その後どうなったのか。
それから三日程メルヴィン姉妹はウチに滞在した。
怪我は少しずつ回復してるようで安心した。
時々騎士達が事情を聞きに来る。
「ロンド様。知ってることはもうみんなお話ししましたわ。」
「そうだよ、ロンドさん。リラさんは被害者なんだ。」
ラージイ兄も彼女につきっきりだ。
仕事もここから通っている。
ホテルの客室はあるが、ケイジ兄の部屋に一緒に泊まっている。
「女性専用だからな。ケジメだ。」
真面目でいい兄だ。
「そんなに邪険にしないで下さいよ。ラージイさん。万が一残党が来ないか、見張りがてら来てるんですから。
今、セピアの奴はブルーウォーターにいますからね。」
ロンドさんは困り顔になっている。
「ああ、マーズ様の結婚式か。王妃様やリード様、アキ姫様がご出席なさるとか。」
「そう、護衛はいくらでも必要です。
それにセピアは王妃様に心から忠誠を誓ってますし。」
故郷をなくしたセピアさんの仇を打ってくれたのが、アンディ様。
慰めてお菓子を下さったのが王妃様なんだそうだ。
「そういえば、あのシードラゴンの人達はどうなったのですか?」
気になる事を聞いてみた。
「ん。そうですね。結論としてはシードラゴン島に強制的に帰らされました。」
「そうだろうな。」
ラージイ兄が鼻をならす。
「あの日、あの後。アラン様とアンディ様がアイツらを海竜様の所へ連れて行った、と聞いた。」
「ええ。リード様とエドワード様と王妃様。それに白狐様とネモ様も同席されましてね。
彼奴等を締め上げたらしいのです。私はそこにいなかったのですが。」
「あー、それはね。私から説明しましょうか。私は同席してましたから。」
すっ、と入ってきたのは王家の影の1人、ヤマシロさんだ。
この人もシンゴさんと仲が良い人だ。
以前、そう言ったら、
「んー、まあ。シンゴとはねえ。仲が良いというか、ま、一時期相方だったんですよ。
私とアイツは王妃様から同時にお名前を賜りまして。
『おまえは今から、ヤマシロ。そしておまえはシンゴと名乗るが良い。』と。
どうも?前世で好きな俳優さんだったとか。」
とカラリと笑って付け加えた。
「セピアとシンゴとは仲が悪いですけどね。」
「やはりそうなんですか。」
「フフ。それだけセピアはロージイさんが好きなんですよ。」
「エッ。」
「貴女がシンゴの事が好きだったから。アイツ、シンゴに対抗意識があるんです。」
などと困った発言をした。
…シンゴさんのことは若き日の淡い憧れと恋だっただけだ。
さて、シードラゴンの王子達のその後の話を聞こう。
「リード様がまず、あのロッキー・ロック王子の心を折られたのです。
『私はグランディの第二王子。リードと言うんだ。
キミとは初対面だね?』と。
そして恐ろしく美しいお顔でニッコリとされた。
『…キミ、容姿に自信があるんだってね?ご婦人達にハニトラを仕掛けて操ろうとしてるって?』
そして顔をじっと近づけてね、
『本当に?(その程度で?)』
と真顔でおっしゃった。
……ロッキー王子は泣いちゃったよ。」
えっ。
「確かに。リード様のお美しさは別格ですからなあ!」
ロンドさんが頷く。
「ああ、最近土地神の加護をお受けになって、美貌に凄みが増したと言う話だ。」
ケイジ兄も同意した。
あのロッキー王子はナルシストでいけ好がない奴だった。
自分に女性が惚れると思いこんでいて。
「それからアラン様がアイツらの前にお立ちになり、
『私はここの王太子のアランだ。人の国で好き勝手やってくれたね?
挨拶にも来ないなんて。王族なら然るべき手続きを取ってまず王宮を訪問しないか?
キミ達がやったことはウチの国に対する密入国。それにウチの国民を傷つけた。犯罪行為だ。』と。
アイツらは平伏するやら言い訳するやら。
すると今度はネモ様がね、
『私はブルーウォーターのネモだ。キミ達がウチの国に入国する事を禁じる。
無理やりに侵入しようとしたら、白狐と神龍の結界に焼かれるだろう。』と言い放たれてね、逃げ場をなくされた。」
「はああ。」
ララ様がため息を吐く。ブルーウォーターの結界のことは彼女は良く知っているのだから。
「するとね、今度は湖から海竜様が姿を現したよ。
『シードラゴン島の痴れ者どもめ!
我がラピスラズリの神殿を破壊するとは!
オマエらなんか、知らない!
加護なんか与えるもんか!
バーカバーカ!』
とおっしゃってね。瑠璃色の光が口から放たれた。」
バーカバーカ。
随分と口が悪いと言うか、子供っぽいと言うか。
「するとですね、あのロッキー・ロック王子の髪が真っ白になり、家来たちのブレスレット、ラピスラズリと思っていたものがそれも真っ白に。
王子様が三連でジャラジャラつけていた、大粒のラピスラズリはね、砕けて弾け飛んだんですよ。」
「……ふうん。バケの皮が剥がれたって感じだな。」
ケイジ兄が腕組みをする。
「そしてね、『キミさあ。オレの子孫ってふかしてる見たいだけどさ。
まったく身に覚え無いんだけど?
オレ、これ以上小さくなれねえし。人間とは交配出来ねえよ。それにね、性別はないのよん。イヤン。』
と言われましてね。」
みんな目を丸くして聞き入ってる。
「もちろん、シードラゴンの王子は納得しなかった。
『ウチの!先祖のシーラ姫が聖なる湖に身を投げて!
それで身ごもったと!』
『シーラ?知らないー。身投げした娘さんたちはね、アタシが助けたのさ。あの水はさ、そこそこ酸性なんだよ。すぐに真水で洗ってあげてね。光で癒してあげた。
まったく手がかかるったら。
そのうちの誰かがこっそりと島を出て。
そりゃね、生贄に捧げられたら嫌になるわな。
秘密の恋人がいたらソイツと逃げるわな。
で、破局して戻ってきたら身ごもってたんだろ?
そしてアタシの子供だって嘘をこいたんだろうねえ。』
と海竜様がおっしゃられてね。」
「ふうん。ロッキー王子め。イイ気味でやんすね。」
「まったくでがんす。」
ヤッキーとガリーも頷く。
「そして今度はそこに白狐様が現れた。エドワード様を伴ってね。
シードラゴンの奴らは恐れおののいたよ。
『神獣の子孫なんかあり得ない。騙りだ。とキューちゃんが言ってるでごわすよ。』とエドワード様が言い、
『白狐のアニキが言う通りだよ。
アンタらはアタシの子孫じゃない。これからそう名乗ることは許さない!
それからね?白髪の王子よ。
オマエがあちこちの有力者の娘と結婚することはどうでも良いけどサ。
自分と結婚したら、【海竜様の加護がある。】って言うのはやめてよね。いや、やめろ。
我ら神獣を本気で怒らせるな!』とおっしゃった。」
「ふむ。容赦ない程正論だな。」
ロンドさんが頭に手をやる。
「それでその後、どうなりましたの?」
「ええ、ロージイさん。白狐様が息を吐くとシードラゴン一同は宙に浮きましてね、それを海竜様がヒレで打ちました。まるでボールを打つように。
スパーン!スコーン!と。
彼等は飛んで行きましたよ。
『シードラゴン島に送っといたよ。』
とのことです。」
「ではこれであの男達には怯えなくて済むのね。」
リラ様がほっとした顔をする。
「凄まじいお力だな。」
ラージイ兄も安堵と畏怖の表情を浮かべた。




