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浩一の後にも、次々と生徒がやって来た。彼らも修学旅行で一緒に行く3年生だ。みんな楽しそうで、笑顔があふれている。自分が見たかったのはこの光景なんだと思った。小学校の修学旅行に行けなかった事を考えると、感無量だな。
「おはよう」
「おはよう」
やって来たのは同級生の米田だ。米田は小学校も一緒だった。
「おっ、今回はちゃんと来たんやな」
「当たり前やよ!」
浩一は苦笑いをしている。米田はとても喜んでいる。茂のせいで修学旅行に行けなかった浩一をかわいそうだと思っていた。何とかしたいと思っていたが、何もできなかった。米田はそれを悔やんでいたという。
「まぁ、もう言わん事にしよや」
「そやね」
と、そこにまた別の同級生がやって来た。山口だ。
「浩ちゃん、おはよう」
「おはよう」
山口も嬉しそうだ。今日はみんなで東京に行くんだ。楽しみだな。
「いよいよ東京やね!」
「うん! 楽しみ!」
山口は思い出した。浩一は茂の策略で小学校の修学旅行に行けなかった。とても悔しい思いをしただろうな。だけど、今回は行く事ができた。本当に嬉しいだろうな。
「そっか。一緒に行くの、初めてやもんね」
「うん。あの時は辛かったな。一緒にお好み焼き屋に行ったけど、それでも立ち直れなかったもん」
浩一はあの時の事を思い出した。千尋が道頓堀のお好み焼き屋に連れて行ってくれた。だけど、満足できなかった。みんなと一緒に修学旅行に行き、感動するのが一番に決まっている。
「そやったんだ。でも、それはそれで楽しかったんやろ?」
「ううん。やっぱりみんなと修学旅行に行くのがよかったに決まっとる!」
そりゃそうだよな。みんなと一緒に修学旅行に行けるのがいいに決まっている。行けなかった時は、相当つらかっただろうな。でも、こうして行けるのがとても嬉しいだろうな。
「でも、その後それ以上に楽しんできたんやろ?」
「うん。やけど、やっぱみんなと一緒がええ!」
確かにそうだ。浩一はあの後、家族で京都や奈良に行ってきて、修学旅行以上にいろんな所を見て回ってきた。修学旅行に行った千沙も一緒に行った。いろいろ見て回ったけれど、みんな楽しかったな。また行きたいなと思った。
「わかるわかる!」
と、そこに同級生の川島がやって来た。川島は嬉しくてうれしくてなかなか眠れなかったようだが、しっかりと起きてここにやって来た。
「おはよう浩ちゃん」
「おはよう」
川島も興奮していた。東京は日本の首都だと聞く。どんな風景が待っているんだろう。そして、そこでどんな事を知るんだろう。川島もいつか東京に住んでみたいなと思っている。
「今日から修学旅行やね」
「うん。とっても楽しみやわ!」
川島は小学校が違うものの、浩一が小学校の修学旅行に来れなかったのを知っている。茂の策略だったというのを知っている。今回は来れたようで、ほっとした。
「それはよかった。前回は来れなかったもんね」
浩一はイライラしてきた。もうその話はやめようと言っているのに、みんなその話題を持ってくる。どうすれば忘れてくれるんだろう。浩一にはどうにもならない。
「もうその話はやめて!」
「わかったわかった」
みんな苦笑いをしている。もう言わないようにしよう。
「ちーちゃんもおはよう」
「おはよう」
千沙も笑顔で応えている。千沙も嬉しいようだ。初めて東京に来る。どんな風景が待っているんだろうか? 楽しみだな。
「いよいよ今日やね!」
「うん!」
浩一は千沙の肩を叩いた。千沙は浩一の方を向いた。
「楽しもうな!」
「うん!」
「浩ちゃん、昨日から嬉しそうで嬉しそうで」
千沙は浩一が昨日の夜から興奮していて、あまり眠れなかった事を話している。自分も興奮していて、あまり眠れなかったのに。
「浩ちゃんの気持ち、わかるわ」
「ありがとう」
と、そこに担任の大島がやって来た。大島を見て、生徒は静まり返った。
「えー、みんな集まったな!」
「はーい!」
大島は浩一を見た。浩一も今日は来ている。小学校の修学旅行には茂の策略で来れなかったと聞くが、今回は来れたようだ。
「坂井も来とるな」
「はい!」
浩一は元気に答えている。その様子を見て、大島は少し笑みを浮かべた。浩一が来てくれて、嬉しいようだ。
「今回は来れたようで、嬉しいか?」
「うん!」
浩一はとても嬉しそうだ。よかったよかった。修学旅行を思う存分楽しもう。
「今日は楽しもうや!」
「もちろん!」
そろそろ出発の時間だ。早く行こう。
「さてみんな、出発!」
「しゅっぱーつ!」
修学旅行に行く3年生は、最寄りの停留所に向かった。
「浩ちゃん、楽しそうやね!」
「もちろんやて! 初めての修学旅行やもん」
浩一の横にいる千沙は、初めて修学旅行に行く浩一が気になって気になってしょうがない。
「思いっきり楽しもうな!」
「もちろん!」
浩一は前を向いた。自分の行く先には、東京が見える。東京には夢がある。どんな風景が待っているんだろう。出発したばかりなのに、浩一はワクワクしていた。




