【第3章:第2節】 「なぜ“中央集権”じゃダメなのか?」
ブロックチェーンを語るうえで、必ず出てくるキーワードがある。
それが「中央集権」と「分散型(非中央集権)」だ。
一見すると堅苦しく、どこか政治的な響きすらあるが、実は私たちの生活にも深く根ざしている。
そして、Pi Networkの設計思想もこの概念に大きく影響されている。
この節では、なぜ“中央集権じゃない方がいい”のかを、できるだけ身近な視点で紐解いていきたい。
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● 中央集権とは「管理の一点集中」
まず、中央集権とはなにか?
簡単にいえば、**「情報や権限が、特定の組織や人に集約されている状態」**のことだ。
もっと身近に言えば、以下のような構図である:
•銀行:すべての取引履歴は銀行のシステムに記録され、銀行がすべてを管理
•SNS:投稿内容、アカウントの凍結、広告の内容などはプラットフォーム企業が決定
•政府:税金の徴収や補助金の配布、ルールの制定も、中央の省庁が司る
この構造は効率的だが、「信頼」や「権力の使い方」に問題が生じると、とたんに不安定になる。
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● 中央集権のリスクとは?
1.情報の改ざん・隠蔽のリスク
たとえば、誰かが銀行のデータを改ざんした場合、ユーザーはなす術がない。
公的機関であっても、内部で不正があれば、私たちはそれを確認できない。
2.システムの停止・障害のリスク
管理するサーバーがダウンすれば、全体が止まる。
サービスが使えなくなること=生活の麻痺につながるケースもある。
3.検閲や偏向のリスク
発信内容が気に入らないという理由でアカウントをBANされる。
あるいは、政治的に都合の悪い情報が“見えないようにされる”。
これらはすべて、「誰かがルールを決めて、情報を握っている」という構造ゆえの問題である。
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● 分散型とは「信頼の分散化」
それに対して、**分散型(非中央集権)**はどうか?
ブロックチェーンは、データをネットワーク上の参加者全員で共有し合うことで管理している。
1人の意志で内容を変更することはできないし、参加者の合意がないと新しい記録も追加されない。
つまり、特定の誰かに頼らず、「みんなで管理して、みんなで監視する」仕組みなのだ。
この構造には、以下のようなメリットがある:
•改ざんが非常に困難(過半数の同意が必要なため)
•誰かが倒れてもシステムが止まらない(複数ノードで維持される)
•誰でも履歴を見られる(透明性の担保)
こうした仕組みによって、特定の権力や組織に依存せず、構造そのものが“信頼を保証”する状態が実現する。
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● Pi Networkは“中間”の思想?
興味深いのは、Pi Networkが完全な分散型ではなく、段階的に中央集権から分散型へ移行していく構造を採用している点だ。
たとえば、現時点ではKYC(本人確認)やノードの審査、dAppsの開発支援など、かなり多くの部分をPi財団が管理している。
しかし、将来的にはこれをオープンソース化し、コミュニティ主導へと移行する方針が示されている。
これはいわば、**“中央集権からの卒業カリキュラム”**のようなもので、いきなり完全分散を目指すよりも、
“失敗しない分散型”を目指す堅実な設計だといえる。
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● 身近な話で例えるなら?
学校にたとえてみよう。
•中央集権:すべてのルールを先生が決める。生徒は従うだけ。
•分散型:生徒同士でルールを決め、先生はそれを支援するだけ。
もちろん、生徒だけだと混乱する可能性もあるので、最初は先生の指導が必要だ。
でも、最終的に自主運営ができるクラスになることが目標――
これが、Pi Networkのモデルに近い。
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ブロックチェーンにおける“分散型”とは、単なる技術の話ではなく、
「信頼をどう構築するか?」という哲学の話なのだ。
Pi Networkがどこまでその理想に近づけるのか。
それを見守ること自体が、すでにWeb3の実験に参加しているのだと言えるだろう。