【第5章:Piのトークノミクスを解剖する】 第3節:売らない文化が生んだ“逆投機モデル”
仮想通貨市場の本質は“売り買い”である。
トークンは保有され、期待され、売られて価格が動く。
しかしPiには、他の通貨とはまったく異なる文化がある。
それが、**「売らない文化」**だ。
これは偶然でも奇跡でもない。
構造的に生まれ、時間とともに醸成された“逆投機的”文化である。
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● 投機で成り立たない、異質な経済圏
Piの最大の特徴は、価格で盛り上がらない通貨だ。
BTCが“億り人”を夢見る投資家を惹きつけたのに対し、
Piは「使う未来」に期待するユーザーに支持されている。
たとえば、こんな声がSNSやオープンチャットでは日常的に交わされている。
「Piは売らん。これは将来、使う通貨だろ」
「上がったら売るって考え方がもったいない気がして…」
「Piは自分のWeb3資産。お金とはちょっと違う」
こうした文化は、マイニングという“毎日の習慣”とともに形成された。
毎日アプリを開き、ポチッと押す。
少しずつ溜まっていくPiを、「手元にある未来通貨」として大切にする。
それは、株やFXのような“短期売買”とは真逆の姿勢だ。
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● “売らない理由”は、価格ではなく“愛着”
では、なぜここまで“売らない”文化が根付いたのか?
その理由は大きく3つある。
① 無料で手に入れたから
多くのユーザーは、Piを「お金を払って買った通貨」ではなく、
“スマホで毎日マイニングして手に入れた”通貨として認識している。
いわば、**“自分で掘り出した財宝”**だ。
それをすぐに売って手放すことに、抵抗感を覚えるのは自然なことだ。
② 未来の使い道に期待しているから
Pi Networkは、開発陣が明確に「生活の中で使える通貨」を目指している。
決済・送金・Web3ログインなど、現実的なユースケースが語られているため、
ユーザーも「Piが使える未来」に夢を持ちやすい。
この未来像が、ユーザーを「売らずに待つ」という選択に導いている。
③ 文化として根付いたから
「売るのが悪い」「Piは使うもの」という意識が、
コミュニティ内で文化として定着している。
これは、時間をかけて築かれた“心理的ロック”だとも言える。
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● 市場価格を支える“非経済的ロジック”
面白いのは、こうした“売らない文化”が、
実際の市場価格を間接的に支えているという点だ。
本来、価格は需要と供給のバランスで決まる。
だが、Piのように「売る人が少ない」市場では、供給圧が弱くなり、
価格が安定しやすくなる。
これは、いわば**“文化による価格安定”**というユニークな現象だ。
仮にPiを1ドルで買いたい人がいても、売り手が少なければ価格は崩れにくい。
この状況が、現在のPiの“1ドル前後”という価格帯を支えている構造の一部になっている。
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● この文化が、やがて“逆投機モデル”を生むか?
今後、Piがさらに使われるようになれば――
「売らない」という文化は、「使うことに意味がある」という価値観に進化するだろう。
そのとき、Piは投機ではなく、“参加型経済”を支える基軸通貨になる。
たとえば、
•お店で決済するとPiが割引される
•dAppを使えば使うほど、Piが還元される
•ロックすればステーブルを借りられる
こうした**“使うインセンティブ”が加われば、
「売らないこと」が自動的に合理的になり、文化ではなく仕組み**になる。
このとき、Piは真の“逆投機モデル”として機能し始めるのだ。
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● まとめ:Piが示す、新しいトークンのあり方
仮想通貨の多くは、「上がるから買う」「下がったら売る」で回っている。
それは「価格=すべて」の世界だ。
だが、Piは「価格≠価値」を体現している。
売られないからこそ、価値が安定し、
使いたいと思う人が増えれば、価値が自然に育つ。
これは、仮想通貨が次に進むべき「未来の通貨モデル」の原型かもしれない。
次節では、そんなPiを支える供給構造のカラクリに、もう一歩踏み込んでいこう。




