自分の価値
「お前! 昨日の帰りのあれはなんだったんだよ!」
それから僕は洸人を問い詰めた。
「帰りって……あぁ!あれね!バレちゃったぁ?」
「なんでんなこと……」
「は? お前が取ろうとしたんだろ?」
「え?」
その後も僕を煽るか「取られる方が悪いだろ?」の一点張りだった。
僕はいつも洸人を含む一緒に帰るメンバーと昼休みは過ごす。
あんなことがあったあとで洸人といるのは気まずいが他のやつと友達を辞めたいわけじゃない。
ただこいつらが僕で遊んでいるのだとしたら……そう考えてしまう。
実際あの状況でどちらかの味方をするのは質が悪い。
頭では分かっているが……信じるのが怖い。
一週間くらい経ったある部活中のことだった。
対面に並ぶパス練のときうっかりミスをしてしまった。
いつも通り「スマン!」と軽く謝った。
「…チっ! ふざけんなよ……」
明らかに今までとは違う反応だった。
静かに睨み付け敵対するように……。
ゾッとした。
なんかしたかな……
試合中も「おい! ちゃんとしろよ!」と当たりが強かった。基本僕だけに。
グループからは極端に避けられるようになり陰口をよく言われるようになった。
ムカついた僕は試合中にこかしたりスライディングしたりしてやった。
かなり気持ちよかった。
でも何も満たされなかった。
サッカー部には着替えとして使われる場所が二箇所ある。
体育館下と部室だ。
僕は体育館下組で仲良くしていたが最近は端の方で小さくなっている。
中には優しくしてくれるやつもいる。
その中の一人が僕にかけてくれた言葉があった。
『周りが嫌っても自分が生きたいように生きればいい。嫌われようが知ったことか!ってね』
それでもすぐに体育館下に居ることが耐えられなくなった。
部室組に「俺こっちに引っ越していい?」と頼んでみた。
意外にも心優しく迎えてくれた。
部室組は体育館下組と比べてかなりコミュ力が高く盛り上がるタイプが揃っている。
陰キャの僕はこの中に居るのが割としんどい。
一緒に着替えて一緒に帰る中で僕は基本何も話さなかった。
あれ?こんな喋れなかったっけ。
「さぁ頼斗のいいところを一人ずつ言っていこう!」
「パンパン」というリズムで回ってくる。
こういうときって何言えばいいんだ?ボケる?
いや割と真面目に言ってるしな〜
そうこう考えているうちに自分の番がきた。
「あー…えーと、……背が高い?」
「背が高いはないわ〜」
いや……違うこれは陰キャだからじゃない。
ノリが悪いからでもない。
怖がってるんだ。
僕は仲良かった友達から裏切られ、周りはあっち側に付き、皆いなくなった。
それがまた起こるのかもしれないと思うと吐きそうなくらい怖い。
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その後、三年になり部活を引退した。
そして三年の体育祭が始まろうとしていた。
リーダーに立候補する陽キャ達。
自分も今年も応援団をやるつもりだ。
そして団長か副団長になる。
洸人は違うブロックで団長をやるらしいので僕も応援団の中枢に立ち見返してやる。この意思は去年からの物でかなり硬かった。
そして立候補用紙を出した。
正直、三年目のベテランである僕を落とすわけがないと思っていた。
その考えは一瞬で覆された。
自分の名前が載っていなかったのだ。
決定したのはブロック長だ。
団長、副団長ができない体育祭なんてやる必要がない。
僕は体育祭をサボり受験勉強に専念した。
勉強をしていくうちに勉強のコツを掴んだ。
それからというものすべてのテストが余裕だった。
勉強の合間に運動をよくした。
これもコツを掴みかなり身体が成長した。
すべてが余裕だった。
これなら女も寄ってくる……いや女はゴミだ。
なぜこんなハイスペックになったんだ?実力は隠さないと……すべてを失う。
女性に「連絡先教えください」と言われたこともあったが話すだけでそれ以上は踏みだせなかった。
怖い……
ある日の帰り道、僕は本屋にブラっと寄った。
僕は基本的に本を読まない人間だ。
寄ったのは気まぐれにすぎない。
皆「異世界系面白い!」って言ってるけどいったい何がいいんだかサッパリ分からない。
僕はその中である本を手に取った。
「『異世界に勇者として召喚されたら人生勝ち組だった件』って舐めてんのか?」
興味だけで手を動かし立ち読みをしてみた。
「勇者……かっけー……」
圧倒的な力で人を動かし、皆からチヤホヤされる勇者という存在に憧れを抱いた。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
帰ったらアニメも観よ。
そして勇者物のアニメやラノベを観つくした。
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