そして彼女は振り返らない。
「何の騒ぎを起こしてるんだ、リーリエ。」
そこに大股でやってきたのはブラッキーさんだ。
「あら、来たの。天誅男。」
「なんですか、それ。」
ラージイ兄がキョトンとする。
「ホホホ。セピアの一挙手一投足を見張ってね、少しでもふらっと看護師さんにちょっかいを出そうとしたら、「天誅!」「天誅!」って手刀をくらわせてるのよ。」
ホホホとリーリエさんは高笑いをする。
「当然だろ。不真面目な態度はいかん。」
ふん!と横を向く、巨漢ブラッキー。
「ええ…セピアくん…そんなにちょっかい出してるの…」
ケイジ兄の顔が怖くなる。
「貴方、ブラッキーさん。ショコラさんのお兄さんなんでしょ。セピアさんに腹を立てるのはわかります。」
フリーゼさんは冷たい声を出す。
そして周りを見回して私を見て眉を顰めた。
「…私だってショコラさんと仲が良かった。セピアさんに怒っているのは私も。」
「フリーゼ、そんな事をいうな。他所様の事情に口を出すな。」
「…そうね。ジーク兄さん。あのカタブツのアナタがコロリといくんだから。この紅の魔女様はすごいわよ。
ねえ、しっかりセピアさんに捕まっていて。
二人できっちりとくっついていてよ。
これ以上犠牲者を出さないように。」
彼女の視線は私を貫く。負の感情が私に向けられる。
どうしてよ。私が望んだ訳じゃないわ… そんな目で見ないで。
とばっちりだわ。
「フリーゼ!」
青筋を立てて怒るジークさん。
「わかってたわよ。父と母への義理で婚約を解消出来なかったことは。」
彼女の細い肩が震える。
「すまない、どうしても妹としか見れなくて。まわりからそろそろオマエと結婚しろ、というプレッシャーがすごくて。それで更にストレスになって。
……その、今回親身に看病してくれて本当に感謝してるんだ。
で、オマエを好きになろうと努力したんだが。
……すまない。」
…なんとなく察せられた。多分彼女では駄目なんだ。
何か…そういう方面の反応が。下卑た話だが。
でも何それ?
好きになろうと努力した?
……馬鹿にしてる。どこまで上から見てるの。
ガリーやヤッキーが顔を合わせて気の毒そうな表情をする。
「わかりました。もう関わりません。」
フリーゼさんの目が吊り上がる。
「ジーク兄さん、いえ、騎士ジーク様。私が貴方に差し上げたブレスレットを返してください。」
「え。」
「それは私が誠心誠意、持てる力のすべてをこめて作ったもの。」
彼女の目はじっとジークさんを見つめている。
「私の最高傑作。
そして全身全霊で持ち主への祈りをこめたもの。」
彼女の目から涙が落ちる。
「これをつけたものが怪我をしないように。」
ポタリ。
落ちて行く涙。
「無事に帰れるようにって…」
手で顔を覆って泣きじゃくる。
「フリーゼ、ありがとう。助かったんだ。このブレスレットが無ければ帰って来れなかった。
感謝している。
だから返せなんて言わないでくれ!」
焦るジークさん。
「ふふ、もうその腕輪には加護の力は…少なくとも貴方を守る力はないわ。
二度と助けてもらえないのよ。返して。」
彼女の顔は怒りに燃えている。
「そんな。」
「奇跡は二度は起こらないって事でしょう。ジークさん、返してあげなさい。」
ラージイ兄の言葉にのろのろとした仕草でブレスレットを外す。
そして手渡した。
「もう、これで…フリーゼ、キミと縁が切れてしまうのか。」
「そうね。…なんで…ジーク、あなたが泣くの。
私を疎んで避けていた癖に。
好きになろうとして努力した?そうですか。
それでも無理だった、と。
……馬鹿にするのもいい加減にして!」
「ああ、そうだな。悪かった。」
フリーゼさんはブレスレットを嵌める。
「ふふ、神獣様のおチカラかしら。自動的にピッタリと嵌まったわ。」
「フリーゼ。」
「さよなら騎士ジーク様。」
そしてトランクを引いて出ていく。
その後をリーリエさんが追いかける。
呆然と見送るジーク様。
「さ、今のうちに。」
ブラッキーさんが手招きをする。
「あのジークにロージイさんが絡まれないうちに、さ、さ。」
そうして病室に向かったのだった。




