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そして、修学旅行の朝を迎えた。千沙も浩一もしっかりと起きる事ができた。ここまでは順調だ。問題はここからだと思っている。ちゃんと中学校にやって来て、一緒に行けるかが問題だ。だが、浩一はあまり気にしていない。
「おはよう」
「おはよう」
2人は1階にやって来た。ハルはいつもより早く起きて、朝食を作っている。2人が修学旅行で早く行くからだ。
「いよいよ今日やね」
それを聞いて、千沙と浩一は笑みを浮かべた。いよいよ今日だ。ワクワクだな。今回は絶対に一緒に行けると信じてる。2人とも元気に、時間通りに起きた。
「うん。今日は楽しもうな」
「うん」
ハルは考えていた。2にはどんなお土産を買うんだろう。そして、その中で何を感じ、どんな夢を抱くんだろうか? おそらく、浩一は東京に住む夢がもっと強くなるんじゃないかと思っている。
「東京でのお土産、楽しみにしとるで」
「ああ」
と、そこに理沙がやって来た。いつもより早く朝食を作っているので、気になったようだ。
「お姉ちゃん、浩ちゃん、楽しんできてな!」
「わかったわ」
2人とも、喜びながら食べている。修学旅行に行くのがとても楽しみなようだ。浩一にとっては初めての修学旅行だ。小学校の頃は小学校に向かう途中でトイレに閉じ込められて行けなかった。あの時は泣いていた。だけど、今回は行けるだろう。浩一は確信していた。
2人は朝食を食べ終え、歯を磨いて、早く支度を済ませた。2人とも笑みが止まらない。東京に行くのが相当嬉しいようだ。
しばらく待っていると、2階から2人がやってきた。いよいよ出発のようだ。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい!」
2人は中学校に向かっていった。理沙とハルは2人の後ろ姿を見ている。どうか、浩一が無事に行けますように。そして何より、2人が無事に帰ってきますように。
2人は一緒に歩いていた。手をつないで離さない。今回は一緒に修学旅行に行くんだ。そう思って、握った手を離さないようだ。
「一緒に行こうな」
「うん。誰かにちょっかい出されるかもしれんからね」
ふと、千沙は思った。浩一はやっぱり東京に住みたいんだな。東京って、本当に素晴らしい場所なんだな。
「東京、住みたいんやね」
「ああ。東京って、夢があると思うねん」
浩一は思っている。東京に住みたい。東京に住んで、心身共に成長して、強くなりたい。だが、千沙は寂しそうだ。こうして人は独り立ちをして、そして1人前の大人になっていくんだな。そして、私たちは離れ離れになっていくのかな? そう思うと、少し寂しくなった。だけど、耐えないと。
「そうなんだ。寂しいけど、いつかは独り立ちせんといかんのやね」
「うん」
千沙は残念がっている。自分もここを出て、独立したい。だけど、ハルがいる。ハルを支えなければならない。
「私もそうしやんといかんけど、おばあちゃんがいるさかい」
「そやね。どうしてあんな事になっちゃったんやろ」
千沙はその理由がわかっていた。雅と千尋が放火殺人で逮捕されたからだ。もし雅と千尋がいたら、そんな事にはならなかったのに。千沙は放火殺人をした両親が許せないようだ。
「お父さんとお母さんの事? 僕のためにここまでせんでもええのに」
浩一も腹が立っていた。自殺しようとした自分が悪いのに、それが原因でいじめていた子を親ごと殺して、放火したのだ。そこまでしなくても、対話による解決をすればいいのに。
「そやね。で、きつい事言うけど、死刑やろね」
千沙は思っていた。両親は死刑になるだろうな。浩一もそう思っている。もうそんな2人には会いたくないと思っている。
「確かに。あれだけの人を殺したんだもんね」
「ちーちゃん、浩ちゃん、おはよう」
千沙と浩一は振り向いた。そこには同級生の村井がいる。
「おはよう」
「今日は楽しみやね」
村井も笑みを浮かべている。修学旅行に行くのを、村井も楽しみにしているようだ。
「うん」
「東京行くの、楽しみ?」
「もちろん!」
みんな楽しみにしているようだ。自分もだ。
「それに、いつか東京に住みたいと思っとるさかい」
村井は知っていた。浩一はしばしば、東京に住みたいと思っていた。きっとこの修学旅行で、その想いがより一層強くなるのではと思っている。
「よく言っとるね!」
「だって、東京には夢があるんや!」
夢に向かって突き進む浩一は、とても目を輝かせていた。
「私も住みたいと思っとるで」
村井もそう思っている。東京って、日本の首都で素晴らしい。ここに住みたいな。
「そっか。確かに夢あるよね」
「うん。いつか私も行きたいけど、おばあちゃんがおるさかい」
村井には千沙の事情がわかった。両親が逮捕されていないし、祖父が自殺した。現在は妹の理沙、居候の坂井浩一、そして祖母のハルだけだ。ハルだけになったら大変だ。倒れたら、誰が世話をしなければならないのか。だから、千沙はここに残る事にしたんだな。
「そうだね。簡単には行けないもんね」
「それに、もっと成長するためにも、東京に行くのは必要じゃないかと」
浩一は力強く語っている。浩一は本当に東京に行きたいんだな。だから、あんなに成績がよくて、勉強を頑張っているんだな。そろそろ進路を考える時が来た。きっと浩一はレベルの高い進学校に行くんだろうな。
「そうかもしれん」
歩いていると、中学校が見えてきた。それを見て、浩一はほっとした。今回はちゃんと来れそうだ。
「あっ、もうすぐ中学校やね」
「うん。今回はちゃんと来れた!」
浩一は喜んでいる。千沙はほっとした。
「よかったね」
「ああ」
3人は校門を通り、校庭に入った。すでに何人かの生徒がいる。彼らは修学旅行に向かう3年生だ。
「おはよう」
「おはよう」
浩一を見て、一部の生徒が喜んだ。その生徒は、小学校が浩一と一緒だった子だ。浩一は小学校の修学旅行には行けなかった。とても泣いていたという。だが、今回は来れた。本当に嬉しいだろうな。
「おっ、坂井、今日は来れたんか」
「うん」
浩一はほっとしている。今回はちゃんと来る事ができた。
「修学旅行、楽しもうな」
浩一はワクワクしてきた。いよいよ修学旅行に行くんだ。東京に行くんだ。




