再会。
それから1時間程だっただろうか。夕方になって日が暮れ始めた頃。
ラージイ兄が帰ってきた。
だけど、1人ではない。女性を連れている。
「千客万来だなあ、今日は。」
ケイジ兄がため息を吐く。
ビルさんとブランさんも頷き、ガーデン夫妻と目配せをする。
……この時間からの来客なら夕飯を出すことも考えなくては。
「兄貴、お仕事ご苦労様。そちらの女性は?
……いや、待てよ。お会いしたことありますね?」
ケイジ兄が応対する。
「以前、お城で会いましたね。お城の侍女さんか。」
「はい。ご無沙汰しております、ケイジ様。そしてロージイさん。」
ケイジ兄の問いに硬い表情で深々と挨拶をするのは。
「まあ!メルヴィン様ではありませんか!」
以前私の指導係だったメルヴィン様だった。
「ロージイさん。お元気でしたか。色々大変でしたわね。」
「お前に会いたいと言うからお連れしたんだ。」
「本当に貴女はラージイ様とケイジ様の妹だったのね……」
彼女の視線は兄達と私を激しく行ったり来たりする。
「そうだね、あまり僕らは妹とは似ていないからね。」
ラージイ兄が肩をすくめ、
「フフ、ロージイが美人なだけですよ。」
ケイジ兄が意地悪な顔で笑う。
「…そんなことはございません…似てらっしゃいますよ。」
メルヴィン様の声は蚊が鳴くようだ。
厳しい指導者だった面影は全くない。
顔を赤くしたり青くしたりしてその手にハンカチを握り締めている。
ああ、やはり彼女はラージイ兄が好きなのだ。
ずっとそうなんだ。きっと二年?もう三年前くらいから。私が彼女に会ったときから。
もしかしたらそのずっと前からかも。
「ラージイ様、お客様を応接室に。」
見かねてガーデン夫人が声をかける。
「そうですね。ロージイ、ケイジも一緒に。」
すっと姿を消すビルさんとブランさん。多分夕食の手伝いに行ったのだろう。
それを横目に応接室に入る。
そこには4人分のお茶が用意されていた。
相変わらず良い姿勢のメルヴィン様である。
ピンと張った背筋。懐かしい。
「メルヴィン様。以前は大変お世話になりました。あの時私のことを気にかけてくださったのは貴女だけでしたわ。」
「いいえ!気にかけてはいたけれど。結局曖昧な忠告しか出来なくてごめんなさい。
貴女は本当に優秀だった。」
「妹を正当に評価して下さってありがとうございます。」
ラージイ兄が軽く頭を下げる。
「そんな。」
メルヴィン様が赤くなる。
そして目を伏せて、
「本当にご兄妹仲が宜しいのですわね。」
そこでゆっくりとシナモンティーに口をつけた。
あら、と小さい声を立てて私を見る。
「美味しいですわ。このシナモンティー。」
「ええ、気持ちを落ち着ける効果があるかと。」
彼女をチラリと見た感じ、顔色が悪いし顔が浮腫んでいる。
私に会うのに緊張しているのを差し引いても、何か悩みがあって不眠症なのは間違いあるまい。
先程ガーデン夫人に用意してもらったのだ。
「これはね、ロージイがブレンドしたお茶なんですよ。」
ケイジ兄が誇らしげに言う。
俗説だが、シナモンティーは霊感を高めるという。
占いの前にはこのお茶を相談者に、共に飲んで貰っていたのだ。雰囲気作りである。
「私は貴女が理不尽な嫉妬で怪我をして退職したと聞いて悔しくてたまらなかったの。
もっと具体的にあの女に気を付けろと言うべきでした。」
カップを持つメルヴィン様の手が震えている。
「ルネの事ですか。でももう彼女もこの世にはいませんし。」
ルートに斬られた傷が元で亡くなった。
「ええ、彼女がケイジ様に惚れこんでいて、貴女を邪魔に思うだろうとは予測していたの。
ちゃんと言えなくてごめんなさい。」
「ボーモンが脅しをかけていたんでしょう。ま、アイツも城を追われてその後は消息不明です。」
ラージイ兄が鼻で笑ってお茶を飲む。
「そうだわ。メルヴィン様。妹のララ様はお元気ですの?」
その言葉を聞いたメルヴィン様の顔が強張ったのだった。




