豹変。
脱字誤字報告ありがとうございました。
狂ったように笑い続けるマージ。
「ああ、可笑しい。チルが幸せに成仏したし、もう思い残すことはないわっ!」
そしてアンディ様を見て頭を下げた。
「そういえば貴方はチルの仇を取ってくださったのですわよね?
御礼申し上げます。」
「ケッ!」
アンディ様は心底嫌そうな顔をした。
「今更何言ってんだ。気色悪い。何を企んでんだよ。」
「…何も。何もありませんわ。」
マーズの顔から表情が抜けていく。
「あの日。私が妹の死を知った時。もうシードラゴンもコハク国もどうなってもいいと思ったのです。」
そして私を見た。
「紅の美魔女殿。あなたの守護のチカラは凄まじかった。
トパーズが周りの石を取り込んで、この男を覆う殻となっていた。あんなの初めてみたわ。
こんな女ったらしのためにねえ。
……貴女程の人が。」
そうね、私はセピアさんの無事だけを願っていたの。
「守護の祈り。
無事な帰還への願い。
溢れる愛情。
……大事な人への想いで溢れていたわ。トパーズ色の光となって。」
マージは片頬をあげて笑う。
物好きだと言いたいのね。
……あんたにわかるもんですか。
セピアさんは私の心に入ってきたの。
「ロージイさん。」
セピアさんの目が私を見ている。
その目は感動のあまり揺れている。
私を抱きしめる手にチカラが入った。
「私も貴方にコハクのペンダントを渡したわね?」
マージは手を伸ばす。
「返して。」
ロッキーは身じろいだ。
「…マージ、なんで!?」
「あの時。貴方も泣いていたわ。11歳の誕生日に。
私はその前の日に妹の訃報を知ったばっかりだった。
歳下の少年の泣き顔がうっかり妹とダブったの。」
「そうだ、このペンダントをくれて私を慰めてくれた。それからは姉とも母とも慕って…」
「ふん、家族ねえ。美魔女様の前だからって。取り繕うんじゃないわ。
あれだけしつこく口説いて来たくせに。
さあ、返しなさい!」
「いやだ!何故だ!マージ!」
ペンダントを手に握りしめるロッキー。
「スネちゃま?噛んでおやり?」
ネモ様が半眼になって手を振る。
「うわっ、いたたた!痺れる!……何故だ!ネモ殿?!」
「見苦しいからだよ。」
カラン。
ペンダントが落ちた。
ネモ様のヘビがそれを拾って持ってくる。
「あ、ありがとう。」
マージが硬い表情で御礼を言う。
「ロッキー、アンタは甘ちゃんだった。
私達の甘言に踊らされた。自分が誰よりも美しく、優秀だと思いこんだ。」
「何を言うんだ!私は弟より優れているぞ!」
「ふふふ、ははは!
可哀想、可哀想な子だよ、アンタは!
リード様を見てわかったろ?自分が器量自慢できる器かって!」
彼女の言葉が砕けて乱暴になってくる。
「マージ…」
「十一歳の誕生日、アンタはシクシク泣いて、なんで自分の母上は死んだのか、僕だって誕生日をお祝いしてくれる母上が欲しいと泣いていた。
一国の王子が女々しい!しかも五年も前に亡くなったって言うじゃないか!いつまで引きずるのかっつーの!
それが第一王子なんだからね、大丈夫かこの国って思ったよ。
だけどね!妹の為に頑張って嫌なことも耐えていたのに、その妹がとっくの昔に惨殺されたって聞いたばかりの私には、可哀想に思えたのさ!ハハハ!」
泣き笑いをするマージ。
「それで姉代わりになって守ってやるのも良いかと思った。
コハクのペンダントを渡したのはね、私が持っているとアイツらに取り上げられそうだったからさ!
流石に王子様の私物なら取り上げられないだろ?」
「マージ…」
「そう、これはただひとつの親の形見なんだよ。」
先日見た映像が頭に浮かぶ。
マージとロッキーの触れ合いの日々。
一緒におやつを食べて、星を見上げて。
慈愛に満ちた彼女のまなざし。
トパーズ色、いやコハク色の目を細めて笑うマージ。
「私があの男、宰相の愛人だった事を知っている?」
「えっ!」
「アンタと結婚すればアイツから逃げられると思ってた。
でもね、アンタは思ったよりバカで。
宰相にもあの腹黒い弟にも良いように扱われて。
……気の毒で見てられなくて。」
ヒシヒシと伝わってくる。
マージの気持ちが。彼女なりにロッキーを気にかけて守ろうとしていたんだ。
ポカンと口をあけて固まるロッキー。
「アンタは哀れだ。
この女ったらしには、心配してくれる同僚や上司がいる。
尽くしてくれた馴染みの女。そしてものすごいチカラで守って、死の淵から引き戻してくれた紅の魔女。
ねえ、アンタには誰がいるの?」
「マ、マージ…」
「私はもう無理だ。降りる。アンタのお守りなんか。
アンタはきっと最後まで何が悪かったのかわかって無いんだ。」
「フン、オマエがそれを言うなって感じだな。
傀儡の王にする為に馬鹿王子を作りあげたんだろ。」
黒い悪魔が吐き捨てる。
「ネモさん、オレはこのロッキーが嫌いでね。
シンディと被るんだよ。色々と。」
「確かに!」
セピアさんが声をあげる。
「まったくです!」
ヤマシロさんも頷く。
「そうだね、嫌な既視感があると思ったら、そう言う事か。
もういいね、ロッキー君。キミの命運は尽きたよ。」
そしてネモ様は立ち上がった。




