ダンは語る。
誤字報告ありがとうございます。
その時ガリーが顔を出した。
「ロージイ姐さん。ダン様が開店のお祝いにいらしてますよ。」
「まあ、ダン様が自ら?すぐ行くわ。」
「では、ロージイさん、またね。」
メルヴィン様が立ち上がった。
「ええ。本日はありがとうございました。またラージイ兄とお越し下さいませ。」
礼をして見送る。
「え、いえ、私達はそんなのでは。」
顔を赤くされて出て行かれた。
応接室に行くともうケイジ兄がダン様と談笑していた。
「ダン様、お久しぶりでございます。」
「おお!ロージイ。元気そうだね。
ホテルと占いの館のオープンおめでとう。
これは私からの開店祝いだ。」
それはホテルのエンブレムだった。
盾の中にバラの花があしらわれている。
それをまもるようなシルエットはライオンだ。
「サリーがデザインしたんだよ。ロージイのイメージだそうだ。」
ニコニコと。
相変わらず人好きのする笑みを浮かべてこちらを見る。
素晴らしいデザインだ。
ライオンのしなやかさ。バラの花の凛とした美しさ。
「素晴らしい!な、ロージイ。」
「ええ、早速入り口にかけますわ。ホテルのアメニティにもあしらいましょう。タオルとか。レターセットとか。」
「喜んでもらえて嬉しいよ。」
「……少しお痩せになりました?」
もちろん健康の為にはその方がいいのだが、福々しい御姿が少しスマートになっている。
促されて前の席に着席した。
「何かと忙しくてねえ。気苦労も多いんだよ。」
コーヒーをブラックで飲むダン様だ。
「サリーさんの御結婚の件ですか?」
「いやいや。」
ダン様は顔の前で大きく手を振る。
「そっちはね、順調だよ。来年の三月には式を挙げる。それと同時に、商会も合併する。
今ね、準備も進んでいるんだ。」
「それはおめでとう御座います。」
ケイジ兄と二人で頭を下げる。
「ありがとう。サリーも会いたがっているんだよ。
……1人で時々来るのは構わないだろう?
色々話相手になってやってくれないかな。」
「もちろん。」
マリッジブルーもあるかも知れないものね。
やはり高位貴族相手だと戸惑いもあるだろう。
「ふふ、カレーヌ様が割とサリーに気を使ってくださってるんだよ。」
「そうなんですか。」
ケイジ兄が驚きの表情をする。
「レプトン様とサード様はなかなか兄弟仲がよろしいんだ。それで交流があってね。
カレーヌ様とお話しする機会があったのだが。
いや、深窓のお姫様かと思ったけれどなかなかの商売人でね。前の御結婚でご苦労なさったそうなんだ、
それで新しいお菓子を共同開発にすることになったんだよ。
『個人資産は重要ですわ、いいこと?すべての稼ぎをご主人に差し出したりしてはいけませんわよ?』とおっしゃってね。
それから、『貴族社会のことは私が教えて差し上げますわ。ふふふ。私の方が歳上だけども、貴女は私の義姉になるのですものね?』と。」
「素晴らしいおかたですね!」
ケイジ兄は感服しきりだ。
相変わらずカレーヌ様のことが好きだこと。
どうしてあのかたがこんなにモテるのかしらね。
「では、気苦労とはなんですの?サリー様は未来の義妹さんに可愛がっていただいてるのですよね?」
疑問になったので尋ねて見た。
ダン様の顔が強張る。
「ロージイ。これを見たことあるかい?」
コトリ。
目の前に置かれたのはあのラピスラズリのブレスレットだった。
「これは!やはり出回っているのですか。これを貰った娘さんがいましたわ。男に騙されて。」
「やはり知っていたか。
これはね、シードラゴン島の王子という御方がウチに売り込みに来たのさ。
お供を沢山引き連れて。秘宝を特別にお分けする、と言ってね。
彼は確かに立派なラピスラズリのブレスレットをつけていたよ。それはそれは見事なものを、三連でね。」
「ええ。」
「確かにウチも以前はシードラゴン島との商売を考えた事はある。だけど特産のラピスラズリはもうクズ石しかないとわかってね。
やめたんだ。それが10年前。」
「そうなんですか。」
「確かに彼は本物の王子だ。面影があったよ。
随分と困っているのかと思い、買い取って差し上げようか、と思ったけれど。
そのブレスレットも粗悪品ときたもんだ。王子様のものこそ凄いがお供の人達のブレスレットはやはり三級品だとわかったよ。
……まあお付き合いで五つだけ引き取った。
御不満そうだったけどね。」
「……。」
「そしてね、自分には海竜の加護がある。マナカ国のマキ姫には断られたが、
『この際そなたの娘で良い。まだ結婚はしていないのだろう?』と言い出したんだ。」
「何ですって!」
馬鹿も休み休み言えときたもんだわ。
「つまり、ダイシ商会のお金が目当てなのですか?あまりにも馬鹿にしている。」
ケイジ兄も声を振るわせて怒っている。
「本当に。上から目線でな。
商人なんかどうにでもできると思っておいでだ。自分の美しさに自信がおありのようなのだが。」
そこでダン様はため息をついた。
「お美しいのですか?」
ケイジ兄の問いかけに、
「いや。リード様の足元にも及ばないよ。あれが麗人というものだ。」
ああ、リード様は確かにお美しい。神がかった美しさだ。土地神に愛されていらっしゃると聞く。
「断ったらお付きに凄まれたよ。第二夫人でもいいからとそちらから差し出すところを、正妃にしても良いとおっしゃってるのだから、と。」
それは大ごとではないか。
「何しろ他所の王族だ。ウチの護衛も、手を出しあぐねて困っていたらね、そこに入ってきたのがセピアさんとヤマシロさんだ。」
「王家の影が?」
「うん、マナカ国からつけてきたらしいよ。
アンディ様に様子を見に行けと言われたと。マキ姫さまにシードラゴン島の王子が求婚したと聞いて。」
ダン様は嬉しそうにアンディ様の名前を口にした。
「まああ。」
「グランディ国で勝手なことをしてもらっては困る。
私たちはグランディ王家の影だ。
ここはシードラゴン島ではない。うちの国民をおどしたな?
それに安物の腕輪を高値で売り付けてるな?
今までの貴方達の行動でアラン様がご不快に思われているんだ!と、彼らを追い払って下さった。」
「それは……良かったです。」
応接室のテーブルにはラピスラズリのブレスレットが鈍く光っていた。
「ダン様。これは良くないものです。手放したほうがいいですわ。」
「そうっすね、こないだのものはウチの神獣様、白狐さまの怒りに触れて浄化されましたよ。」
そう話しながら入って来たのは。
「セピアさん?」
「やあ。ロージイ姐さん。お久しぶり。寸暇を惜しんで会いに来ましたよ。」
セピア色の髪と目の色をした王家の影は、私にウインクをして微笑んだ。




