普段怒らない人が怒るという事。
エドワード様は静かに怒っていた。
清廉の騎士と呼ばれるこの方の、怒りが広がっていくのを感じてみんな固唾を飲む。
「ジーク、フリーゼ嬢のことは二人の間のことではあるな。だけどその気もないのにダラダラと世話になっているの良くなかったである。」
「は、はい。」
そしてチラリとコチラを見た。
「セピア君にも言えることであるが、キミは一応ショコラ嬢に3回はお断りしておるな!
『もう大丈夫だから、帰っていいっすよ。』と。
その言い方もなんだかなあ、であるが。
まだキミの方がマシである。」
「は、ありがとうございます?何故それを?
ええとヤマシロが見てたんですかね?」
「うむ。あとはショコラさん自らの発言である。
『セピアには大丈夫だから帰れと言われたけど。あの死にそうな姿を思い出すとなんだか。気が済むまで付き添います。』と。アンディ殿に言っていたらしいですな!」
「ううっ。ショコラ。不憫な奴め。」
ブラッキーさんが目を押さえている。
「そしてな。こうも言っていたでごわす。
『出来の悪い弟みたいなものです。見捨てられないんですよ。強がってもう平気、って言ってるのがバレバレなんです。』とな。なにしろショコラさんは石で固められたキミを見たのでごわすから。」
「そうですか…。」
セピアさんが目をしょぼしょぼさせた。
「で、ジーク。キミはどうしたくてロージイさんの後をつけているのでござるか?」
「は、はい。あの。」
下を向いて赤くなるジークさん。
「ここに二人のお兄様もいらっしゃるし。ロージイさんに結婚を申し込みたいと。」
「……。」
予想はしていたが、絶句する。
兄達も呆れている。
セピアさんの目が吊り上がった。
「……馬鹿か。オマエは。」
エドワード様の声は地を這うようだ。
口調もいつもと違う。
その目は冷たい。
「ああ。ここまで切れたエドワード様。
久しぶりに見た…」
ケイジ兄貴が震えている。
「エリーフラワー様の毒親を、アンディ様と追い払った時以来だ。」
そんな事があったのね?エリーフラワー様のご実家はお取り潰しになったと聞いたが。
「セピア君はアンディ殿に誓った。彼女を大事にすると。これから真摯に向き合うと。
彼らはまず婚約者であったではないか。
何で横槍を入れてくるのだ。元々相手にされてもいないではないか。
それに我が妻エリーフラワーも怒っている。自分の大事な仕事仲間のフリーゼ嬢をおろそかにされていたのだからな!」
「…エドワード様…」
漂う冷気。絶対的にこの方は正しい。
ジークさんは震えている。
「最初はブルーウォーターとの境目を警備させようと思ったが、それでは生ぬるい。根性を叩き直すために元砂漠の国に行って、そこの国境を守ったらどうか。
リード様の側近である拙者の案である。」
「……!」
「そうですな。エドワード様の意見ならリード様はもちろん、アラン様もお耳を傾けるでしょう。
アンディ様だって後押しするでしょうし。」
ブラッキーさんも真面目な顔で頷く。
「あのお優しいエドワード様を怒らせるとは。
お終いだよ。キミ、謝りたまえよ。」
ラージイ兄が焦る。
この中ではアラン様の側近であるラージイ兄だけが、取りなせるだろう。
「わ、わたしは…」
ジークさんは立ってられなくて座り込んでいる。
どれだけの恐怖だろうか。
グランディの(今はブルーウォーターか)良心と呼ばれたエドワード様に見放されるという事は。
「ラージイくん。いいでござるよ。拙者も大人気なかった。
とりあえずアンディ殿と相談するでござる。
それにロージイさん。貴女はコイツにはその気は無いだろう?」
「はい!」
食い気味に答える。
「ジークさんにはまったく興味ありません!」
そしてセピアさんを見た。
「セピアさんは移り気で調子はいいけれど、仕事はちゃんとするし。
何より側にいても……安心します。
ロッキー王子やジークさんとは違って。
ねえ、私達は似たもの同士。分かり合えると思うの。
それに、あなたが死ぬんじゃないかと思った時は胸が潰れるかと…」
涙が滲んできた。
「…生きていてくれて、良かった…」
「ロージイ…」
ラージイ兄が私を見る。
「そうだね、ロージイ。」
ケイジ兄は頷く。
「ねえ、セピアさん。アンディ様に誓ったでしょ。私との事。」
「ええ!ええ。ロージイさん。」
そして満面の笑みで抱きついてきた。
私も背中に手を回して固く抱き合った。
…ああ、温かい。安心する。
「めでたいでござる!これなら結婚も間近であろうな!
拙者も祝福するでござる!
ジーク。そなたの出る幕がない事はわかったな!」
「…はい。」




