9
9月4日の朝、いつものように平和な朝を迎えられた。それは、浩一も一緒だ。虐待の恐怖からすっかり解放されて、毎日平和に暮らしている。それだけで、こんなに幸せだとは。これからこんな日々が続くといいな。だが、いつかは独り立ちしていくだろう。どんな大人になるんだろう。それはまだ、誰にもわからない。だが、楽しい日々を送ってほしいな。
朝、雅は朝刊を読んでいる。その中で、雅が気になっている事がある。毎週からの引き上げ孤児が佐世保に入港したそうだ。1945年の8月まであった国だ。
「満州から引き上げ孤児がやって来たんやて」
「やっと帰ってこれたんやな」
千尋は、満州に移り住んだ近所の家族が気になった。今頃、どうしているんだろうか? どこかに住んでいるんだろうか? もし、どこかに住んでいるのなら、会いに行きたいな。だけど、それはいつの事になるんだろう。もしできるなら、こっちから会いに来てほしいな。
「辛かったやろな。やっと日本に帰れてよかったんかいな?」
雅は彼らの気持ちがわかった。引っ越した国がなくなってしまったけれど、こうして帰ってこれた。これから平和な日々を送れるといいな。
「やっと帰ってきたんやな。あの人、無事に帰ってきたかいな?」
ふと、誰かに気付き、雅は横を見た。そこには浩一がいる。どうしたんだろうか? 気になる事があるんだろうか?
「あれっ、浩ちゃん」
だが、浩一は何も言おうとしない。何か気になるようだ。もし言いたい事があるのなら、話してほしいな。
「どないした?」
「なんにもないよ」
だが、浩一は言わない。その記事に興味があるんだろうか?
「何を聞いてたん?」
突然、千尋は浩一の頭を撫でた。なにも気にしなくてもいいと思っているようだ。
「何も気にせんでええんやよ。そや、絵本を読もうね」
「うん!」
そして、千尋は絵本を持ってきた。すると、浩一は笑顔になった。この子は本当に絵本が好きだな。きっといい子に育つだろうな。
と、そこに理沙がやって来た。絵本を読むと聞いてやって来たようだ。
「私にも読ませて!」
「私にも!」
その後に続いて、千沙もやって来た。理沙同様、絵本を読むと聞いてやって来たようだ。
「あらあら、結局みんな読むんやね」
「ええやん。仲良く読むのがええんやから」
今日もまた、3人のために絵本を読む事になった。いつもこんな日々だが、全く飽きがこない。どうしてだろうか? 3人が可愛いからだろうか? 千尋にはその理由がわからない。
10月8日の事だ。今日もいつもの朝が来た。それだけでとても幸せだと感じる。どうしてだろう。戦争はもうとっくに昔の話なのに。まだまだ戦争の思い出が残っているからだろうか? それとも、浩一が幸せに暮らしているからだろうか? つい最近までは幸せに暮らしていなかった浩一が、今では幸せに暮らしている。
夕方、雅はラジオに耳を傾けている。何やら重要な話のようだ。何だろう。全く想像できない。これからの日本で重要になってくるような事のようだ。
「日本国憲法が成立かいな」
雅は驚いていた。それまでの日本の憲法は、大日本帝国憲法だった。だが、来年から日本国憲法が施行される。これから日本は、平和に向かって進んでいくんだろうか?
「どんな法律やろね」
「新平民っちゅう身分がなくなるんやて」
大日本帝国憲法では、新平民という身分があった。だが、日本国憲法ではそれがなくなり、誰もが平等になるという。同じ人間なのだから、それた正しいだろう。だが、本当にみんなこんな雰囲気に慣れるんだろうか? まだ差別が続くのではと思えてくる。差別はいけないと思っているのに。
「そうなんやね。それでええやん。人間は平等なんやから」
「そやね」
雅と千尋はラジオを真剣に聞いていた。とても素晴らしい憲法だ。これから日本は、平和に向かっていく事が証明されるだろう。
「これが日本国憲法かいな」
「いよいよ新しい日本になっていくんやね」
「きっと新しい日々が始まるんやね」
2人は思った。これから千沙と理沙、そして浩一はそんな未来を歩いていく。どんな未来が待っているかわからないけれど、いい未来が待っているといいな。
「そして、千沙と理沙と浩ちゃんはそんな時代を生きていくんやね」
「きっとこれからええ時代になってくんやな」
「そやね」
ふと、2人は後ろを振り向いた。そこには千沙と理沙、浩一がいる。その話を聞いていたんだろうか? 3人はじっとその様子を見ていた。
「これからはあんたらの時代やぞ!」
千沙は呆然となった。何の事だろう。3人には全くわかっていないようだ。だが、直にわかるだろう。これからお前たちは、平和な日々を歩んでいくだろう。そして、平和な日々の素晴らしさを感じながら生きていくだろう。
「どういう事?」
「何も考えなくてええんよ。まっすぐ、明るく生きろや!」
そういって、雅は千沙を抱き上げた。突然の出来事に、千沙は呆然としている。
「そら、たかいたかーい!」
千沙は喜んだ。突然だったけど、高い高いをされると、やっぱりうれしい。どうしてだろうか?
「いつ憲法は公布なん?」
「来月3日や」
どうやら来月3日に公布されるようだ。まだ詳しくはわからないけれど、きっといい法律だろうな。
「いよいよ新しい時代になるんやね」
「ああ。楽しみやな」
千尋は理沙と浩一を見つめた。何か言いたい事があるんだろうか?
「千沙、理沙、浩一、これからはお前たちが切り開いていく時代なんやぞ!」
「えっ!?」
だが、理沙にも浩一にもわからない。
「じきにわかるわ。これからはお前の時代やで!」
彼らは呆然としていた。これからの未来の事は全くわからない。だけど、直にわかるだろう。そして、この国の素晴らしさを知るだろうな。