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その後も浩一は、茂に殴られた。それだけではない。複数の子供たちが殴るのだ。浩一は全く悪くないのに、育てた両親だけでこんな事になるなんて。あまりにも許せない。何とかしないと。だが、そのタイミングがわからない。
浩一は泣いていた。それを1人の少女が心配そうに見ている。同級生の大島紗耶香だ。これは何とかしないと。浩一が大変な事になる。せっかく平和な家庭に恵まれたのに、こんな事になるなんて。
「どないした浩ちゃん」
浩一は振り向いた。そこには同級生の紗耶香がいる。どうしたんだろうか?
「な、何でもないねん・・・」
「そっか・・・。何か悩んでる事あったら、相談するんやよ。俺はお前のお父さんやないけど、お父さんのように相談に乗ってやるよ!」
紗耶香は心配そうな表情だ。浩一は明日も小学校に来てくれるんだろうか? もう来ないんじゃないだろうか? 紗耶香は不安になってきた。
「う・・・、うん・・・」
浩一は元気がなさそうだ。それに、泣いている。千沙も元気がなさそうだ。千沙は殴られていないのか、傷がない。浩一が何かをされているようだ。
「どないした千沙も」
「何でもない・・・」
千沙も何も言おうとしない。一体何だろう。全くわからないな。
「そっか」
紗耶香は千沙と浩一と別れ、家に向かっていた。紗耶香は浩一が気になっていた。ここ最近、傷が多い。何かされているんじゃないかと思っている。これは先生に言わないと。
紗耶香は家に帰ってきた。紗耶香の家は、両親と1つ上の兄、達郎と母の朱音、父の茂夫の4人暮らしだ。祖父母は大阪大空襲で亡くなった。
「ただいまー、最近、浩ちゃんが変やと思わん?」
紗耶香の声を聞いてやって来た朱音も、浩一を気にしていた。最近、顔に傷が多い。何かあったんだろうか? もしいじめなら、大変だな。
「そやな」
朱音も気にしていた。早く何とかしないといけないなと思っていた頃だ。
「何か、あるんちゃう?」
「確かに」
ふと、朱音は思った。小学校に連絡してみようかな? 小学校なら、相談に乗ってくれるだろうから。
「学校に聞いてみようや」
「そやね」
紗耶香もそう思っていた。早く小学校に連絡しよう。このままでは、浩一に見に大変な事が起こるかもしれないから。
その頃、担任の谷川は明日の授業に向けて準備をしていた。準備といっても、まだ本格的な授業ではない。何をすればいいのかと考えるぐらいだ。
突然、電話が鳴った。誰からだろう。谷川は首をかしげた。こんな時間にかける人がいるなんて、明らかにおかしい。だが、この時間なんだから、何かが起こったに違いない。電話に出なければ。谷川は受話器を取った。
「あっ、谷川先生ですか?」
「はい」
電話の主は朱音だ。紗耶香に何かあったんだろうか? それとも、それ以外の何かだろうか?
「最近、坂井浩一くんの様子がおかしいんや」
浩一は松岡家でお世話になっている子だ。その子に、何かあったんだろうか? そういえば、あの子の傷が気になるな。それに関する何かだろうか?
「そうなん?」
「何か、あるんちゃう思って」
朱音は不安そうな表情だ。浩一のみに何かがありそうで、心配だ。早く何とかしたいな。
「うーん、何も聞いてないで」
谷川は何も聞いていない。それについてもっと調べないと。浩一の命が危ない気がしてきた。
「うーん、そうかな?」
「最近、元気がないんよ」
元気がないとは。それを聞いて、谷川は浩一の傷を思い出した。その傷が原因だろうか? もしいじめなら、いじめグループに注意しないと。
「うーん、直に元通りになるやろ。また、気を付けとくんで」
だが、谷川は気にしていなかった。だが、朱音が注意しているのなら、自分も気を付けないと。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。何かあったら、またよろしくお願いします」
電話は切れた。谷川は思っていた。あの子に何かあるんだろうか? いつも普通に登校しているけれど。
その頃、茂はいじめグループを広めようと思っていた。今度広めようと思っていたのは、隣のクラスにいる前田だ。前田は茂の近所で、とても親しい。この子なら、いじめに加わってくれそうだな。
「おい、知っとる? 浩一の両親って、捕まったんやで」
「えっ、マジ?」
それを聞いて、前田は驚いた。どうしてこんな子がこの小学校にいるんだろう。何か問題を起こしそうだな。もう来させないようにしないと。
「ああ。今は塀の中やで」
茂は大志田夫妻の事をよく知っていた。そして、今は刑務所にいる事を知っていた。
「こいつをからかってやろか?」
「それはいい考えやな」
前田は茂の考えに賛成だ。こうしてまた、いじめグループが1人加わった。
「ちょっと、やめなさいよ!」
そこに、いじめに反対する女性が現れた。それは、紗耶香だ。紗耶香が知っていて、聞いていたとは。
突然、茂と前田は紗耶香を殴り始めた。
「キャッ!」
紗耶香は抵抗した。だが、2人は殴るのをやめない。
「やろうぜやろうぜ!」
「ああ!」
紗耶香はそれから10分ぐらい殴られ続けた。終る頃には、紗香の顔はボコボコになっていた。紗耶香はそれからしばらく、うずくまっていた。いじめを止めたかったのに、結局浩一と同じくいじめられてしまった。どうしたらいいんだろう。全くわからない。
「さやちゃん、どないしたん?」
と、誰かが紗耶香に手を差し伸べた。それは、紗香の友人、木下綾子だ。
「な、何でもないよ」
だが、紗香は何も言おうとしない。本当は何かあったのに。その理由を話してほしいな。