表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたと生きて  作者: 口羽龍
第1巻 大阪編  第1章 一緒に住む
10/36

9

 9月4日の朝、いつものように平和な朝を迎えられた。それは、浩一も一緒だ。虐待の恐怖からすっかり解放されて、毎日平和に暮らしている。それだけで、こんなに幸せだとは。これからこんな日々が続くといいな。だが、いつかは独り立ちしていくだろう。どんな大人になるんだろう。それはまだ、誰にもわからない。だが、楽しい日々を送ってほしいな。


 朝、雅は朝刊を読んでいる。その中で、雅が気になっている事がある。毎週からの引き上げ孤児が佐世保に入港したそうだ。1945年の8月まであった国だ。


「満州から引き上げ孤児がやって来たんやて」

「やっと帰ってこれたんやな」


 千尋は、満州に移り住んだ近所の家族が気になった。今頃、どうしているんだろうか? どこかに住んでいるんだろうか? もし、どこかに住んでいるのなら、会いに行きたいな。だけど、それはいつの事になるんだろう。もしできるなら、こっちから会いに来てほしいな。


「辛かったやろな。やっと日本に帰れてよかったんかいな?」


 雅は彼らの気持ちがわかった。引っ越した国がなくなってしまったけれど、こうして帰ってこれた。これから平和な日々を送れるといいな。


「やっと帰ってきたんやな。あの人、無事に帰ってきたかいな?」


 ふと、誰かに気付き、雅は横を見た。そこには浩一がいる。どうしたんだろうか? 気になる事があるんだろうか?


「あれっ、浩ちゃん」


 だが、浩一は何も言おうとしない。何か気になるようだ。もし言いたい事があるのなら、話してほしいな。


「どないした?」

「なんにもないよ」


 だが、浩一は言わない。その記事に興味があるんだろうか?


「何を聞いてたん?」


 突然、千尋は浩一の頭を撫でた。なにも気にしなくてもいいと思っているようだ。


「何も気にせんでええんやよ。そや、絵本を読もうね」

「うん!」


 そして、千尋は絵本を持ってきた。すると、浩一は笑顔になった。この子は本当に絵本が好きだな。きっといい子に育つだろうな。


 と、そこに理沙がやって来た。絵本を読むと聞いてやって来たようだ。


「私にも読ませて!」

「私にも!」


 その後に続いて、千沙もやって来た。理沙同様、絵本を読むと聞いてやって来たようだ。


「あらあら、結局みんな読むんやね」

「ええやん。仲良く読むのがええんやから」


 今日もまた、3人のために絵本を読む事になった。いつもこんな日々だが、全く飽きがこない。どうしてだろうか? 3人が可愛いからだろうか? 千尋にはその理由がわからない。




 10月8日の事だ。今日もいつもの朝が来た。それだけでとても幸せだと感じる。どうしてだろう。戦争はもうとっくに昔の話なのに。まだまだ戦争の思い出が残っているからだろうか? それとも、浩一が幸せに暮らしているからだろうか? つい最近までは幸せに暮らしていなかった浩一が、今では幸せに暮らしている。


 夕方、雅はラジオに耳を傾けている。何やら重要な話のようだ。何だろう。全く想像できない。これからの日本で重要になってくるような事のようだ。


「日本国憲法が成立かいな」


 雅は驚いていた。それまでの日本の憲法は、大日本帝国憲法だった。だが、来年から日本国憲法が施行される。これから日本は、平和に向かって進んでいくんだろうか?


「どんな法律やろね」

「新平民っちゅう身分がなくなるんやて」


 大日本帝国憲法では、新平民という身分があった。だが、日本国憲法ではそれがなくなり、誰もが平等になるという。同じ人間なのだから、それた正しいだろう。だが、本当にみんなこんな雰囲気に慣れるんだろうか? まだ差別が続くのではと思えてくる。差別はいけないと思っているのに。


「そうなんやね。それでええやん。人間は平等なんやから」

「そやね」


 雅と千尋はラジオを真剣に聞いていた。とても素晴らしい憲法だ。これから日本は、平和に向かっていく事が証明されるだろう。


「これが日本国憲法かいな」

「いよいよ新しい日本になっていくんやね」

「きっと新しい日々が始まるんやね」


 2人は思った。これから千沙と理沙、そして浩一はそんな未来を歩いていく。どんな未来が待っているかわからないけれど、いい未来が待っているといいな。


「そして、千沙と理沙と浩ちゃんはそんな時代を生きていくんやね」

「きっとこれからええ時代になってくんやな」

「そやね」


 ふと、2人は後ろを振り向いた。そこには千沙と理沙、浩一がいる。その話を聞いていたんだろうか? 3人はじっとその様子を見ていた。


「これからはあんたらの時代やぞ!」


 千沙は呆然となった。何の事だろう。3人には全くわかっていないようだ。だが、直にわかるだろう。これからお前たちは、平和な日々を歩んでいくだろう。そして、平和な日々の素晴らしさを感じながら生きていくだろう。


「どういう事?」

「何も考えなくてええんよ。まっすぐ、明るく生きろや!」


 そういって、雅は千沙を抱き上げた。突然の出来事に、千沙は呆然としている。


「そら、たかいたかーい!」


 千沙は喜んだ。突然だったけど、高い高いをされると、やっぱりうれしい。どうしてだろうか?


「いつ憲法は公布なん?」

「来月3日や」


 どうやら来月3日に公布されるようだ。まだ詳しくはわからないけれど、きっといい法律だろうな。


「いよいよ新しい時代になるんやね」

「ああ。楽しみやな」


 千尋は理沙と浩一を見つめた。何か言いたい事があるんだろうか?


「千沙、理沙、浩一、これからはお前たちが切り開いていく時代なんやぞ!」

「えっ!?」


 だが、理沙にも浩一にもわからない。


「じきにわかるわ。これからはお前の時代やで!」


 彼らは呆然としていた。これからの未来の事は全くわからない。だけど、直にわかるだろう。そして、この国の素晴らしさを知るだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ