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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第1巻 大阪編  第1章 一緒に住む
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 3月になった。徐々に暖かくなってきて、春が近づいてきた。そろそろ桜も開花してくる頃だ。戦時中はそんな事を考える気分じゃなかった。だが、戦争が終わった事で徐々に考えるようになってきた。これから日本は、桜のように美しい日々を送っていくと思われる。


 雅と千尋、徳次郎、ハルはワクワクしていた。いよいよ来月から千沙と浩一が小学校に入学するからだ。すでに入学に必要な物は買った。すでに準備はできている。


 千沙と浩一は近づく入学式にワクワクしていた。小学校ではどんな日々が待っているんだろう。わからないけれど、きっと素晴らしい日々だろう。その日々は、きっと一生の財産になるだろうな。


 そんな中、雅はラジオを聞いていた。何事だろう。気が付くと、みんな耳を傾けていた。


「いよいよ今日から春の甲子園かいな」


 今日から戦争で行われていなかったセンバツ高校野球が始まるのだ。球春の到来を告げる春の風物詩だったが、戦時中は学徒出陣などで中断されていた。学生たちは徴兵され、戦死した学生もいる。特に、大平洋戦争末期の特攻隊はあまりにもかわいそうだった。死ぬ事前提で飛行機ごと敵艦に体当たりするという、あまりにも命を軽く見た部隊だ。その中には、野球の全国大会に出た人もいるだろう。特に、戦前の巨人軍を代表する投手、沢村栄治が戦死したのは驚いた。今でも生きていれば、日本の野球はどうなっていたんだろうと思うと、あまりにも残念でしょうがない。


「また始まるんやね」


 雅と千尋、徳次郎、ハルは戦時中を思い出した。あの頃はスポーツを見たり、する事なんてままならない日々だった。みんな、国のために頑張り、日本軍が活用に尽くした。だが、日本は劣勢に追い込まれ、そして、1945年の8月15日に終戦を迎えた。これまでの努力は何だったんだろうか、無駄だったんだろうかと思えてきた。


「色々あったけど、またできるんやな」


 雅は感動していた。戦時中、いろいろあったけれど、またこうして野球を楽しめる。それだけで、本当に素晴らしい。もし、戦死していたならば、こんな事を楽しめなかった。そして、ここに戻って、家族一緒に暮らせなかった。こうしてみんなで見られる。それだけでこんなに素晴らしいとは。


「徐々に元の生活が戻ってきたんやな」

「これから平和な日々になっていくとええな」


 千尋も感じていた。これから高校球児は、平和な中で野球を楽しめる。そして、一緒の思い出を作られる。きっとこの大会は、忘れられない大会になるぞ。


「嬉しいわ。元の平和な世界になって」


 ふと、千尋は戦死した人々の事を思い浮かべた。戦死した人々は今頃、天国からこの大会を見ているんだろうか? 開会式を見て、どう思っているんだろうか? 生きて帰って、生で見たかったと思っているんだろうか? そう思うと、戦死した彼らがかわいそうでしょうがない。戦争って、本当にやってよかったんだろうかと思えてくる。


「戦死した人たち、天国で見てるんかいな?」

「再開された春の甲子園を見て、どんな事を考えてんやな」


 雅も同じことを考えていた。戦争で知り合った人の中には、かつての球児もいた。彼らはまた野球ができる事を夢見ていた。休み時間にはキャッチボールをしてくれた。だが、その人は鉄の雨に撃たれて死んでいった。死んでいった人々が無念でしょうがない。その人々の分も生き、そして頑張っているんだろうな。その人の事は知らなくても、きっと彼らの分も頑張るんだろうな。


「戦死した子は出たかったと思ってるかもしれんね」

「そやね」


 と、ハルは気づいた。いよいよ来月から千沙と浩一が入学式だ。いよいよ小学校に通うんだ。これからいろんな事を学び、そして賢くなっていくだろう。そして、大きく成長していくだろうな。どんな大人になるんだろう。全くわからないけれど、いい子に育ってほしいな。


「いよいよあさってから新年度かいな」

「入学も迫ってきたわね」


 千尋も気づいた。いよいよ入学式が迫ってきた。どんな日々になるんだろう。わからないけれど、きっと楽しい日々になるだろうな。


「楽しみだろ?」

「うん!」


 千沙も浩一も嬉しそうだ。同じ年齢の子供たちと一緒に学び、遊び、友達になれる。それだけでこんなに嬉しいとは。戦時中は疎開もあって、なかなか一緒にいられなかった。だが、戦争が終わって、疎開先から帰ってきて、一緒にいられる。それだけでとても幸せだろう。


「そうだよな! 友達たくさん作ろうな!」

「わかってるよ!」


 突然、雅は浩一の肩を叩いた。浩一は驚いた。どうしたんだろうか?


「浩ちゃん、楽しく過ごそうね!」

「うん!」


 千尋は千沙の頭を撫でた。千尋は笑みを浮かべた。来年に入学する理沙はその様子をじっと見ていた。来年、私もこうなるんだな。どんな事を勉強して、どんな友達ができるんだろう。そして何より、どんな日々が待っているんだろうか?


「期待してるで、千沙、浩ちゃん」

「ありがとう」


 彼らは選抜高校野球大会の開会式をラジオで聞きながら、家族の明るい未来を描いていた。千沙と理沙、浩一の未来は、きっと高校球児のように、青空のように、明るいだろう。

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