ブルーウォーターの支配者。
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兄がネモ様に平伏する。
「お初にお目にかかります…ネモ様。
私、ラージイ・ベリックと申します。」
「わ、私は妹のロージイ・ベリックでございます。」
慌てて私も頭を下げた。
目を細めてこちらを見るネモ様。
「宜しく。ラージイ君。アラン様の側近で将来有望だとは聞いているよ。リード様からもね。」
兄を見るその目は優しい。
「そ、そんな。恐縮でございます…」
そして私を見る。
打って変わって冷たい目だ。
「…占い師殿。貴女のお噂も色々と…ね。」
冷気?いやこれは怒りだ。
嫌悪感…か。
アンディ様やシンゴさんが私に見せる表情だ。
疎まれている。
……きっと、メリイさんとの事で。
足が震える。
ふっ、とその表情はかき消えた。
「ねえ、セピア君。立てるかい?」
ネモ様はセピア君の隣に立つ。
「は、はい。」
「ここでは魂下ろしには狭いんじゃないかと思うんだ。ね、アンディさん。」
ネモ様はアンディ様には気安いのね。
「そうですな。この後マージが来る。護送されてね。
…ショコラも呼びもどしたいし。
病院の応接室を使わせてもらおう。
あそこは会議室を兼ねている、そこそこ広い。
ヤマシロ、手配をしてくれ。
ブラッキー、ショコラを呼んでこい。
それからロンド、俺と二人でセピアに肩を貸すぞ?」
「ははっ!」
「アンディ様♡」
セピアさんの目が輝く。
「そう言うのいいから。」
アンディ様が顔を顰める。
本当にセピアさんはアンディ様が好きなのね。
「あの?マージ?あの女を呼ぶのですか?」
兄が恐る恐るという感じで発言をする。
私も出来れば会いたくない。私達に悪意を持っていた女だ。
「ラージイ君。魂下ろしをするのは、「チル」だ。」
「えっ!」
思わず声が出た。
「あの時の彼女…ですか?」
あの瞬く光の。10歳で落命した少女。
「ええ、あの時、貴女の水晶玉の上にいた小さな女の子ですわ…」
メアリアンさんが静かに言う。
「ここにもついて来ていますわよ。お姉さんに会いたいと。
もちろん、貴方にもね?セピアさん。」
セピアさんの顔から表情が抜け落ちる。
「…チル。」
その声は震えていた。
「セピアさん。チルは貴方が心配で。自分たちが亡くなったことで心を閉ざした貴方が心配で…ずっと留まっていたのです。貴方とマージの近くを行ったり来たりして。」
メアリアンさんはじっとセピアさんを見て、それから私にも視線を寄越した。
「…メアリアンさん、それは本当ですか?」
セピアさんの声は掠れている。
「…ええ、貴方のご両親はもうおられないけど。
アンディ様が仇を取ってくださったから、安心して消えた、と彼女は言ってますわ。
……
ご両親はね、最後までチルを守っていたのですって。」
アンディ様も真剣な顔になっている。
「あの時。忍びの里の男手は偽の情報で惑わされて、他所に行った。そして罠に落ちて挟み撃ちにあったんだ。
セピア、オマエの父親は飛び出したオマエが心配で里に残っていたんだ。
…ハイドは別の任務でな、他の所に潜っていたからな、無事だった。」
「……。」
セピアさんは石になった様に動かない。
「あの後調べたのさ。側妃達がなぜあの場所を見つけたのか。そこに金や食糧が豊富にあると吹き込んだのは誰なのか。
何故男衆達が簡単にやられたのか。
他所の国が手を回していたのではないか、とね。」
「里に裏切りものがいたと言う事ですか。」
セピア君の顔色は紙のように白くなる。
「そうだ。他所の国の間者だろ。多分ギガントの奴らだ。
グランディはあの当時ギガントの間者がたくさんいたんだ。」
アンディ様の声は硬かった。
ヤマシロさんが手を握り締めるのが見える。
それをレイカさんが痛ましそうな顔で見ていた。
ラージイ兄も難しい顔をする。
隣のギガントとはもう何回も小競り合いを繰り返して来た。
最近、白狐様とネモ様に滅ぼされるまで。
敵将の首をとったのはアンディ様だ。
改めて大物達の揃い踏みに気がつき、背中に冷たい汗が落ちる。
そしてみんなで会議室に移動した。
「さア!スネちゃま達よ!連れておいで!」
ネモ様の声で白い塊が部屋に転がりこんでいた。
これは?何?何なの?
白い蛇の塊だ!無数の蛇が何かを包み球になっている。
「きゃあっ!白い蛇の塊っ!」
思わず悲鳴を上げる。
「ロージイ、私の後ろに!」
ラージイ兄の後ろに隠れる。
「おや、そうか。君達は私の蛇を見るのは初めてかい?」
ネモ様が口もとを上げて笑った。
皆さん、何で平気なのっ!
蛇団子が解けて中から若い女がまろびでた。
これはあの女だ。シードラゴン島の…いいえ、コハク国の…。
「マージ…」
マージの口には猿轡があり、手と足は白い紐で、いや?白蛇だ!白蛇で拘束されている。
白蛇達が鎌首を上げて私を見た。
その赤い目が恐ろしい。
「ふふ、スネちゃま、そこの椅子に座らせておやり?」
ネモ様の言葉で足に巻きついている白蛇達がマージを運びくくりつける。
悪夢のような光景だ。
「す、すごい。これがネモ様のおチカラ!」
ラージイ兄さんの声が震えている。
「貴方は…人間であらせられるのか?」
それは思わず漏れた心の声だろう。
兄の表情は畏怖で溢れていた。
ネモ様の目が薄荷色に煌めく。
ふっ、と鼻で笑われた。
「良く言われます。」
それからマージの方を見るブルーウォーターの支配者。
「でもそれでウチの国に攻めようという輩は減りましたからね。
さ、マージ。ウチのスネちゃまの毒はどうだい?
軽くしか噛んでないからもう動けるだろう?
だけどね、3回噛まれたら死にいたるから、気をつけてね?」
そして薄く笑ってマージに近づく。
「キミのお仲間達は暴れてたり、許せない言動が多かったから噛まれてしまったけどねえ。」
怖い。あの御方は絶対怒らせてはいけない。
ガタガタと身体が震えてくる。
兄が私を抱きしめてくれるが、顔色は悪い。
やはり恐ろしいんだ。
雰囲気を変えたのはレイカさんだ。
「ネモさん。ではコハク国はマージ達を切り捨てたの?」
ケロリとしてネモ様に話しかけている。
どうしてこんな雰囲気で、平気で居られるのだろう?
それにこんなに怖い御方に気軽に話しかけられるなんて…。
「ええ、そうですよ。レイカさん。前政権が勝手に忍ばせた間者達だと。
メンドン国やマナカ国の抗議が凄まじかったらしいですからね、グランディに何かをしたんだ!とね。
先日もね。」
ネモ様も柔らかい表情になって、彼女に受け答えをしている。
「フン、こんな平和ボケした国。滅びてしまえば良いのよ。」
マージが口を開いた、憎々しげに。
いつのまにか猿轡は外されていた。
「ふふふ、口がきけるようになりましたのね。」
巫女姫さまが不敵に笑う。
「さあ、ネモ様。お力をお貸し下さいませ。
魂下ろしをいたしましょう。
嬉しいでしょう?『チル』さんに会えますわよ。」
「あ、あんたは?」
目を見開くマージ。
「私はメアリアン。暗部なら私の事をご存知でしょう?
『チル』さんね、今は貴女の頭上にいて貴女とお話したいと待っていましてよ。」
「…え?」
マージは絶句している。
カチャリ。。
その時、男女が入って来た。
最初いた女性と、先程ブラッキーと呼ばれていた男性だ。
二人が私をチラリと見る。
女性は半分泣きそうな顔で、男性は私を射殺すような目で見た。
まるでインクを水に落としたように、黒い不安がじわじわと広がっていく。
どう言うことなの?
チラリとセピアさんを見るが、彼の目はうつろであたりを見回している。
チルさんがどこにいるか。目で探しているようだ。
「では、始めましょう。」
巫女姫が手を広げた。




