ブレスレット。
「そのブレスレットを拝見しても?」
「ええ。」
ラピスラズリのブレスレットを手に取る。小さな正方形の板の形に加工されたラピスラズリのビーズ。間に入っているのは小さめの水晶の丸いビーズか。
「真四角の板状とは珍しいですね。だいたい丸玉でしょう。
…ああ、このラピスは、ソーダライトかハウライトを染めたものですか。」
「えっ?」
「本物のラピスラズリではないのですよ。色が不自然です。ラピスには白い部分やパイライトの金色が混じったりしますけど、ホラ、ここ。白い部分を染めたかんじがありますね。」
「ホントだわ。」
眉を顰めるメルヴィン様。
「ではこれは偽物?」
「うーん、ラピスラズリでは無いという訳で。コレをラピスラズリとして売られたら問題ですけども、パワーストーンのブレスレットとしてはそれなりに。
ちゃんと天然石を使っている訳ですから。
染色するのは他の石、瑪瑙なんかでもよくありますわ。」
まがいものとは。
ガラス玉とか、木を染めたものとか、ラピスや他の石の粉末を練って成形して着色したとか、そういうものである。
「そうなのね。」
「ララ様も騙されたと思いますよ。高価なラピスラズリと思っていた。」
「……どっちにしろロクでもない奴と関わってるのね、
」
「彼女の居場所を占ってみましょうか。」
「お願いします。」
カードを手元に持つ。
「タロットともトランプとも違うのね?」
「私のオリジナルですわ。」
「妹さんの生年月日を書いて下さいね…」
それに元にまたカードを捌き、メルヴィン様に一枚引いてもらう。
「この絵は。花と石と、そして瓶?」
何だろう。この嫌な感じ。
黒いもやもや見たいなのが時々見える。薄くだが。
ラピスラズリの方から流れてくる?
「これはあまり良くないものです。」
「…カードが?」
「いえ、このラピスラズリの、便宜上これをラピスラズリと呼びますが…このブレスレットから。」
私にはあまり霊感はないけれど、毒姫の時以来少し悪い気配を感じるようになったのだ。
「……出来れば手放すことをオススメしますが、妹さんの手がかりかも知れませんけどもね。
それでこのカードの瓶なんですが、薬瓶だと思います。」
「え?」
「…どこか病院にいるのでは。」
メルヴィン様の顔色が悪くなった。
「……花と石。石はこのブレスレットのことかしら。
花はお見舞い?」
「ええ、そうかも知れません。ダメもとで若くて身元がわからない女性がいないか、いくつか病院に当たって見ることをオススメしますわ。」
本当に入院していたならば、親族に連絡があるだろう。
そうでなければあまり良い状態では無いかも知れない。
「……私、実は妹はもう儚くなっているのでは無いか、と覚悟していたのです。
でも、病院にいるかも知れないのですね。」
「そうですよ、メルヴィンさん。連絡が無いと言うことは仮名を名乗ってるだけかも知れません。」
とラージイ兄がいい、
「ええ、またはちゃんと治療費を払っていて、親族を呼び出さずにすんでいるのかも。」
ケイジ兄もいう。
「明日にでも騎士団にいって病院の見回りをしてもらいましょうか。」
ラージイ兄の言葉に頷くメルヴィン様だ。
みんなわかってはいるのだ。もし入院していたら、意識不明か、悪い仲間が横についていて連絡を遮断してるのでは無いかと。
多分、ちょっと大き目の病院を形だけ何件か当たるだけだろう。
見つかるとは思えないが彼女の心の安寧にはいいだろう。
「セピアさんがいればご相談してみたのだが。」
「ケイジ兄さん。王家の影がそんな個人的なことを。」
「でも、噂はご存知かも知れないよ。身元不明の女性とかの。」
ぽたぽた。
メルヴィン様が涙を流していた。
「ありがとうございます……皆様がこんなに親身になって下さるとは。」
ああ、この人はずっと1人で辛かったのだ。
妹のことが心配でたまらなくて。でも許せなくて。
「さあ、御夕食ができましたよ。皆様いかがですか。」
ガーデン夫人が顔を出す。
「そうか。メルヴィンさんもどうですか?」
ラージイ兄の誘いに
「いいえ、そんな。」
メルヴィン様は手を振って断った。
「良いじゃないか。ガーデンさんのシチューは絶品ですよ。」
「帰りはラージイ兄が送ってあげるんでしょう?」
「ああ、ロージイ。もちろん。」
「で、では。本当に宜しいのですか?」
「ええ。」
ラージイ兄が優しく微笑む。
そして彼女は食事して帰っていった。
送るのはラージイ兄だ。
二人の背中を玄関で見送る。
「ラージイ兄はメルヴィン嬢に気があるのかな。」
ケイジ兄が薄く笑う。
「さあ。嫌ってはいないようだけど。」
「半分はオマエの為だと思うな。」
「え?」
「多分、口コミでお城の侍女達にオマエの評判が広がるよ。商売繁盛だな。」
「そうね。早くホテルの改装が終わらないかしら。」
「そうだな。女性専用ホテルがあちこちにあれば、ララさんとやらもそこに泊まっていたかも知れないな。
ま、ラージイ兄にはあのお姉さん、似合いの相手だよ。真面目そうだし。」
鼻歌を歌いながらケイジ兄は自室に戻っていった。
私はカードの意味。花と石について不吉な予感があった。
―――墓石とそこに手向ける花のイメージが。
まとわりついて離れない。
いや。頭を振ってそれを追い払う。
ただ単に、墓場の近くの病院かも…
――知れないのだから。




