21
千沙と浩一は家に帰ってきた。だが、ただいまとは言わなかった。ハルに見つかったらダメだ。新聞をこっそり見るからだ。2人は辺りを見渡し、大丈夫だと確認した。家はとても静かだ。ハルはおそらく、自分の部屋でゆっくりしているだろう。
浩一はリビングにやって来た。リビングには誰もいない。新聞をこっそり見るチャンスだ。
「誰もいないな」
浩一は新聞を読み始めた。新聞には様々な記事がある。浩一は新聞を読む事はほとんどない。
と、浩一はある記事を見つけた。それは『連続放火殺人夫婦、死刑判決』という記事だ。そして、松岡雅、千尋夫妻と書かれている。千沙と理沙の両親だ。
「えっ!? 死刑?」
「どやった?」
浩一は横を向いた。そこには千沙がいる。
「死刑やて」
死刑と聞くだけで、千沙はわかった。両親が死刑になったのだろう。あれだけ人を殺したんだから、死刑になるだろうなと思ったが、本当になった。
「やっぱりそやったんか」
「あれだけの人を焼き殺したんやもん」
浩一もそう思っていた。やっぱり死刑になったんだな。自殺未遂だけでこんな事をするなんて、やりすぎではないか?
「そやね。いくら浩ちゃんをが自殺しそうになっただけで、これはやりすぎちゃうかって」
「自殺しようとした自分が言うのもなんだけど、僕もそう思う」
2人とも死刑になって当たり前と思っているようだ。2人とも、雅と千尋の事は全く気にしていない様子だ。自分は自分、自分たちは自分の道を進んでいくんだ。全く関係ないだろう。
「浩ちゃんはこんな悪いことやっちゃあかんよ」
「わかっとるて」
と、玄関が開いた。ハルが帰ってきたようだ。部屋にはおらず、買い物に行っていたようだ。
「ただいまー」
「あっ、帰ってきた!」
ハルはリビングに行こうとした。と、2人がリビングから出てくるのを見た。まさか、新聞を読まれたかな? 雅と千尋の死刑判決の記事を見たんじゃないかな?
「どないした? こんな時間にリビングにいて。勉強しろよ」
「は、はい・・・」
2人は何事もなかったかのように2階に向かった。その様子を見て、ハルは思った。もしかして、死刑判決の記事を見たのでは?
「なぁ!」
「えっ!?」
2人は振り向いた。まさか、死刑判決の記事を見た事を追及されるのでは? 2人はギクッとなった。
「まさか、新聞見たん?」
「見とらへん」
浩一は嘘をついた。本当は見たのに。それを見て、ハルは厳しい顔になった。
「正直に話し!」
ハルのこんなに怖い顔は初めてだ。それを見て、浩一は正直に話そうと思った。
「・・・、見ました・・・」
浩一は記事を見たと正直に話した。ハルは元の優しい顔になった。
「そうか・・・。父さんと母さんの記事、見たん?」
「し、死刑になった事ですか?」
やはり見てしまったのか。ハルは下を向いた。言いたくなかったのに、見てしまったようだ。もう隠せないな。
「やはり見たんか・・・」
それを聞いて、見てはいけなかったのかなと思った。雅と千尋の事を気にせずに、前向きに生きてほしいから、見せよう、言おうとしなかったんだろうなと思った。
「見たらあかんかったん?」
「いや、そんなわけあらへんで」
浩一はほっとした。見たらいけない事だと思っていたが、見てもよかったようだ。
「見てしまって、ごめんなさい」
「ええんやよ。どう思う?」
「何も思ってへん」
どうやら浩一は、何も思っていないようだ。犯罪を起こした人の事なんて、全く気にしていない。自分は自分の道を歩むんだ。大きな夢を持って、東京に向かうんだ。その為には、受験を頑張らないと。
「そっか。受験、頑張れよ」
「はい・・・」
と、そこに遠山がやって来た。遠山は2人をじっと見ている。まさか、2人があの記事を読んでしまったのかな?
「どないしたん?」
「あの記事、見てしもうたんやて」
やっぱり見てしまったのか。言わないようにしようと思っていたのに。自分から見てしまうとは。だが、あまり気にしていないようだ。遠山はほっとした。
「そうなんや・・・」
「本当は見せたくなかったんや」
浩一には、その気持ちがよく分かった。前を向いて生きてほしいから、見せなかったのだろう。
「その気持ち、わかるて」
2人は2階に向かった。もちろん、受験勉強だ。2人は雅と千尋の事を全く気にしていないようだ。
「どんな大人になるかわからんけど、悪い子になってほしないわ」
「うん」
遠山は彼らの未来を夢に描いていた。どんな大人になるかはわからない。だが、雅や千尋のように、犯罪を犯してほしくないな。
「この子たちの未来に期待しよ?」
「ああ」
遠山も思っている。この先の未来を決めるのは、この子供たちだ。この子供たちが大きくなって、この日本を、世界を変えていくだろう。彼らの未来に期待しよう。
「この子の未来を決めるのは、この子たちや」
「そやね」
2人は天井を見た。その先には千沙と浩一がいる。2人は彼らの未来に期待していた。




