28
翌日、浩一は併願の高校の入学試験を終えて、帰ってきた。今日で受験勉強は終わりだ。後は結果を待つだけだ。浩一は緊張していた。こんな日は、何日ぶりだろう。全くわからない。だけど、頑張らないと。
2人はリビングにいた。リビングには遠山もいる。遠山も緊張している。こんなに緊張しているのは、何年ぶりだろう。
「いよいよ今日やね」
「うん」
浩一は下を向いている。千沙もまたそうだ。入学試験のために、ここまで頑張ってきた。今日、その結果が出る。
「浩ちゃん、緊張しとる?」
「うん」
ハルはあまり話しかけようとしない。話しかけたら、怒られそうだと思った。
「まだかなまだかな」
「楽しみにしとるね」
今日ほど大事な日はないと思っている。浩一の未来が決まる瞬間だからだ。まだまだ先の話だが、東京の大学に進めるかどうかは、今日にかかっているかもしれない。そして、東京に住めるかもこれで決まるかもしれないのだ。この進学校に行けなければ、東京行きはあきらめなければならないかもしれない。
「浩ちゃんの未来が決まる瞬間やもんね」
「そんな大げさな。未来はまだ決まってないんやよ」
遠山は大げさだと思っている。たとえ別の高校に入学しても、東京の大学に進学するチャンスはあると思っていた。その為には、もっともっと頑張らないといけないが。
「そうやな」
「ただいまー」
理沙が帰ってきた。2人とも明るい表情だ。それを聞いて、千沙がやって来た。千沙は2階で結果を待っていた。千沙も緊張しているようだ。
「おかえりー」
「今日、電話が入るんやて?」
理沙は知っていた。今日、浩一が受けた専願の高校の結果が電話で報告されるからだ。血はつながっていないものの、同居している浩一の結果が気になる。
「うん。やけどまだ来ない」
「そっか・・・。どうなるんやろね」
理沙は2階に向かった。荷物を置いて、またここに来るつもりだ。
「どうか受かってほしいわ。東京に行くためにもここに進んで頑張らんと」
「そやね。東京に行くのが夢やもんね」
2人とも、浩一が合格するのを願っていた。浩一なら絶対に受かると思っていた。そして、東京の大学に進み、東京に住めると思っていた。
「うん」
理沙がリビングにやって来たその時、電話が鳴った。おそらく、高校からだろう。
「来た!」
ハルは受話器を取った。ハルはとても緊張している。
「もしもし!」
ハルは元気に答えた。そして、電話からの声にこたえていく。だが、ハル以外、その声は聞こえない。
「はい!」
徐々にハルの表情が明るくなっていく。もしかして、合格だろうか? 浩一は少し緊張がほぐれてきて、顔が柔らかになった。
「ありがとうございます!」
ハルは受話器を置いた。ハルは喜んでいる。まさか、合格したんだろうか?
「えっ、合格?」
ハルはなかなか言おうとしない。みんなを緊張させているようだ。降りてきた理沙も座って、結果を待っている。
「合格や!」
その瞬間、みんな喜んだ。浩一が専願の高校に合格したからだ。これで東京の大学に進学して、東京に住む第一歩につながった。
「やったー!」
「浩ちゃん、合格おめでとう!」
ハルは笑みを浮かべている。よくぞここまで育ってくれた。特に中学校は大変な事がいくつもあったけれど、くじけずに頑張ってくれた。本当に嬉しい。
「いよいよ未来が開けたんやな」
「うん」
遠山は浩一の肩を叩いた。浩一は気合が入った。
「高校に進んでも、頑張れよ!」
「おう!」
千沙は浩一の頭を撫でた。浩一はやっぱり頭がいいな。憧れる。
「期待してるで、浩ちゃん」
「わかった!頑張って、東京に行けるように頑張らんと」
「ああ」
だが、浩一はすぐに気合を入れなおした。これがゴールではない。東京の大学に進学して、東京で就職して、東京に住むのがゴールだ。高校は単なる通過点に過ぎないと思っていた。
それを聞いて、理沙は考え事をしていた。まさか、受験の事を考えているんだろうか? 来年は理沙も高校受験だ。
「どうした、理沙」
「い、いや、何でもあらへんで」
だが、理沙は何も言おうとしない。高校受験で悩んでいるというのは、誰の目にも明らかだ。
「ふーん・・・」
「寂しいん?」
ハルは、理沙の寂しそうな表情が気になった。いつか、東京に行ってしまうんだ、残念だと思っているんだろうか? 一緒に東京に住みたいと思っているんだろうか?
「そんなわけないよ」
「そう・・・」
理沙は思った。自分も浩一と同じ高校に進学して、東京に住みたい。そして、浩一と同じく、東京で頑張りたいな。その為には、もっともっと頑張らないと。
「寂しそうな顔してるさかい、頑張ってね」
「ありがとう。頑張るで」
理沙は決意した。浩一と同じ高校に進もう。そして、東京の大学に進み、東京に住むんだ。




