【第5章:Piのトークノミクスを解剖する】 第6節:実需がなければ、Piは“ただの数字”で終わる
ここまで見てきたように、Piは非常に特殊な供給設計と価格安定構造を持っている。
だが、それだけでは「価値ある通貨」にはなり得ない。
なぜなら、通貨の本質は**“使われて初めて意味を持つ”**からだ。
どれだけ慎重に供給を制御しようとも、実際に使われる場所=実需が生まれなければ、Piは単なる“数字”にすぎない。
この節では、Piが今どこで使われていて、今後どうやって“本当の通貨”になっていくのかを考察していく。
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● 実需とは何か?
実需とは、その通貨を持つ「理由」があることだ。
単に保有しているだけでは、それはコレクションにすぎない。
たとえば、Piを持っていても使い道がなければ、仮想通貨というより「記念メダル」に近い。
だが、Piでコーヒーが買えたり、アプリの課金ができたり、人に報酬を送れるようになれば、話は変わる。
“通貨としての役割”が生まれ、そこに初めて「価値」が宿る。
これは、オンラインゲームのコインを想像するとわかりやすい。
何も買えないゲーム内コインには意味がないが、装備やアイテムが買える瞬間に、みんなが欲しがる“通貨”に変わる。
通貨も同じ。使えるからこそ意味がある。
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● 現時点での主な実需の動き
2024年以降、Piにはいくつかの“使える場面”が登場している。
最も象徴的なのは**「PiFest」**だ。
これは、Piコミュニティ主導で行われているイベントで、Piで支払いができる店舗が世界中から参加する。
2024年のPiFestでは、27,000店舗以上が参加し、飲食店、アート、教育コンテンツなど様々な商品・サービスがPiで購入できるようになった。
また、個人間での取引(P2P)も少しずつ広がっている。
SNS上で「ありがとう」の気持ちをPiで送ったり、オンライン家庭教師の報酬としてPiを受け取るケースも出てきている。
一部では、開発者が自作のサービスにPi決済を組み込み、実験的に“擬似的なdApps”として運用している事例もある。
こうした動きは、まだ全体から見ればごく一部にすぎない。
“使える場所”はあるが、“いつでもどこでも”という状況には程遠い。
実需は、あくまで点在している段階なのだ。
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● なぜ、実需は一気に広がらないのか?
理由は複数ある。
まず、インフラが整っていない。Piは現在、スマートコントラクトが実装されておらず、開発者が自由にアプリをつくる環境が不完全だ。
また、Piを本格的にビジネスで受け取るには、KYCや法的な整備が必要だが、国や地域によって法規制は異なり、導入には時間とリスクが伴う。
そして何より、使いたい人と受け取りたい人が、まだ出会っていない。
この状態を、私は“実需前夜”と呼んでいる。
Piはすでに多くの人に持たれているが、使える場所がまだ限られている。
ちょうど、クレジットカードが世に出始めたばかりのころと似ている。
「カードは持っている。でも使える店が少ない」
そんな時期を、Piは今まさに通過しているのだ。
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● 実需を加速させるために必要な3つの鍵
1つ目は、スマートコントラクトの実装だ。
これが実現すれば、開発者は自由にdAppsを作り、Piで動く経済圏を構築できる。
新しいアプリ、ゲーム、サービスが生まれ、それが実需の波となる。
2つ目は、PiUSDのようなステーブルコインの導入。
Piは価格が変動するため、商取引にはリスクがある。
ステーブルコインが登場すれば、「Piを担保にPiUSDを使う」という形で、価格変動リスクを回避した決済が可能になる。
3つ目は、“何に使えるか”が明確になること。
「Piでこれが買える」「あの店舗でも使える」といった情報が、誰でも見えるようになること。
数字ではなく、日常の中のエピソードとして語られるようになることが大切だ。
この3つが揃えば、Piの実需は“点”から“面”へと広がっていくだろう。
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● 実需が生み出すのは“価格”ではなく“信用”
最後に、誤解しがちな点をひとつ。
実需が生まれたからといって、必ずしも価格が跳ね上がるわけではない。
実需の本質は、価格を支える“土台”を築くことにある。
つまり、価格の「急上昇」ではなく、「安定」や「定着」こそが実需のもたらす成果なのだ。
Piが“日常で使われる通貨”になれば、誰かが突然売り抜けても、他の人が使い続ける。
そうして市場は動じず、価格はブレにくくなる。
“儲かる通貨”から、“使われる通貨”へ。
その道を本気で歩んでいるのが、Pi Networkなのだ。
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● まとめ
Piの本当の価値は、まだ決まっていない。
だが、それを決めるのはチャートの数字ではなく、人々の使い方だ。
Piが単なる数字から、社会で使われる「通貨」に変わる瞬間。
それは、実需が静かに広がっていく先にある。
次章では、その実需を支える“次なる鍵”──PiUSDと経済圏の構想について掘り下げていく。




