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潜伏。

 言われてる意味が良くわからなかった。

「オマエさんのお兄さんがやってるホテル。もとのルートの実家な。

出来ればしばらく貸切をしたいんだ。」

「え?グランディのですか?え、この国を出るのは本気なんですか?」


「そう。しばらくホテルを仮住まいにしたい。

今回は上手くかわせたが、毒姫さまは厄介だ。

占いの館は都合により休館します、としておこう。

毒姫様に聞かれたら某所に引きこもり、まじないをかけていると。」


難しい顔でこちらをみるダン様とサリー様。


「まず、貴女だけ先にグランディに行って、ホテルにこもって。」

「サリー様。」

「ジンジャー、グランディまで護衛を頼めるかな。」

「良いですよ。」

無表情にセピア色の髪の護衛は頷いた。


「ダン様。俺らも行きますよ!ネエさんを守ります。こんな得体の知れない奴なんか…」


ジャックが吼えた。


その言葉を聞いたジンジャーが、テーブルの上の重い本をジャックに放りなげる。

「うわ!何をする。」

とっさに燭台をつかって払いのけるジャック。


「ふうん、アンタ騎士あがりか?咄嗟の身のこなし。構え。マナカ国の護衛騎士まんまじゃないか。」

「はあ?」

「ジンジャー、ジャックは記憶を無くしてるんだ。自分のことはわからないんだよ。」

ダン様が眉をひそめて言う。

「オレが騎士だったと?」

自分の手を見て呆然とするジャック。


「そう見えるけどねえ。少なくともお庭番の型じゃねえし。」

「……。」

「とにかくロージイ、グランディに逃れるんだ。いいね。」



ダン様の指示ですぐにグランディ王国に向かった。

「兄さん!」

「ロージイ?」


驚くケイジ兄。


そこにすっとジンジャーが書類を渡す。

「コレをダン様から預かって参りました。

――じゃ、これで私はお役ごめんだ。またのご利用をお待ちしておりますよ。」

すっ、と消えていくジンジャー。


「ロージイ?彼は?まさかアンディ様の手のものか?」

顔を青くするケイジ兄だ。

「違うの、兄さん。ただの用心棒よ。ダン様が用意してくださって。」

「そうか。」

ホッとした顔で書類を読む兄。

みるみるその顔が強張る。


「ダイシ商会の本拠地をこのグランディに移すって?

だって長年マナカ国でやって来たじゃないか。」

「私のせいなのよ、毒姫に目をつけられて。」

兄の顔が更に強張った。


「それは穏やかじゃないな。さいわい、今客は1人だけだ。その客がたったらダン様の貸切にしよう。ここを足がかりにして新しい事務所を開設したいらしいから。

とりあえずロージイ、お前は外に出るな。

お供の護衛の人達、宜しくお願いします。」

「はい。私はジャック。こちらはヤッキーとガリー。」

「ロージイ姐さんのお兄様。宜しくお願いしますでやんす。」

吊り目で太めのヤッキーが大きな体を丸めて挨拶をする。

「私はガリーと申しやす。」

鷲鼻のガリーが口元に微笑むをうかべる。


「宜しく頼むよ、部屋割を考えよう。すぐにダン様とサリー様も来るのだろう。」

「ええ、あとは空いてるお屋敷も探します。従業員も呼びよせるので。じゃ、オマエ達頼むよ。」

ジャックはすっ、と外に消えた。


「勝手なことをして!」

私を守るんじゃなかったの?


「ロージイ、この兄も少しは剣を使えるんだ。そうカリカリするな。」

「ケイジ兄さん。」

「それにしてもな。ここにはグローリー商会がある。

お互いに顧客の取り扱いになりかねない。

だから、この国だけには来ないと言っていたのに。

それだけ事態が深刻だってことか。」

兄はため息をつきながら、椅子にどすんと腰かけた。


忘れていた!メリイさんのご実家はグランディではチカラを持つ商会だ。

グローリー商会の先代はあの、ゼルド・グローリー公爵。

私の叔母のバーバラに執着して、生き写しの私にも手を出そうとした。

そう、このホテルで。

ぶるり。

寒気がして自分で自分を抱きしめる。


「ロージイ。今のグローリー公爵のサードさんは、少しトラブルに巻き込まれて勢いを失ってるんだ。そこにダンさんが付け込めば、商機はあるだろうよ。」


ケイジ兄が淡々と話す。

「これも商売だ。どう転ぶかわからないが、また恨まれるかも知れないなア。」


気が重い。グローリー兄妹と会いたくない。

私を恨み切っている人達なんだ。

メリイさんの長兄のサードさんか。

次兄のレプトンさんはブルーウォーターにいると聞くが。



「とりあえず、ラージイ兄にも連絡する。」


頭を抱えてケイジ兄は立ちあがった。


「しかし、どうしてあっさりとマナカ国を捨てるのかな?

ロージイの事があったにしろ、あちらでの基盤は強固ものであったろうに。」

「ケイジ様。ダン様の奥方が去年長患いの末に亡くなったのはご存知か。」

ヤッキーがポツリと言う。

「奥方がご存命ならマナカ国から離れたりはなさらなかったでしょう。」

ガリーも呟く。


この二人は私よりも長くダン商会にいるのだ。

ずっと用心棒をしていたらしい。 

そういえば、ダン様と同じ時期にホテルに泊まっていたのを見た事があったような。


「それでもね、()()()()()()()()()()、輝くカケラが入った水で随分と持ったのでやんすよ。」

「眉つばですが、神獣の御神体のカケラとか。」



――それで黒い悪魔には、ますます頭が上がらないそうでがす。


ポツリとガリーがつぶやいた。


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― 新着の感想 ―
うーん、なかなか難しいことに・・・ せっかくお兄さんたちが頑張って経営しているホテル、どうなっていくんでしょう。 お兄さんたちには、努力の甲斐があると思える人生・幸せが訪れてほしいものです。 ジャック…
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