占いという名の相談。
「ええ、もちろんですわ。それにお久しぶりですわね。
お客様も沢山紹介していただいて。」
占いの部屋に招き入れ、椅子を勧めてシナモンティーを出す。
「美魔女の格好は…しなくていいですよね?」
ふふふ。
リラ様も笑う。
「ええ、もちろん。ああ。このお茶。落ち着きます。
私の知人にもロージイさんの占い…もう人生相談かしら。好評ですの。」
「ええ。」
私もお茶を口に運びながら答える。
「カウンセリングと思ってやっていますわ。
ここで吐き出して楽になって下さるのなら。
明朗会計で安心ですし?」
「ふふ。少しグッズをつい買ったりはしますけど。
相談料5000ギンはお安いわ。」
表情もほぐれてきたわね。
「それでどんなご相談ですか?
特別に安くしますわよ?なんてね。リラ様ならタダでいいんですよ。先日のシードラゴン島の事件ではご迷惑をかけましたし?」
「いえ、何をおっしゃるの。
ララが愚かだったから、こちらがご迷惑をおかけしたではないですか。その後ホテルにも住まわせて下さって。」
手を顔の前でふって恐縮されるリラ様。
「その方が安心でしたもの。ずっとここにいて下さって良かったんですよ。」
本心からの言葉だ。いつのまにか私は彼女を姉のように感じていた。
「…本当に貴女方ご兄妹には。特にラージイ様にはお世話になって。」
そこで薄く顔を染めて下を向く。
ふーん、やはりご相談はラージイ兄絡みか。
プロポーズをされたのかしら。
それとも?
「もしかして、ホテルで働かないか?と兄から打診がありましたか?」
いきなり本質をつくより遠回しに聞いて行こう。
「え、その。そうなる…のかしら。
新しいホテルをオープンしたいとおっしゃって。」
「ええ。」
「働き手を探している、と。住み込みで。」
そこでリラ様はお茶を飲み干した。
「ええ。兄は確かにホテルのスタッフを探してますわ。」
そこでおかわりのシナモンティーをそそぐ。
あたりに立ちこめるスパイスの匂い。
「どうぞ?お菓子もお食べ下さいな。
このクッキーはブランさんのお手製ですの。」
「いただきますわ。あの方お料理が上手ですわね。」
私も香り高いバタークッキーをつまむ。
さくさくと口の中で溶けていく。
後に残る芳醇なバターの風味。
本当にこのシナモンティーに合うこと。
「リラ様。ゆっくり考えて下さいな。
まだホテルの場所と建物の目星しかついてませんの。
これから改修とかして…オープンまで時間はかかりますから。」
ちゃんと聞いておかなくては。
「ラージイ兄は突っ走る所がありますの。
まさか、侍女をやめてホテルを手伝ってくれ、まで言ったのですか?」
「はい。」
「まああ。勝手なことを。リラ様みたいな優秀な侍女はそういませんのに。
だけど、私も一緒に働けるのは嬉しいのです。
私はリラ様を信頼してますわ。いえ、親愛の情がある、の方が正しいです。
ホテルが完成してからでいいのです。完成したホテルを見てからで。
来てくださるお気持ちになれば、できる限りの優遇をお約束致しますわよ。」
リラ様は目を潤ませた。
「ご兄妹で私の事をここまで買って下さるなんて。
嬉しいですわ。」
「では、占いは転職についてで宜しいですか?」
――どんなカードが出でも「良」とか「可」だと言い切ってみせる。
カードを出して手繰りだす。
「い、いえ。実は。恋愛の方の占いを…」
か細い声でリラ様が呟いた。真っ赤な顔をして。
ラージイ兄。やはりプロポーズしたのね?
ええ、是非是非良縁だと言い切ろう。
「そうですか。」
「私にこの先…良縁があるかどうかなんですけど。」
「え?具体的なお話があった訳ではないのですか?」
リラ様は口を手で覆う。ドキドキしてらっしゃるのね。
「ラージイ様が昨日、急に私の家にいらっしゃって。
それで、外でお茶をしたのです。」
「はあ。」
女性のアパートにひとりで?デートの約束もせずにいきなり訪問?
何やってるのよ。付き合ってもいない、女性の部屋にすんなり入れてもらえると思ったのかしら?
そりゃ、外でのお話になるわよね。
「その…転職するつもりは無いかと。」
「いきなり押しかけてそんな話をしたのですか?」
兄さんったら。何やってるの。
「そして、近いウチに貴女に縁談があるでしょう。
心づもりをしていてください。っておっしゃって。
そのまま、逃げる様に立ち去られましたの。」
頬に手をあてるリラ様。顔は真っ赤だ。
「ふうっ。我が兄ながらポンコツですわね。」
でももう兄の気持ちはちゃんと伝わっては、いる。
「それでは、占いというより事実を確認しにいらっしゃったのね…」
思わず頭を抱えた。
まったく何やってるのよ、本当に。
まずデートの申し込みをするのではなかったの?
「ええ、もしかしてラージイ様は私に、その、好意を持ってくださっているのでしょうか?」
「はい。」
仕方なくラージイ兄の代わりに私が答えたのだった。




