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ロージイの話。〜ずっとあなたが好きでした。だけど卒業式の日にお別れですか。のスピンオフ。  作者: 雷鳥文庫


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セピア色の影。

誤字脱字報告ありがとうございます。

 次の日の早朝。九時。

「おはようございまあす!」

元気良く大きな声で、ホテルの受付にやってきたのはセピアさんだった。

「また、キミはいきなり来るな…。」

ケイジ兄も奥から顔を出す。

「ふふ、ラージイさんのご婚約おめでとう御座います。」

私に満面の笑みを見せる。

「良く知ってるわねえ。」


ニヤリと笑うセピア色の王家の影。

「アラン様の覚えもめでたいラージイさんのことですから。これは私からのお祝いです。」

赤い薔薇の花束を出して来た。


「ま、どっちかと言うとロージイさんに相応しいかな?ホテルに飾っておいてくださいな。」

「あ、ありがとう。」

手を出して受けとる。

「それで?またグランディで任務なのかい?」

ケイジ兄さんが私とセピアさんの間に入り込む。

彼がさりげなく私の手を握ろうとしたからだ。


「いえ、ちょっと遠くに行くんですよ。…だからね?

ロージイさんの顔を見ておこうかと。」

「そうなの?長い間留守にするの?」

「いえ、その予定は無いんですけど。無闇に貴女に会いたくなって。」

そっと微笑むその顔に、なんだか胸騒ぎがする。


「不吉な事を言わないでくれよ…」

ケイジ兄が眉尻を下げる。


そこに来たのはリラ様だ。

いや、リラさんだ。もうすぐ身内になるのだから様はやめてくれと言われた。

「おはようございます、セピアさん。」

「ああ!リラさん。今回はおめでとう御座います。収まる所に収まったって感じっすね。

お城は貴女みたいな優秀な侍女を失って大損失でしょうけどね。」

明るく太陽みたいに、ぱあっと笑うセピアさん。

その笑顔は屈託がなかった。


「あー、やはり良いなあ。私もすぐに結婚したくなりますねえ。

どうですか?ロージイさん。」

「うふふ、その気も無いくせに。調子いいんだから。」


セピアさんはすん、と真顔になった。

「…やだな、本気ですよ。いつまでも仮のまんまじゃねえ。」


じっと彼の目を見た。この人は多分、本心をどこか隠している気がする。

私への言葉は薄っぺらい。

派手な美貌の女に軽口を言って、表面だけの恋人ごっこをしている、みたいな気がずっとしている。


手に入るまでは甘い言葉をささやく。どこまで思わせぶりにすれば自分に落ちるだろう?と。

そんな感じが見え隠れする。


…どこか私と似ているのだ。


「セピアさん、私達はどこか似たもの同士なのよ。

ルートの恋心を煽って……それなりの気持ちで付き合って。

……自分の利益のために結婚までした私とね。」


本当に好きな人ではなく。


その時、彼の目の色が変わった。


「…ロージイさん、あんた…」

声が掠れている。


「おい。ロージイ、言い過ぎだぞ。」

ケイジ兄の顔が強張る。王家の影を怒らせたら、と肝が冷えているのだろう。


「…まいったな…」

口元に皮肉な笑みを浮かべている。

「あんたはやはり手に負えないのか。……ああ、あれはあんたに預けるべきだった。」

顔を手で覆うセピア色の王家の影。

今までの薄っぺらい好青年の仮面が剥がれたようだ。


「あれって?」

「…遺言書ですよ。ふふ。」

「え?」

緊張が走る。

「いや、そんな深刻にならないで。他の影に聞けば分かりますがね、オレらは常に書いてるンです。

もちろん、シンゴやヤマシロやアンディ様だってそうだ。いつ何があるかわからないからね。」

ぶっきらぼうに言い放つ。


「それは聞いたことはあるよ。」

ケイジ兄がつぶやく。


「でしょ?ま、定期的に書き直すんですがね。

国の外に出る特別な任務の時とかは、特に。

だから今回も書き直しました。」


はあっ。

深呼吸をして伸びをするセピアさん。


「今回の任務はちょっと遠くに行くもんですからね。」

そのくだけた態度は今までの礼儀正しい彼とは違う。

常に口元に浮かぶ皮肉めいた笑み。


これが本性なんだろう。横目で私をじっと見る。

その視線に思わぬ暗い執着心が見えた。


ええっ、この人本気なの?


「…アンディ様みたいな家族持ちは自宅に保管しますが、オレらみたいな1人モンはね、まとめて集会所に預けるんです。

だけど、恋人とかに預けるヤツもいる。

…あとは家族同様に信頼できる人とかに。

アンディ様は義理の父親に預けていたんだ、結婚前はね。」


そして向き直る。私の目を覗きこむ。


「アンタに預ければ良かった。そしたら無事に帰ろう、という気持ちになる。

それにオレの覚悟や気持ちもわかって貰えたでしょう。」

そして下を向いて笑った。


「否定しませんよ、最初は浮ついた気持ちがあったことは。

だけどね、途中からは結構本気でした。全然伝わっていなかったと思うと…なんだろう、チカラが抜けるな。」


「セピア君…」

声をかけたのはケイジ兄だ。

「ケイジさん、貴方は良い人だね。ラージイさんもそうだ。公平で。女性にも真摯に向き合って。

ふふふ、なんでそんな良い人達の妹さんがこんなに、ややこしい、頑なな人間になっちゃってんでしょうねえ。」

「おいっ!」


「良いのよ、兄さん。

そうね、貴方と一緒よ。心に色んなものを被せていなければ生きていけなかったの。

小さい頃から、男達に狙われてきた私はね。

素直で可愛い?そんなもの、とっくに捨てたわ。

心が傷付かないように、どんな嫌味もさらりと受け流すようになった。」


何故だろう、言葉が止まらない。

私も彼も傷つかないように常に本心を見せないようにしてきたんだ。

心に厚いカーテンをかけて。

何を言われても動じないように。


「貴方が女性に本気になれないのはわかった。

いや、ならないのね。あえて。

また無くすと怖いから?

だからと言ってヒラヒラと女性達の間を飛び回るのはいただけないわ。」

「 ! 」

その途端セピアさんの髪が怒りで逆立った。目も釣り上がる。


だが。


「は、はははははははは!ははっ!」

次の瞬間笑い出した。


目尻から涙を流して。


「…あんたには敵わない。ああ、本当に。最高だよ。

人の心の弱いところをこじ開けてくれちゃってさ。

ねえ、この仕事が終わったら本気で口説くから。

結婚してもらうために。」


また、そんな事を…と言いかけてやめた。

彼の目つきは真剣だ。


そしてトパーズのペンダントを胸元から取り出して見せてくる。

「このお守りを大切にしているんだ。

……オレの無事を祈って下さいね?

うん、結婚したらグランディでの仕事をメインにしてもらおう。

オレが住み込めばホテルのセキュリティは万全だよ!」


「あ、それもいいな。」

「ケイジ兄さん!」

「ははは!ははっ。」

心から楽しそうにセピアさんは笑った。


そこに。


「失礼。ここにセピアはいますか?」

「あ、貴方はジーク様!」

ケイジ兄が声をあげる。

「まあっ、本当にジーク様だわ。」

リラさんも驚きの声をあげた。

(さっきまで、私とセピアさんの鬼気迫るやりとりを聞いて隅で固まってらしたのだ。)


騎士と思われる身のこなしの人が入ってきた。

背が高い、金髪の神経質そうな。

確かジーク様だ。以前お会いした。


改名様、と呼ばれたのが嫌だったのか。

あまりこちらには顔を出さなくなった。

「失礼。ケイジ君。おや、リラ嬢か。

今回、彼…セピア君と組んでの任務なんだ。

花を持って出かけたというから、ここかと。」


そして私を見て一瞬、目が止まる。

「貴女はラージイさんとケイジ君の妹御でしたね。」

「ええ、ロージイと申しますわ。貴方はジーク様でしたわね。」

「これは、その…改めて拝見すると…噂以上だった。失礼。」

私を見てたちまち惚けた顔になる。


何度も、何度も見た光景だ。うんざりするほど。


初対面でもなかろうに。今更?


「長兄のラージイがお世話になっていますのね?」

頭を下げておく。



「すみません、ジークさん。挨拶は済みました。

行きましょう。

人の婚約者に色目使わないでくださいよ!

いくらフリーゼさんと上手くいかなかったとはいえ。

じゃ、またね。ロージイさん。」

「あ、いや、え?婚約者?」


ジークさんを押し出す様にしてセピアさんは出ていった。


薔薇は玄関に活けていたが、その花が枯れる頃、


……セピアさんが行方不明になったと知った。




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― 新着の感想 ―
うわあ、なんなんでしょうかこれは!? セピアの気持ちが爆発したような、でも、いったい? 遺言書は家族同然に預けた?ロージィに預ければよかった? うーん、彼がどうなったのか、無事に戻ってこない限りわから…
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