親が言い争っている。聞いているだけで、気分が悪くなってくる。もうこんな2人を避けて、隣の松岡家にいよう。


「どないしたん?」


 千尋は驚いた。今日も菜々子が来た。どうしたんだろう。ここ最近、ここに来る事が多い。隣の山崎さん家に何かあるんだろうか? まさか、トラブルがあるんだろうか?


「ここ最近お父さんが変なんや」

「そうなんか?」


 千尋もそれには気になった。まさか、こんな事が起こるとは。ひょっとして、何か秘密でもあるんだろうか? 今夜、竜太郎の後をつけてみようかな? 何かわかるかもしれない。


「そうだ。放課後、お父さんの後をつけてみよや」

「ありがとう」


 千尋は今夜、竜太郎の後をつけてみる事にした。見つからないように気を付けないと。見つかったら、何をされるかわからない。


 ふと、菜々子はラジオに耳を傾けた。歓声が聞こえたり、実況と思われる声が聞こえる。一体何だろう。菜々子は興味津々だ。


 菜々子は浩一の部屋にやって来た。浩一はラジオであるものを聴いている。よく聞いていると、それが何なのかわかった。全国高校野球選手権大会だ。今日もやっているのか。暑い中、みんな頑張っているな。


「へぇ、今日も夏の甲子園がやっとるんやね」

「戦前もあったんやけど、また再開されたみたいやね」


 浩一は知っていた。全国高校野球選手権大会や選抜高校野球選手権大会は、戦時中中断されていたものの、戦後また再開した。徐々にそれは夏の風物詩になっていくだろうと浩一は思っている。


「ふーん」


 だが、菜々子には興味がないようだ。菜々子はスポーツにはあまり注目しない。だが、菜々子は思っている。中断されていたものが再開するという事は、日本が復興に向かっていくという証拠だ。これからの日本に注目だという事だ。


「少しずつ、日本は復興に向かっていくんやね」


 菜々子はラジオを聴きながら、これから日本は復興に向かって、大きく進んでいくんだなと感じた。そして、これからの日本は平和に向かっていくんだと思った。


 ふと、浩一は思った。つまらないのならば、明日もここに来てよ。明日も全国高校野球選手権大会をラジオで聞くからさ。


「明日もラジオで一緒に聞こか」

「うん!」


 菜々子も乗り気だ。本当は野球が好きだからではない。夫婦喧嘩を紛らわしたいからだ。それを聞いていると、気分が悪くなってくるだろう。


「明日もうちに来てね」

「わかった!」


 そして、菜々子はラジオを聴き始めた。そんな2人の様子を、千尋は微笑ましそうに見ていた。


 と、そこに千沙がやって来た。千沙もラジオを聴きに来たようだ。


「へぇ、これが甲子園なんや」


 千沙も全国高校野球選手権大会に興味津々なようだ。将来、生で見たいと思っているんだろうか?


「負けたら終わりなんやて」


 それを聞いて、千沙は驚いた。負けたら終わりって、かわいそうだな。だけど、別れによって人は成長していく。そして、大人になっていく。その経験はいつの日か生かされてくるだろう。


「そうなんや」


 その時、サイレンが鳴った。試合終了を告げるサイレンだ。それを聞くと、夏の終わりを感じる。そして、負けて泣く高校球児の姿が目に浮かぶ。あまりにもかわいそうな瞬間だ。慰めてやりたいけれど、慰める事ができない。


「負けたら部員は涙する事がようあるんやて」


 それを聞いて、千沙は思った。そんなに悲しいんだろうか? 自分には泣く意味が全くわからない。男は泣いちゃダメと思っているのに、どうして泣くんだろうか? 


「ふーん。そんなに悔しいんかいな」


 ふと、千沙は思った。浩一は野球が好きなんだろうか? もしそうなら、野球部に入って、甲子園に行きたいと思っているんだろうか? そして、プロ野球選手になりたいと思っているんだろうか?


「野球、好きなの?」

「うん。プロ野球選手になりたいな」


 千沙は驚いた。もし、プロ野球選手になったら、家だけじゃなくて、近隣住民も大騒ぎになるだろう。もし、プロ野球選手になったら、家族に何かを買ってほしいな。そして、すごい人と結婚してほしいな。


「そう。夢を持つっていい事だね」


 3人は振り向いた。そこには千尋がいる。千尋のその話を聴いていたようだ。


「わかるの?」

「うん」


 そろそろ帰る時間だ。もっといたいけれど、そろそろ家に帰らないと、両親が心配する。


「じゃあね!」

「またね!」


 そして、菜々子は隣の家に戻っていった。3人はそんな菜々子の様子をじっと見ている。また来てほしいな。そして、一緒に全国高校野球を聴こうじゃないか。

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