なんか同情するぜ
さらに五年経ち、十歳になった。
この五年間ひたすら魔術しかしていない。大抵の魔術は扱えるようになったし、書庫の本は歴史以外読みつくした。
歴史は正直学ぶ必要がないと思っている。過去など必要ない!今を生きろ!
そして二つ程発見があった。
一つ目は、僕には物理攻撃が効かないということ。紙で指を切ってしまったことがあったが瞬時に傷が癒えた。
再生の仕方がキモかったのを今でも覚えている。
試しにナイフで腕を割いてみたが血は流れなかった。流そうと意識すると流れるし、流さないように意識すると流れない。血を流すか流さないかは自分自身で決められるっぽい。
何より血を物体に変換出来るみたいだ。剣を血で形作り、強固に固めると鉄剣のように固く鋭い剣が出来上がる。
二つ目は、治癒魔術には適正がないということ。母が怪我をしたとき……
「魔術ばっかりやっているのだからもちろん、治癒魔術も使えるわよね?」
「う、うん……」
「ここの傷治してちょーだい」
「分かった」
そんなことする義理はないが一応母親ではあるし、治すべきだろう。
飯を不自由なく食えるのは両親のおかげであるのは間違いない。
この傷治したら産んでくれた借りはチャラってことで。
手を傷にかざして掌に魔力を集中させる。魔力の流れを感じるが傷は癒えない。
「何やってるの! 早くしなさい!」
「今やってるよ!」
「もういい!」
僕は蹴り飛ばされた。
クソババアが!
ということがあったわけだ。
この国では義務教育という概念はないらしい。学校に通っていない僕はひたすら魔術を練習するわけだが、さすがに飽きた。というより大抵の魔術は習得した。
剣術でも練習したいところだがもちろん相手がいない。
それに努力していた分は誰かしらに見てもらいたい。
都合が良いことに最近では盗賊が多いらしいので盗賊を襲えば合法的に自分の力を見せつけられるし、剣術の練習相手にもなる。
それに親から小遣いをもらうこともないので小遣い稼ぎも出来て、一石二鳥というわけだ。
---
夜になり、僕は黒いフード付きローブを着ていた。
自分の魔術を見せつけるというのはあくまで願望だ。盗賊狩りをするついでに剣術を学んでおきたいというただの気まぐれにすぎない。
今日は襲いかかることはせずに偵察だけにしておく。
両親やメイド達の反応からすれば間違いなく自分は化け物級に強いのかもしれない。それでも、自分の力を過信して死ぬのはごめんだ。それに今まで生物と戦ったことがないので不安がある。
スラム街の路地裏から陰に潜むように接近して耳を傾ける。
「おい!新人!名前は!」
「はい!ヴァルド・ニクスです!」
和風系の名前のやつしかいないと思ったがそんなことはないようだ。この国は多国籍国家なのだろうか。
「我々は盗賊ギルドからの依頼を遂行する! お前もついて来い!」
「イエス!ボス!」
「声がデカイ!」
「イェスボス……」
「声が小さい!」
いや理不尽!
そんなことより遂行される依頼が気になる。盗賊は日頃どういうことをして金を稼いでいるのか、どのくらい稼げるのかが気になる。
盗賊集団が松明を持ち、バラバラに並び、道をゾロゾロと歩いて行く。
もはや盗賊とは思えないくらい目立っているが向かう先が街から離れた森の奥だった。森の中には基本的に何もないと思うが約一時間の移動により、着いた先には洞窟があった。
「貴様ら、静かに位置に着け!」
小声だが迫力ある声でリーダーらしき男が指示を出した。
数分後、洞窟の穴からは兎ねような耳を持つ、人間……いや人間なのか? 腰辺りにはモフモフの毬藻みたいな尻尾がある。いわゆる兎族というやつだろうか。
兎族一人に対し、盗賊二人が襲いかかり、女子供を中心に捕まえ始めた。男の兎族は対抗しようとしているが女子供を人質に「やれるもんならやってみろ!」と挑発される。
盗賊が獣族を狙う理由は明白で、おそらく奴隷として売り飛ばすのだろう。
さすがに同情するぜ……
読んで頂きありがとうございます。もしお気に召しましたら評価や感想をお願いします。