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あなたと生きて  作者: 口羽龍
第5章 中学校(下)
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 浩一はいつの間にか寝ていた。いつも以上に早く起きて、眠たかったのだろう。ほとんどの生徒は寝ている。車内は列車の音が寝る前よりよく聞こえる。どこまで来たんだろう。浩一は外を見た。車窓には茶畑が広がっている。おそらく、ここは静岡県だろうか? 静岡県はお茶の生産量が日本一だ。静岡県は横に長い。静岡はまだまだ遠い。東京にもっと早く行ける手段はないんだろうか? 浩一は思っていた。だが、これが一番速い。浩一は車窓を見るのが退屈になっていた。隣に座っている千沙は寝ている。まだまだ寝足りないんだろうか?


「東京行ったら、どこ行きたい?」


 浩一は前を向いた。そこには川島がいる。川島は起きて、車窓を見ていた。起きた浩一に気付いたようだ。


「うーん、特に考えてない」


 まだ考えていないようだ。川島はすでに決めている。浅草寺に行こうと思っている。


「そっちに来たら考えんとね」

「うん」


 川島は思った。どうして浩一は東京に住みたいと思っているんだろうか? 何が浩一の心を動かしているんだろうか?


「でも、どうして東京に住みたいと思っとるん?」

「夢があるから」


 夢があるからか。なかなかいい答えだな。東京に行き、もっと強くなりたい、豊かな生活を手に入れたいと思っているようだ。


「そっか。東京って、賑やかだし、日本の首都やもんね」

「うん。そこに行けば、もっと豊かな生活を送れて、成長できるんじゃないかなと思って」


 浩一は目を輝かせている。きっと浩一の未来は明るいぞ。この子は頭がいい。将来、東京の大学に行き、東京で就職して、結婚して、東京で暮らすだろうな。


「そっか。やったらええよね」

「うん。この修学旅行で、何かを感じられればええんやけど」


 修学旅行で東京に行く事は、東京とはどんな場所なのかを知るためでもある。そして、将来東京に住みたいと思っている自分のためでもある。


「うん」


 再び浩一は外を見た。長いトンネルを走っている。トンネルを抜けた先には何があるんだろう。全くわからないな。その先に行った事がない。浩一はワクワクしていた。トンネルを抜けると、金谷駅が見えてきた。左側には小さなホームがある。大井川鉄道のホームだ。この頃はあまり注目されていなかったが、昭和50年代になると、SLの復活運転で脚光を浴びる事になる。もちろんその事を2人は知らない。全く注目していない。


 その先に見えてきたのは、大井川だ。大井川は東海道屈指の難所と言われていた広い川だ。『箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川』と詠われたという。そんな大井川を、列車は鉄橋で一気に超えていく。これだけの難所をあっという間に安全に越えていく。その他にもいくつもの橋ができ、もはや大井川は難所ではなくなった。時代は変わったものだと思わせる。その先の静岡はまだ遠い。その先の東京はまだまだ遠い。いつになったら着くんだろう。浩一は東京に着くのが楽しみでたまらなかった。


「浩ちゃん」


 浩一は横を向いた。千沙が起きたようだ。


「千沙ちゃん」


 千沙は笑みを浮かべている。東京に近づくたびに、気持ちが高ぶってくる。今回は一緒に修学旅行に行く事ができて、嬉しいようだ。修学旅行を思う存分楽しもう。


「今日は楽しもうな」

「うん」


 千沙も車窓を見ている。まだ静岡に着いていないようだ。東京はまだまだ遠いな。あとどれぐらいかかるんだろうか? 千沙は東京に着くのが楽しみでしょうがないようだ。浩一もまたそうだ。ここにいる子供たちもまた、東京に行くのが楽しみでしょうがないんだろう。きっと、いい思い出を作りたいと思っている事だろう。自分もまたそうだ。そして、東京に住むための糧にしたいのだ。


「私は東京に住もうと思っとらへんけど、東京もええよね。夢があって」


 やはり千沙は東京に住みたいと思っていないようだ。自分とは正反対だろうな。だが、住まない理由は浩一にもわかる。ハルの事があるからだ。


「でしょ?」

「うん」


 浩一は相変わらず車窓を見ている。これが静岡の風景なのか。ここもなかなかいいな。だけど、東京はもっといいだろうな。果たして東京の風景はどうなんだろう。どんな感動が待っているんだろう。わからないけれど、しっかりとその目で確かめよう。


「何はともあれ、東京に行くの、楽しみやね」

「うん」


 東京に住まないと思っている千沙も、東京に行くのが楽しみなようだ。東京のいろんな場所に行き、そして思い出を作りたいな。そしてその中で、何らかのきっかけを作るんだ。


 千沙と川島は浩一をじっと見ている。車窓を楽しんでいるようだ。浩一は列車に乗る事があんまりないようだ。だから、車窓を真剣な表情で見ているんだろうか? それとも、これから行く東京に思いをはせているんだろうか?


「車窓を眺めてるね」


 浩一は興奮していた。これほど早く流れる車窓を見た事がない。鉄道はこれからもっと速くなるだろう。この先には、どんな速い列車ができるんだろう。わからないけれど、日本に未来に期待しよう。


「こんなに早く流れる車窓、初めて見たもん」

「嬉しそうで何より」


 2人は浩一の表情を嬉しそうに見ていた。そして、これから行く東京に思いをはせていた。

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