騎士達。
次の日、思わぬ人が訪ねて来た。
「こんにちは。巡回です。最近住人が増えたとか。」
「あ!これは。ロンド様!」
以前助けていただいた、アラン様の側近の騎士様、ロンド様だった。後ろにもう1人騎士を連れている。
背が高い金髪の騎士だ。神経質そうな表情を浮かべている。朗らかなロンド様とは対象的だ。
「お久しぶりですねえ。ケイジさん。おや?妹御が来られてるのですね?」
ロンド様は相変わらず人の良い笑みを浮かべている。
茶色の目、茶色の髪。穏やかな大型犬を連想させる。
「ご無沙汰しておりますわ。ロンド様。その節はお世話になりまして。」
「今は紅き魔女様ですよね。ご評判はかねがね。
おや?そちらはダン様に、お嬢様?」
「ご無沙汰しております。今度コチラで商売をしようと思いましてな。従業員のロージイの実家に転がり込んでいるのでございますよ。」
「ははあ。なるほど。」
「ダン商会はマナカ国を拠点にされてたのでは?
失礼、私はロンドの同僚のジークと申します。」
ダン様の目が見開く。
「ジーク様と言えば!貴方は【改名様】のお一人でいらっしゃいましたか!」
ジークさんは苦笑した。
「確かに王妃様に名前をいただきましたがね。相方がやらかしましたから、冷飯を食ってますよ。」
「お父様。【改名様】って?」
「サリー。グランディのルララ王妃様はお気に入りには名前をお付けになるんだよ。
そう言う御方を【改名様】と言うんだ。
ネモ様だって、マーズ様だって。ヤー・シチ様やオー・ギン様。スケカク様。もちろんジーク様。ヤマシロ様。」
そして、一度言葉を切って、
「シンゴ様もそうだった。」
と、付け加えられた。
チクリ。
その名前を聞くと、かすかにまだ胸が痛くなる。
私が焦がれて。たまらなく惹かれて。
そして、私をとことん嫌っていた男。
「シンゴかあ、最近会ってないなあ、元気かな。」
ロンド様がからりとした笑顔で話される。
「そうですねえ。ロンド様と仲が良いですものね。」
「ジークはエドワード様と仲が良いだろ。」
「それを言うなら、ロンド様はエドワード様と遠縁じゃないですか。」
「らしいねえ。親からはっきり聞いたことはないんだ。メアリアン様の霊視でわかったんだよ。」
それを聞いたケイジ兄の顔が明るくなった。
「エドワード様はお元気ですか。以前何かとお世話になりました。」
「私がエドワード様の後任で王族の護衛をしてましたから、目をかけていただいただけですよ。
それに最近私もあまりお会いしてませんがね、御用で時々グランディに来られる時は声をかけて下さいますが。」
ジークと名乗った騎士は薄い青色の目を細めて微笑んだ。
「それで、コチラに来られる訳は?」
「……すぐお耳に入るでしょうが、毒姫ことジョセフィン様に目をつけられましてな。潰される前に逃げ込んだのですよ。」
「…ああ、それは。」
ジーク様はため息をつかれた。
「アラン様にご報告しましょうね。」
ロンド様が腕組みをされた。
「アキ姫さまを毒姫様が狙っているのは知っている。
そして、アキ姫さまは王妃様の保護下にある。お母様思いのアラン様だ。警戒して下さるでしょうな。」
ロンド様の目は鋭くなった。
騎士達は帰っていった。
ほっと肩の力を抜く。
「これでウチは騎士が巡回してくれる事になった。
良かったじゃないか、ロージイ、ケイジ。」
ラージイ兄はご機嫌だ。
「さあ、食事にしよう。」
「ラージイ様。貴方こそ文官ではかなり上の方だと聞きますよ。
とても優秀で実力で出世していったと。
アラン様の覚えもめでたいとか。ロージイは、そのご家族だ。
騎士団が巡回して下さるのはそのおかげでしょう?」
ダン様も機嫌よく杯をかさねる。
「いえ、そんな。こちらこそ大商人のダン様にロージイは守られてきました。御礼を申し上げます。
さあ、グランディで最近評判の酒ですよ、どうぞ。」
今日はみんなでお食事会をしている。
うちの三兄妹。ダン様親子、護衛三人。そして商会の中堅の職員が五人。
「いや、本当にこの酒は美味い。」
頬を良い色に染めているダン様だ。
「ええ、王妃様が目をかけている酒蔵とか。
ニホンシューとかいいますね。」
ラージイ兄の顔も赤い。
「ケイジ様にも、良い空き店舗を押さえていただいて。
明日から整えます。そして他の従業員も呼びましょう。事務長。宜しく頼むよ。」
「お任せを。」
好々爺の事務長・ビルは頭を下げた。
「つかの間の平和ですからね。アアシュラ様はすぐにアキ姫さまの次の縁談をリード様や王妃様に打診なさるでしょうから。」
年嵩の女性事務員は眉間にシワを寄せて言った。
彼女はブランと言って、彼女も長年勤めている。
サリー様には第二の母のような存在だ。
私にも良くしてくれている。彼女には歳が離れた妹さんがいたのだが、悪い男に引っかかって亡くなったらしい。
その子に面影が似てると。
「アキ姫さまはブルーウォーター公国内で嫁がれるので?」
ジャックの問いかけに、
「そうだね、アアシュラ様は平和なあの国でのご縁をお考えだ。」
ダン様は頷く。
「次の縁談も壊せ、と毒姫様は言いそうな感じよね。」
サリー様は眉間にシワを寄せる。
「まあ。お呪いは1人1回のみ、と言ってますのに。」
私がため息をつくと、
「姐さん。あの女には常識は通じねえよ。」
ヤッキーが吐き捨てる。
「そうでがす。とにかくここで身を潜めることでやんす。」
ガリーも頷くのであった。
少しずつ、「ブルーウォーター公国物語」に時間軸が追いついて来ています。
あちらも是非お読みくださいませ。
明日、そして明後日も投稿します。