誰にでも過去はある。
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「失礼。貴女、肩が重くない?」
いきなりメアリアンさんが言う。
「それは、少しは。」
ずうっとなのよ、肩凝りは。もう持病だと思う。
「それに最近以前よりも、男性に絡まれるとは感じない?
言い寄られると言うか。」
彼女の目は真剣だ。
「そういえばでがす。こないだジークさんがやたらロージイ姐さんに秋波を送っていたでがす。」
ガッキーは腕組みをする。
「あ、そうですね。私も思いました。何回かロージイには会ってる筈なのに。
初対面の様に見惚れてましたよ。」
ケイジ兄も顎に手をやり考えこむ。
「ジークがか?アイツはカタブツで、相方がハニトラにかかったときも平気だったんだが。」
アンディ様が目を見開く。
「アンディ殿。ジークはフリーゼさんが一応、許嫁というカタチだったでござる。だから身綺麗にしていた。
でも、こないだフリーゼさんとは正式に破局したと聞いたでござる。」
エドワード様の表情も硬い。
「ああ。じゃ、枷になっていた婚約話がなくなって、急に綺麗な女性が目についたってワケか?」
アンディ様がため息をつく。
「それだけではありませんわよ。ロージイさんには、ご両親が取り憑いておりますわ。悪霊になりかかっている。
それで無差別に男性を引き寄せようとしているのですわ。…良く無事だったこと。」
「えっ!」
兄も声をあげる。
「父が亡くなったのは聞いておりましたが、母もですか?」
予想はしていた。厳しいと評判の修道院に送られたと言う母。いつまで持つかしらとは思っていた。
あの母は私に敵愾心を持っていた。
あまり悲しむつもりにはなれないが…。
「ロージイ、おまえがダン様達とマナカ国に行ってすぐだ。なかなかいい出せなかったが。」
「ケイジ兄さん。」
「それでご両親はロージイさんに執着しています。
そしてこの世を恨んでいる。その負の感情は貴女にいい影響を与えてはいません。
……変に男達の情欲を掻き立てることもあったでしょうね。」
「そんな。」
メアリアンさんの目は煌いた。
「良ければ私が浄霊しましょうか。そうすれば、押さえつけられていた貴女の力も解放される。
占いも更に上手く出来るでしょう。」
「是非お願いします!メアリアンさん!
セピアを見つけてもらわないといけないんだ!!」
アンディ様は叫んだ。
「…ええ。でも良いんですか。私が浄化したらもう、カケラも残りませんよ。
何か聞いて起きたいことがあったとしても。
『魂下ろし』はランドとここには清浄な気をもつエドワード様がいらっしゃるからできるかも、ですが。」
「いいえ。」
ケイジ兄の声は冷たかった。
「『魂下ろし』は大変ご負担がかかると聞いています。
ウチの毒親の為になんて…止めて下さい。」
「ええ、私も。構いませんわ。私を歳上の殺人鬼?の変態に売ろうとした親なんて。」
「…オー・ヒゲの奴か。」
アンディ様が吐き捨てる。
「わかりましたわ。」
パァン!
メアリアン様が手を打つ。
黒いモヤが現れた。
「ご両親ですよ。」
見るだけでわかる。これは良くないものだ。
おぼろげに人の形を取っている。
パァン!
その形が崩れた。
「窓を開けろ、ケイジ君!」
アンディ様の声に兄が慌てて窓を開ける!
バンン!!バン!
そしてモヤは黒い風となり、窓から出ていった。
「これで然るべき場所に行きましたわ。」
ふうっ。
巫女姫様が息をつく。
肩が軽くなる。頭痛もなくなる。
「ははは!ロージイ。いつもあった眉間のシワが取れてるぞ!」
「姐さん、それも似合ってましたでやんすけどね!
キリッとしてて!」
兄もヤッキーも好き勝手に言うんだから。
「どうですか?」
「ありがとうございます!メアリアン様。
肩、軽いですわ。それに頭がスッキリしてきた気がします。」
ああ、この人ホンモノなんだわ…。
「チカラがみなぎってきたんじゃないかしら。
ほら、水晶球が光っていますわよ!」
ぼうっと光る、水晶球。
「姐さんの瞳と同じ、トパーズ色でがんす。」
ガリーの声には感嘆の色がある。
「やってみますわ。占いを。」
そしてカードを切る。手に吸い付く様だ。
いつもと違う、とは自分でもわかる。
手が自動で動いているようだ。
まるで何かに導かれるように、五枚のカードを選ぶ。
「過去」「少女」「怪我」「石」「金貨」
「コレはどう言う意味なんだ?」
アンディ様が噛み付く様に言う。
「…多分。大変な怪我をしています。石と…金貨が彼を守っている…」
「エドワード、これは…」
「おお、彼女はホンモノでごわすな。誰もグラッシーの金貨の話はしてませんですしな!」
「え?」
「ロージイ、セピアは海竜様の加護がついた金貨をお守りに持って行ったんだ。
だけど石?は…」
「アンディ様、ロージイが祈りを込めたトパーズのペンダントでは。」
ケイジ兄が恐る恐る言う。
「そうか!そうだったな!」
「それでは、少女、過去というのは?」
「ランドさんでしたわね。過去の因縁がある、と出ていますわ。」
「あ。そういえば聞いたでがす。」
ガッキーが声をあげる。
「セピアさんは昔、ロージイ姐さんと同じトパーズ色の瞳の少女をなくしたのでやんしょ?」
ヤッキーも頷く。
「…あの忍びの里襲撃事件か!家族同前に育った娘だな。惨殺された。」
そう、それでセピアさんは心を閉ざしたのだ。




