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ロージイの話。〜ずっとあなたが好きでした。だけど卒業式の日にお別れですか。のスピンオフ。  作者: 雷鳥文庫


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黒い影と巫女姫。

 その知らせは、いきなりもたらされた。


「ケイジ君、邪魔をするでござるぞ!」


枯れた花を処分した次の日の朝だ。

大きな声が響きわたった。

「こ、これはエドワード様ではないですか!」

ケイジ兄が飛んで行く。

「おう、久しぶりでごわすな。」

焦茶色の髪に青い目。太い眉に大ぶりの鼻と厚い唇。

大きな体。南方の人の特徴だ。


「ええ、まったく!ああ…その節はお世話になりました!」

満面の笑みを浮かべる兄。会えて嬉しそうだ。

いつもエドワード様は立派な方だと褒めていたから。

「何も世話などはしていないでごわす。」

「いえ、妹が怪我をした時、貴方の一言で車椅子を借りる事ができました。…貴方だけが公平でした。」

兄が深々と頭を下げる。


キョトンとするエドワード様。

「そんな事…あったかな?顔をあげるでござるよ。」

「ほら、ロージイ。お前もお礼を。」

促されて立つ。

何という人か。清浄で邪気がない。こんな人初めて見たわ。

「初めまして。ロージイと申します。

あの時は助かりました。心よりお礼を申し上げます。」

「おう!そなたがラージイ君とケイジ君の御自慢の妹さんか!なるほど、別嬪さんでござる!」

そしてカラカラと笑われた。

ジークさんと同じ事を言われるが彼にはまったく嫌味もいやらしさがない。


「それでな、今日は拙者は付き添いなのである。」

「へ?誰のですか?」

そこにすっ、と影が入って来た。


「…悪いね。ロージイ。アンタに聞きたいことがあるんだよ。」

「アンディ様!」

兄が悲鳴をあげた。


一瞬でまわりの雰囲気をかえる、黒い王家の影。

その姿は憔悴しきっている。

髪はボサボサで、目の下にクマがある。


「どうされたのですか?その御姿。」

ゆっくりと玄関にはいって来られた。

不吉な予感が広がる。

「なあ、ロージイ。セピアから何か連絡はないか?」

その声は地を這う様だった。


「いいえ?」

「最後に会ったのはいつだ?」

「一週間?ほどまえかしら。遠くに任務に行くから、顔を見たかったと…ジークさんという騎士様と一緒に。」

「ジークと?」

「ええ。」

「あの、アンディ様、エドワード様。どうか奥に。」

ケイジ兄が恐る恐る声をかける。

視線を感じて横を見るとリラさんがこちらを見ていた。

「…そうか。アンタもいたのか。リラ嬢。」

「ええ、アンディ様。シードラゴン島の人達との件ではお世話なりました。」

「ああ。別に職務だからな。」

と、にべもなく言い切る黒い影。

「いつも、そちらの部下のセピア様にもお気遣いいただきまして…」

「そのセピアだがね、消息を絶ったのさ。

それで情報を集めているんだ。」

深く息を吐き出す。


「えっ!」

兄もリラ様もいつのまにか来ていたヤッキーも声を上げた。


消息を絶った?そんな…。

ではアンディ様がそんなに顔色が悪いのは…。

ガクガクと脚が震えて頭が真っ白になる。


「それでアンタにアイツの行方を占って欲しいんだ。」

「そんな…」

「ロージイ、お力になろう。セ、セピアさんがそんな。」

兄の顔色も悪い。軽口をたたきながらもセピアさんを気に入っていたことは知ってる。


「とにかく、奥へ。」

「占いなんて、そんな。私にそんな事がわかるわけがっ、私にはそんなチカラはとても!」

思わず口からほとばしる。

だって私は占いと言うより人生相談で。

傷ついた女性の心の傷に寄り添うカウンセリングで!


「…いいえ。貴女にはちゃんと霊感がおありだわ。」


アンディ様の後ろからスラリとした女性が入って来た。

顔を覆うベール。黒いピッタリとした服は美しい光沢を放ち、質が良いものだとひとめでわかる。

…私の美魔女の衣装なんか、比べものにならない。

黒くウェーブがかかった髪。深い茶色のひとみは強い光を讃えている。

そして背後には護衛の騎士のような人がピッタリと張り付いていた。


栗色の髪に濃い緑色の瞳の若い男の人だ。どこかで会った?


「あ、貴女はもしや。」

ケイジ兄の目は大きく見開く。

「ふふふ。初めまして。紅の魔女さま。そしてケイジ様。私はメアリアン。ご存知かしら。」


「「メアリアンさま!」」

兄と私の声がそろう。


この方が!伝説の巫女姫。

ブルーウォーターから一歩も出なくて、占ってもらうのに何ヶ月も待つ、という。


…そして、アラン王太子様のお妃、エラ様の遠縁だと言う話だ。


そんな方がどうしてここに?

とにかく無礼がない様にしないと。



「私にはわかるわ。ロージイさん。貴女にもチカラがあるわよ。感じるの。」


そしてじっと私を見た。


「…なるほど。アンディ様、セピアさんは大丈夫ですわ、きっと。ここにはおられませんもの。」


「そうか!」

アンディ様の声は喜びにふるえた。


「あの…それは。セピアさんは無事だと、無事なんですね…」

ケイジ兄の目には涙が浮かんでいた。


「良かった…」


「貴方はロージイさんのお兄様ね?私の事を知ってらっしゃるのね。」


「お噂を少々。」

顔を強張らせて頭を下げる兄。


「ええ、私は死者の声を聞くもの。ロージイさんにセピアさんが憑いていないことは保証しますわ。」


そこでアンディ様が口を開く。

「ロージイ。セピアの野郎は俺とオマエには、執着していた。

…落命してたらきっとどちらかには会いに来るはずだ。」


アンディ様?何を言って…

セピアさんはそんなに、危険な目に?

さっきまでの漠然とした不安が現実味を帯びてくる。


「俺の所に来ていないことはもう、メアリアンさんに確認済みだ。

後はオマエの所に来ていないかと。

それを確かめに来たんだ。魂になってないのならきっと、生きている。」


「うむ、キミはブルーウォーターに入れないでござろう?だからこちらから、出向いたでござるよ。」

「エドワード様、ええ。確かに妹はブルーウォーターには入れないでしょう。

わざわざメアリアン様には御足労いただきまして。

さ、とにかく中にお入り下さいませ。」


「ふふふ、アンディ様の頼みですもの。彼は私の義弟になりますのよ。」

花の様に微笑む巫女姫。

「…えっ!」

「私の妻のレイカの兄が、メアリアンさんの夫ですからね。」

アンディ様の言葉に、メアリアンさんの後ろの彼が頭を下げた。


ああ、だから会ったような気がしたんだ。

レイカさんに似てるんだ、この人。

優しいオーラが出ている。

「ロージイさん。妹のレイカには会ったことはあるんでしょ。兄のランドといいます。」


「はい、レイカさんは恩人ですわ……」


兄の案内で一同応接室に入った。

リラ様が紅茶を入れてくれる。


「ロージイさん。セピアさんの事を占って欲しいの。貴女なら出来ますわ。」

「メアリアン様…自信がありませんわ。」


「ロージイ頼む。」

アンディ様が頭を下げてきた。

「どんな手がかりでも知りたいンだ。

まず、ジークと二人で会いに来たのか?」

「いいえ、まずセピアさんおひとりで。

リラさんとラージイ兄の婚約祝いだと…薔薇の花束をくださったのです、ね、兄さん。

少しお話しをしていたら、ジークさんと言う騎士さんが迎えに来られたのです。

それで出ていかれました。」


「話?」


「ええ、アンディ様。今度任務があるからロージイの顔を見ていこうと思ったと。

そして割と本気でロージイを口説かれて。」

「遺言書の事まで持ち出されて。びっくりしましたわ。」

「遺言書を?」

アンディ様がカップを持とうとしてやめた。

「ええ。私に預ければ良かったとか。」


はっ!


アンディ様は息を吐いた。

「アイツ、何を考えてるんだ。…馬鹿だな。

ぐちゃぐちゃな人間関係じゃねえかよ。」

そして顔を手で覆う。


「それだけロージイさんにご執心なんですわよ。」

メアリアンさんが取りなす。

「つい、売り言葉に買い言葉になったんです。

貴方はまた失うこと事を恐れている。誰にも本気になってない。だからと言って女性達の間を飛び回るのは不実と。

もちろん、私が言えたことではありません。

だけど私達は似たもの同士だと言いました。」


アンディ様は私をじっと見ている。


「すると、遺言書はアンタに預けるべきだった、オレの覚悟と本気が伝わるだろう、と。」


「そうか。」

アンディ様はポツンと言う。

「セピアはそう言ったのか。

なあ、ロージイ。今ので俺はわかった。アイツがアンタに執着する訳が。

無事に帰って来てくれさえすれば、オマエ達の付き合いには何にも、()は言わない。」


「ええっ!そうなの?…だって!」

素っ頓狂な声を上げたのはランドさんだ。


「ランドさん、とにかくセピアが生還してからでごわす。

拙者からもお頼み申す。占いをして下され。」


「…チカラを尽くします。」


そして私はカードと水晶玉を用意した。




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― 新着の感想 ―
ロージィは、メアリアンとは比べる前の問題と思っているのですよね。 時々何かを感じるけど、自分の力なんてちょっと勘がいいくらいにしか。 セピアのことを占うのはより怖くて思うようにいかないのかもしれませ…
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