病室にて。
馬車から降りる。
ヤマシロさんを先導にラージイ兄、私と入って行く。
ロンドさんは後ろに付いている。
「ロンド君じゃないか?」
「あれ、ジークさん。どうですか、具合は?」
ロビーでいきなり声をかけてきたのはジークさんだ。
ひとまわり痩せている。
「うん、今歩行訓練をしているんだよ。」
「そうですか。」
彼の後ろには背の高い細身の女性が立っていてこちらを、じっと見てくる。
病院のスタッフなんだろうか?
「 ! 貴方はロージイさん?!」
「ええ、ジークさん。お身体は大丈夫ですの?」
「…ま、まさか?私に会いに?」
頬を染めるジークさんだ。え?そんな勘違いをする人だった?
「違いますよ。妹は婚約者のセピア君に会いに来たんですよ、ジーク様。」
「あ!これはラージイ様。そうでしたね…」
「え!婚約者?」
「しっ、フリーゼさん、お静かに。」
ロンドさんが口に指を立てる。
「あの…ショ…は…」
さっきの女性の目が見開いている。
なるほど?病院のスタッフではなくてジークさんの関係者なのね?
そうよ、私はジークさんにはちっとも興味はないのよ?
安心してね?
「こっちへ。アンディ様とレイカさんも来てるはずですから。」
ヤマシロさんが誘導する。
「まあ、レイカさんも。お会いしたいと思ってましたわ…」
胸が温かくなった。
病室に近づく。
ヤマシロさんがノックをする。
ああ、この向こうにセピアさんが。ドキドキする。
「ヤマシロか?入ってこい。」
アンディ様の声だわ。
「失礼します。」
中に入る。
アンディ様、レイカさん!
そしてメアリアンさんも?
あとは付き添いかしら?良く似た男女が。
身に纏った気配でこの人達も影なんだな、と分かる。
……そしてセピアさんがいた。
「セピア君!」
ラージイ兄が叫ぶ。
「セピアさん!」
「ロージイさん!ラージイさんも!」
セピアさんの目が私達をとらえる。
そして満面の笑みを浮かべた。
ああ!良かった。生きている。笑っている。
視界が霞む。
「あああ、良かった、無事なんだな!」
ラージイ兄が駆け寄る。
「セピアさん…もう大丈夫なの?あ、顔がまだ少し腫れて?」
まだ後遺症があるのね。ジークさんだってやっと歩ける様になったと。
セピアさんはジークさんより酷い目にあったのだから!
ああ、本当にまた会えるなんて…。
「でも…よ、良かった。生きていて。
この目で見るまでは…安心出来なくって。」
自分の頬を涙が伝って落ちるのを感じる。
生きている。本当にもう、それだけで。
アンディ様から生死不明と聞いたときは、胸が潰れるかと思った。
私に執着しているから会いに来るはず…
と、言われて。
あれから身の回りに何か気配がしないかと。
助かったと言われて、命の危機を脱したと聞いてどんなに安心したか。
ポタポタと涙は溢れ落ちる。
「ろ、ロージイ姐さん…」
セピア君の頬に赤みが差す。
ラージイ兄さんも涙目でウンウンと頷いている。
アンディ様はチラリと横目でレイカさんを見ている。
その表情は柔らかい。
ああ、そうだ。
レイカさんにもお礼を言わなくては。
あの時も助けて貰ったし、今回だって。
「レイカさん!」
「アッハイ?」
栗色の髪を揺らして、濃い緑色の瞳が私を見る。
「お会いしたかった!」
「わ、わたくしにですか?なっ、なぜに?」
ふふ、私のテンションに引かれているわ。
キョトンとした顔にも人の良さが滲み出ている。
「先日、ランドさんにもお会いしましたの!」
「愚兄にですか?」
「とても、似てらっしゃいますのね?」
「オホホ?良く言われます。」
「あったかくて善良で。」
「よして下さいよ、照れるじゃありませんか…」
眉尻を下げて笑うレイカさん。
「お二人とも…芯からお優しくて心根が綺麗な方ですわ。側にいらっしゃると安心しますの。」
レイカさんの顔が赤くなる。
「それに、レイカさんの御尽力でセピアさんが助かったと聞いております!」
「いえいえ。私はペンダントやらを食べさせただけですから。
貴女の黄色の光…トパーズの加護が凄かったですよ。」
手を左右に振って謙遜なさる。
「でも神獣様にお願いをして下さったのでしょう?」
「アッハイ、まあ。良くご存知で。」
本当に有難う!レイカさん…
貴女のおかげですわ…
思わず抱きついてしまった。
目を丸くして驚いてらっしゃるわ。
温かい。リラさんみたいにこの人もお姉さん、という感じがする。
だから、つい口から出てしまった。
「おかげ様で、私の婚約者のセピアさんが助かりましたわ……」
今まで自分からセピアさんのことを婚約者、と公言したことはあまりない。
一応、仮だし。だけど…。
「本当だよ、セピア君!生きていてくれて良かった!」
男泣きしている、ラージイ兄。
そう、これは言っておかなくては。
「ケイジ兄もヤッキーもガリーも会いたがっているの、とても心配しているのよ…」
セピアさんの所へ行く。
そして手を取る。
「私達は似たもの同士だと、無くしそうになったら…益々、それがわかったから。」
言葉が溢れてくる。涙も止まらない。
良いんじゃないかしら、もう。
意地なんか捨ててしまおう。
…この人が私に寄り添ってくれるならば。
ずっと側にいてくれるならば。
「……ロージイ、さん…」
セピアさんの目が私をじっと見てる。
そして泣きそうな顔になる。
コンコン。
「やあ、入っても良いかな?」
「ネモさん!」
アンディ様がドアを開ける。
「キューちゃんに送ってもらったんだ。彼は帰ってしまったけど…魂下ろしに必要なチカラはたっぷりくれたから、安心してね?」
メアリアンさんが頭を下げる。
私と兄は固まった。
ネモさん?いえ、ネモ様?
あのブルーウォーターの支配者が?
ここに?
でもその特徴的な、薄荷色の目…。
魂下ろしですって?ここで?




