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ある冬の朝の事だ。いつもの冬の朝だ。ハルはいつものように朝刊を読んでいた。毎朝、朝刊を読むのがハルの日課だ。ほぼいつも欠かさず読んで、何が起きているのか見る。それが定番になりつつあった。
ハルはある記事を見つけた。それは、雅と千尋の判決の結果が出たという記事だ。判決は死刑だったという。ハルは予想していた。これだけの人を殺したんだから、仕方がないだろう。死んで償うしかないだろう。だが、これを孫娘たちや浩一には言わないようにしよう。彼らには前向きに、平和な日々を生きてほしい。そして、日本のために頑張ってほしい。
「おはよう」
ハルは顔を上げた。浩一だ。浩一は少し眠そうだ。昨夜も夜遅くまで受験勉強をしていた。授業に支障はないものの、朝はとても眠たそうだ。
「あっ、おはよう」
ハルはいつものような表情を出そうとした。だが、死刑の記事を見ると、いつもの表情が出ない。
「どないしたん?」
浩一もハルの様子が気になった。いつもと違う。何かあったんだろうか? 浩一は首をかしげた。
「何もないて」
ハルは台所に向かい、みそ汁とごはんをよそった。それを見て、浩一は椅子に座った。
「さぁ、食べなさい」
「いただきまーす」
浩一は朝食を食べ始めた。と、そこに千沙と理沙もやって来た。2人も起きたようだ。
「いただきまーす」
2人は浩一に続いて朝食を食べ始めた。だが、2人とも元気がない。ハルの表情が気になってしょうがないようだ。
「どないしたん? 元気出しんさい」
「はい・・・」
3人とも怪しそうな目で見ていた。こんなハルの表情は見た事がない。何かあったんだろうか?
3人はいつものように中学校に向かおうとしていた。いつもの朝だ。だが、少し違和感を感じる。ハルの表情がおかしいからだ。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
3人は中学校に向かった。ハルはその後姿をじっと見ている。
「はぁ・・・」
ハルはため息をついた。死刑の判決が出たと知って、雅と千尋の事を思い出した。あの息子とその妻にはあきれた。浩一の事で放火殺人をしてまでも復讐するなんて、めちゃくちゃじゃないか? 対話による解決はできなかったんだろうかとつくづく思う。
「死刑判決が出たんやね。あんな事をせんだらよかったのに」
ハルは振り向いた。そこには遠山がいる。遠山も死刑判決が出たのを知っている。
「そやね」
「浩ちゃんは何も悪ぅない! 放火殺人した雅と千尋が悪いんや!」
確かにそうだと遠山も思った。浩一が自殺を図っただけで、放火殺人をするなんて。それに、浩一は死んでいなかった。もうこんな夫婦、知らない。もう帰ってきてほしくなかった。死刑判決が出てよかったと思っている。
「そや。あれで殺そうと思わなければよかったんや」
遠山も思っていた。死刑判決が出たって事は、千沙や理沙、浩一には言っちゃダメだ。気にせず、前向きに生きてほしいから。もうあんな夫婦の事を考えてほしくないから。
「絶対にあの子たちに言っちゃあかんよ」
「ああ」
ハルは腹が立っていた。あの息子夫婦、もう会いたくない! 遺骨も引き取りたくない。死刑になっても、冥福を祈りたくない。
「もう雅にも、千尋にも会いたないわ!」
「ウチもや!」
遠山もそう思っていた。何度も放火殺人を起こして、多くの人を死に追いやったのだから、どんなに願っても会いたくない。
「あんな罪を犯したんやから」
「どうしてあんな子になっちゃったんやろ」
ハルは思った。雅をこんな子に育てた覚えはない。いい子に育ってほしいと思っていたのに、こんな事を犯してしまうなんて。どうしてこんな子に育ってしまった。
「ウチもそう思う! もうここに帰ってくんな! もう帰ってこないのが決まったけどな」
「そうだね。もう忘れよう! 子どもにも言わんようにしよう」
「うん」
2人は決意した。もうあの2人の事は忘れよう。自分たちで生きていこう。
昼休み、千沙と理沙、浩一は3人で話をしていた。話題は、ハルの事だ。今朝のハルは、明らかに表情がおかしかった。何かあったんだろうか? ひょっとして、雅と千尋の判決が下ったんだろうか? だから、表情がおかしかったんだろうか?
「おばあちゃん、今朝、おかしなかった?」
「確かに」
浩一も感じていた。これは何かがあるな。でも、何だろう。全く想像がつかない。
「何かあったんかな?」
「わからん。やけど、やけにいつもに比べて新聞をよく見とったね」
浩一はよく見ていた。今日はやけに新聞をよく読んでいた。とすると、新聞に何か秘密があるんじゃないかな? 新聞に重大なニュースがあって、何度も読み返しているのでは?
「新聞に何かあるんかな?」
千沙も理沙もそうだと思った。確かに、今朝のハルはよく新聞を読んでいた。やはり新聞に何かあるみたいだ。
「かもしれん。2人の目を盗んで、見てみよや」
「そやね」
3人は決意した。ハルの目を盗んで、その新聞を読んでみよう。きっと何かあるかもしれない。
と、千沙は思った。ひょっとして、両親の判決出たのでは? そろそろ判決が出るんじゃないかと思っていたが、昨日、判決が出て、それが新聞に載っていたのでは?
「・・・、ひょっとして、父さんや母さんに何かあったんちゃう?」
「えっ!?」
それを聞いて、浩一はそうかもしれないと思った。自分が自殺を図っただけで放火殺人を何度も犯すなんて、めちゃくちゃだと思っていた。それに、自分は生きて帰ってきた。どうしてこんなことまでしても、いじめっ子を殺さなければならなかったのか? 対話で解決できなかったのか?
「ひょっとして、判決が出たんちゃう? 死刑になったんちゃう?」
「うーん、どやろ。でも、否定できんな」
浩一は腕を組んで、首をかしげた。とにかく、新聞を読んでみよう。読めば何かわかるだろう。
「とにかく、見てみよや」
「わかった」
休み時間終了のチャイムが鳴った。それを聞いて、理沙は自分の教室に戻っていった。




