姉の気持ち。
テーブルの上でカードを手繰る。
水晶玉の近くに燭台を置き、蝋燭に火をともす。
ただようシナモンティーの香り。
「さあ、椅子に深くお座りになって。ゆっくりと力をお抜きにください。どうぞお話下さいませ。」
「……。」
躊躇っている。話出すのをじっと待つ。
「妹が……最近様子がおかしくなって。」
「はい。」
「仕事にも、行かなくなりましたの。」
「どんなお仕事を?」
「お城の侍女の……見習いを。」
ああ、そうなのか。あれから何年か経ってやっとお城の侍女試験に受かったのか。
「そうでしたか。」
「貴女程、優秀じゃなくて。」
「…私は、家庭の都合で卒業前に受けましたから。本来なら卒業して一年くらい専門にお勉強して、それから受かるのは普通ですわ。」
「……そう、かしら。」
「ええ。」
私はグローリー公爵に色々と根回しされたのだ。
「それで、私ではなくて他の人に指導を頼んだの。」
「そうですか。今も新人のご指導をされていらっしゃるのですね。ご立派ですわ。」
……ふっ。
「メルヴィン様?」
苦笑した彼女に声をかけた。
「あの子は私を軽く見ていたの。私の見かけがこんなだから。」
「どう言うことですか?」
眉間にシワがよる。妹のララさんは確かに人目を引く美人だか、だからといってメルヴィン様が取り立てて不美人だと言うわけではないのに。
「あの子の方が綺麗なのは事実だからいいのよ。
チヤホヤされて自意識過剰になったのね。自分の方が私より上だと思っていた。私が出来ることなら自分も簡単に出来ると。」
「リラ・メルヴィン嬢。私は妹御のララ・メルヴィン嬢を拝見したことはあるがね。」
ラージイ兄が口を出す。
「失礼だが、アレくらいの美人ならどこにでもいるではないか。それより侍女試験をトップで受かったキミの方が素晴らしいと思うが。」
「ラージイ様。」
メルヴィン様の顔に赤味がさす。
「それでララ様は現実を見たのですね。お姉さまが簡単に受かったように見えた試験に、なかなか受からず。しかも優秀な指導係でいらっしゃる。
なのに自分はと。
多分他の方にもお姉さまと比較された。
それで拗ねてお仕事を放棄された。」
「ええ、でも悪い友達がいるみたいで。あの子寮の部屋にも帰ってこなくて。」
メルヴィン様の顔色は悪い。
「新人の侍女は一年間は寮生活ですものね。」
「そして、先週とうとう出奔しました。もう侍女は首ですわ!」
「それは、ご心配ですね。」
ヒザの上のハンカチをぎゅっと握りしめているのが見える。
「……仕事中の私の下宿にあの子は忍びこみました。管理人に妹だと言って堂々と。
そして部屋にあるだけの現金と貴重品を持ち出しましたの。」
「それは。」
何と言う事だろう。
「うちの実家は貧しくて。妹の学費を出してあげたのもその為なのに。たいして現金があるわけないってわかっていなかったのかしら。」
顔を覆うメルヴィン様。
「……そうでしたか。」
彼女には気の毒だが、その手の話は山程あるのだ。
借金を背負わされなかっただけでも良かったと、思うしかあるまい。
「…不幸中の幸いなことに隠し口座は見つかりませんでした。引き出しを二重にして鍵は持ち歩いていますから。まあスズメの涙くらいしか入っていませんけども。」
「それは、ようございました。」
「…治安部隊の騎士団に届けなかったのか?」
ラージイ兄が腕組みをする。
「下宿の管理人にも勧められましたが、あの子コレを置いていきましたの。」
懐から出したのはひとつの書類とブレスレットだった。
「借用書、ですか。」
「ええ、このブレスレットが担保らしいです。もう何と言っていいか。狡猾だわ。」
そこにはラピスラズリのブレスレットがひとつ、鈍く光を跳ね返していた。
「あの子の行方を占ってもらえませんか?ロージイさん。」
メルヴィン様が顔を上げてじっと私を見た。
そこにはひとつの覚悟があった。




