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気持ちを揺さぶるもの。

 ジャックはすぐ戻ってきた。手に資料を持って。

「ケイジ様、こことか、ここ。空き家がありましたが、治安とかどうですか?」

「うん、こちらはね良くないよ。何故か店が入れ替わるんだ。長続きしない。何か原因があるんだろう。

安かったろう?」

「ええ。特に事件や事故があったとは聞きませんでしたけども。きっと何か因縁があるのでしょう。

または、うーん、馬車が停めにくいとか?水はけが悪いとか。

避けた方が無難ですね。」

「こっちは、まぁまぁかなあ。どちらにしても仮住まいでそのうち、土地を買って新しい建物を建てるんだろう?」

「そうですね。ダン様はそれもお考えです。」

「じゃあ、こっちがいいよ。隣に広場がある。陸蒸気をね、もうすぐここまで伸ばすと言うウワサがあるんだ。」

「本当ですか?」

すっかりジャックは兄と打ち解けている。

随分と楽しそうだ。じっと見つめる。


「ふふ、ケイジさんは話が早い。私はね、有能な人は好きなんですよ。」

ジャックは私を見て笑った。


私を、せせら笑った?

――私を無能だと?


頭に血が昇る。


「……何ですって?」

自分の声が思ったより怒気を含んでいたことに、はっとした。

「あー、何か気に触ったなら失礼。」

そのまま、ジャックはシラケた顔になって部屋を出ていく。


部屋には私とケイジ兄が残された。


「何なの、アイツ。」

「ロージイ?」

「わた、私だって、努力してる、。」


ポタポタ。頬を温かいものが落ちていく。


「泣いてるのか?ロージイ。」

ケイジ兄が驚いている。


私自身も驚いている。ほとばしる感情が止まらない。

兄の顔を見て気が緩んだのか。


「私は、この見かけで、派手な、悪女を演じてお金を巻き上げている。

……側からみたらそうよね、確かに。

でも!それで恩恵を得てるんじゃない。――アイツだって!仕事があるのも!給料をもらえるのも!

私の稼ぎが貢献してるんでしょうが!

無能扱いされるのは許せないわ!」

「ロージイ、そんな事は言ってないと思うが。」


戸惑う兄。


「私だって、色々開発したり!話術を磨いたり!」


……何故あの男の言葉は、これほどまでに私の胸を抉るのか。


「ジャックは行き倒れだったの。私は確かに見捨てるべきだと言った。……それを知って憎んでいるんだわ。いつも当て擦りばかり言うの。」

「そう言う風には見えないがなあ。さっきのだって、悪く取り過ぎだよ。」


「に、兄さんみたいな人が良い人は、すぐアイツに騙されるのよ、……サリー様だって。」

「え?」

「アイツはサリー様に取りいってる。おべんちゃらばっかり。上手く婿に収まるつもりよ、この商会を乗っとるつもりに違いないの!

そして、そして、邪魔な私を追い出す気なのよ!」


ケイジ兄はポカンと口をあけた。


「ロージイ、考え過ぎだ。今まで頑張り過ぎたんだよ。疲れてるんだよ。何しろ毒姫に目をつけられてしまったんだ。怖かったろう。

これからは私も近くにいる。安心しなさい。」


「ケイジ兄さん!」

久しぶりに抱きついた兄の胸は温かった。

私の心の澱がなくなっていく気がする。


「……彼はシンゴ様に似ているね。感じが。お前が気にするのも、仕方ない。」

「何ですって!」


ケイジ兄の言葉は私の心の奥深くを突き刺さした。


反論しようと口を開いたとき、

「やあ、ロージイ。久しぶりだ。」


ラージイ兄が入って来た。

「おや、泣いているのかい?」

「色々あって疲れてるんだよね、ロージイ。しばらくは私達にまかせて、部屋でゆっくりしなさい。」


「そうね。おまじないを唱えることになっているものね。」


 それから三日。外に出なかった。

こんこんと眠ったり、本を読んで過ごした。

幾らでも寝れる。

「ロージイ、熱があるんじゃないか?」

「大丈夫よ、兄さん。何だかホッとしたら眠くなっちゃって。」

兄達の愛情と気遣いは乾いた石に落ちた水滴の様に、すっ、と染み込んでくる。

私の心も潤ってきた。

「すっかり角が取れたなあ。」

食事を運んで来てくれたケイジ兄が破顔した。

「三日前は尖ったイガグリの様だったぞ。

明日はダン様達が来る。大丈夫だな。」

「ええ。」


 次の日。三月の晴れた日。ダン様とサリー様がこちらに来た。

「ロージイ、良かった。マーズ様とアキ姫さまの縁談、水面下で進んでいたのが本格的に破談になったぞ。」

「お父さまが仕入れた情報通りね。アアシュラ様は気落ちされているけれど、毒姫は喜んでいるわ。

とりあえず脅威はなくなったの。」


「マーズ様のお相手はモルドール一族だ。横やりも入れられないよ。と言うより、マーズ様自身はアキ姫さまとの縁談を知らなかったんだ。自由に相手を選ばれたんだよ。」

「モルドール?」

「貴女を助けてくれた、レイカ様のご親戚なの。彼女にはグランディの王妃様が付いているわ。」

サリー様の言葉で恩人の顔を思い出した。


「アンディ様の奥方ですね。」


「そう。彼女にはアンディ様も付いている。しかも彼女はアアシュラ様お気に入りのヴィヴィアンナ様とも親しい。この縁談がひっくり返ることはあるまいよ。」


「それでもこちらに移り住まれるのですね?」

ジャックの言葉に、

「ああ、今回はこれで収まったが、また無理難題を押し付けられるとも限らないからね。

何しろ毒姫様はマナカ王のお気に入りだ。

世継ぎの王子、ミイル様もな。溺愛している妹姫だ。」


ダン様は苦虫を噛み潰したような顔をした。




「美しき毒姫様。……王の血を引いているかわからないがね。

第一側妃が王に召し上げられた時、彼女はもう身重だったんだ。」







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― 新着の感想 ―
ロージィはロージィはなりに必死で生きてきたわけですもんね。 ちょっと不憫・・・最近ずっとそう言ってる気もしますが。 おおっと、人間関係があいまいになっています。読み直してきますね。
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