彼と彼女達の事情。
チルさんも大きな爆弾を落としていってくれたものだわ。
うながれているセピアさん。
そしてマージ。白い蛇がまた彼女に猿轡を噛ませて、
手足を拘束していく。
「もうあの健気な妹さんはいなくなったからね。
コレからはキミの断罪の時間さ。」
真顔で淡々と言うネモ様が恐ろしい。
「メアリアンさん、大丈夫?
顔色悪いわよ。早く帰って休みましょう、ね?
そうだ、ミノちゃんなら来てくれるわよ。馬車をなる早で引いてもらいましょ。」
レイカさんがメアリアンさんを気遣っている。
稀代の巫女姫はぐったりとソファに身を横たえている。やはりご負担だったのね。
「凄まじかったな、魂下ろしは。」
「兄さん。」
「ロージイ、おまえ大丈夫か?あの少女の気持ちに引っ張られてないか?」
「え?」
「オマエには霊感がある。あのチルさんのあの野郎への恋心に同調してないか、って事だよ。」
「そんな事は。」
どちらかといえばセピアさんへの好感度は下がり切っている。
「レイカちゃん、少しここでメアリアンさんを休ませて「カモーン、ミノちゃあああーん!」
アンディ様を振り切って帰ろうとするレイカさん。
「ミノちゃんって…まさか?」
ラージイ兄さんが固まる。
「レイカさん。ちょっと待ってね?帰るのは。」
ネモ様が慌てている。
ドドドド。
「おや、もう来たのか。外で待っておくれ。」
廊下から顔を出していたのは。
「み、ミノタウルス〜!」
あの伝説のUMAが!半人半獣の生き物が!
「えええっ?」
兄と腰を抜かした。
椅子に座って震える。兄が抱きしめてくれた。
「初めてミノタウルスを見るの?
そりゃ怖かったろう!ごめんごめん!」
レイカさんが頭をかく。
貴女はミノタウルスの使い手だったのですか!
「ふうっ、おい。セピア。」
アンディ様が椅子に座って動けずにいるセピアさんの所へ行く。
「アンディ様…」
「いつまでもべそべそ泣いてねえで、腹をくくれよ。
俺はおまえがどこへ行っても反対はしねえ。
賛成もしねえ。」
固唾を飲んで見守る。
「やはりアンディ様はお優しいですな!」
ロンドさんの目が潤んでいる。
この人、やはり善人だわ。
彼の周りは優しいオーラで満ちている。
「その言い方、まるでエドワードだな、おまえはやっぱり血縁なんだな、ロンド。」
ロンドさんのほうを見て、
ふうっ、と息を吐くアンディ様。
「正直にいうとさ。
ロンドの方が、セピアおまえより心根が綺麗な人間で、女性もしあわせに出来るよな。」
ウンウンと頷くヤマシロさんやブラッキーさん。
そしてウチの兄。
ネモ様も苦笑している。
「て、照れます。」
顔を赤くするロンドさんだ。
「でもま、おまえはこちらの二人に恋情は持ってねえだろ。」
「はい。それは。」
「オマエの色香に惑わせられないなんて。大した御方だ。」
兄がつぶやく。
「ひ、酷いです、アンディ様。」
泣き事をいうセピアさん。
「だけどよ、」
アンディ様はセピアさんに近づき顔を覗きこむ。
「オレはオマエを気にいってるんだ。その小狡さと弱さとしたたかさをな。
暗部はな、清濁併せ持つ人間じゃなくっちゃな。」
「アンディ様…♡」
セピアさんの頬に赤味が差す。
「そうでしたわ。セピアさんが行方不明になった時、アンディ様がどんなに狼狽えたか。」
メアリアンさんが口を添える。
「本当にそうでした。あんなに憔悴しきったアンディ様を見たのは初めてです。」
「ええ。」
ヤマシロさんもショコラさんも同意している。
「アンディ様…そんなに俺のことを…」
「フン。」
私達は何を見せられているのかしら。暗部の人達のキズナの強さ?
メアリアンさんも巻き込んで。
「オマエは煮え切らないやつだ。
それがチルには歯痒かったんだろうよ。
だから少しでも…後悔しないように選べ。
グランディに残るか。ブルーウォーターに潜むか。」
「は、ハイ。アンディ様。」
何を勝手な事言ってるの!
ねえ、セピアさん。
貴方が私達を選ぶ側だと思っているの!?
馬鹿にしないで。
頭に血が昇る。思わず立ち上がる。
「やはり私は二股かけられていたんですね。」
その時の私は修羅の様な顔をしていただろう。
「いえ、私を天秤に乗せないで!」
ショコラさんは叫んだ。
「セピア!無事に帰ってきたことだし、これを返すわよ。
私を面倒に巻き込まないで!迷惑なんだから。」
彼女が胸元から封筒を出した。
「遺言書ですか。やはり彼女が持っていたのですね?」
カッとなる。
「ええっと。」
眉尻を下げて情けない顔のセピアさん。
「ほら!受け取りなさいよ!」
ショコラさんは叩きつけるように遺言書を返した。
「あら。いいじゃないの。それで。」
言い放ったのはレイカさんだ。
「だけどね、ショコラさんが気の毒だとも思う。
アレだけ親身になって世話をしてさ。
本当の身内みたいだったよ。」
「レイカさん。」
ショコラさんが泣きそうな顔になる。
「ロージイさん。
でも貴女のチカラがなかったらセピア君が助かっていなかったことも本当。
そしてきっとセピア君が好きなんだね。
病室に入って来たとき、あと少しで告白しそうだったよね。」
かあっ。
頬が赤くなる。何を言うの、この人は。
「もうさ、年貢納めなよ、セピア君。
ショコラさんもさアンタみたいな不実な男と切れれば安心よ。」
「その通りです!レイカさん!」
ヤマシロさんが拍手をしていた。
アンディ様があーあ、と言う顔をした。
だけどその表情は柔らかい。
ネモ様がニコニコしている。
「流石ですね。レイカさん。
セピア君にも響いたでしょ。
お疲れ様でした。
コレから、マージの後始末があるから、貴女とメアリアンさんはお帰り下さい。」
「そうだな、ショコラ。護衛を頼む。」
「…ハイ、アンディ様。」
そして彼女達は退出して、私は残された。
どうして?
「マージの件はアンタも乗り掛かった船だ。付き合ってもらうよ。ロージイ。
それからラージイ君。この後二人でアラン様に報告だ。いいね。」
「はい…」
「いいか。ロージイ。これからセピアとアンタの今後について話し合う。
それからマージ、オマエにはもうひとり対面してもらうぞ。」
「モゴモゴ!」
「あ、猿轡を外そうか。」
ネモ様が手を振る。ヘビが解けていく。
「ぷはっ!…誰と会わせるって?」
「…ロッキー・ロック君だよ。アンタを探してフラフラしてるところを捕まえた。
……というか、保護したかな?
行き倒れになってたからねえ。
彼、アンタとロージイの間で揺れ動いているんだってな?
さア、あの王子にもケリをつけさせなくてはな!
…ケケケ。」
高笑いするアンディ様の笑顔は、まさしく黒い悪魔だった。




