報告。
それから何日も忙しくして過ごした。
ホテルの改修工事も進んでいる。
私とケイジ兄はラージイ兄の家に移り住んだ。
ビル・メナードさんとブランさんは、籍を入れて夫婦になったそうだ。
「それはおめでとう御座います。」
「今までと特に変わらないんですけどね。」
頬を染めて微笑むメナード夫妻。
そして二人は正式にダイシ商会を辞めた。それでダイシ商会の寮には居られないので来てもらった。二人でひと部屋で悪いけど。
「狭いけどね。ま、くつろいでくれ。
そうだ、紹介しよう。うちに住み込みで働いてくれてるガーデン夫妻だ。掃除や食事を作ってもらってる。」
ラージイ兄の声に奥から人が出てきた。
「初めまして。ケイジ様、ロージイ様。メナードご夫妻。」
40代くらいのご夫婦だ。ああ、この人達は。
この感じは。まさか王家の影?
「気がつかれましたか?アラン様のご命令で護衛を兼ねております。」
穏やかな表情の中にも鋭い目付きの二人だ。
「ふふふ、私達は元騎士です。特にアンディ殿の部下という訳ではありませんから。ご警戒なさらず。」
「……はい。」
確かに鍛えられた、がっしりとした体格の人達だ。
兄は随分とアラン様に重く用いられているんだな。
その時、ガーデン夫妻が立ち上がった。
殺気がほとばしる。
「誰だ!」
そこにすっと姿を現したのは。
セピア色の髪と、目をした青年だ。
「そんなに警戒しないで下さいよ。ロージイ姐さんにご機嫌伺いに参りました。」
「なんだ、誰か来たと思ったらセピアの旦那か。」
ヤッキー達も小走りでやってきた。
「アンディ様の使いですか?」
元騎士の夫婦の声は硬い。
「まあ、そんなところです。先程アアシュラ様をマナカ国へお送りした帰りですよ。
こちらの様子を見にきたんです。」
人好きのする笑みを浮かべる王家の影。
「そうですか。では居間にどうぞ。」
兄が誘う。
「ヤッキーさん、ガリーさん。ディックさんはね、先日メアリアンさんが除霊してくれましたよ。」
コーヒーを啜りながらセピアさんは目を細める。
え、そうなの?良かった。
「そうなんでやんすか。」「もう心配いらないでがすね。」
二人とも顔を綻ばせる。
「ただね、随分と手こずられてましたよ。流石に毒姫というべきか。
神獣の白狐様が手を貸してくださって、お父上のルーデンベルク氏がとどめをさしたのです。」
「…お父上が。ディック兄貴の。」
「そうですよ、ヤッキーさん。
ディックさんがメアリアンさんに会うまで持ったのは、ルーデンベルク氏のチカラと、ロージイ姐さんのペンダントなんですよ。」
「私のペンダント?」
「ああ!あのトパーズでござんすね!」
ガリーが声をあげる。
「そう。それが無ければ命は無かったと。毒姫に取り殺されていたと。メアリアンさんは言ってました。
あのトパーズには守護のチカラが込められていたと。
ディックさんが怪我をしないように、……幸せになるようにと。」
「ロージイ。オマエすごいな!」
「ケイジ兄さん、そんな。でも、セピアさんそれ本当なの?」
「ええ。」
セピアさんは私を見て憐れみのような慰めのような、複雑な表情をした。
「貴女の祈りのチカラは本物だった。」
「たまたまよ。ジャック、いえディックには色々と助けてもらったから。あの、お礼にと。守護の祈りを込めては見たけど。私はただの占い師だから。メアリアン様みたいな本物の巫女姫とは違うわ…。」
それでも。彼のチカラになれたのか。誇らしさが浮かんでくる。
「ディックさんもね、感謝してました。ただ、負荷がかかったのか相打ちみたいに割れてしまったのです。」
セピアさんは目を閉じた。
「え、割れたの?トパーズが?」
「ええ。もう以前の姿には戻りません。残念ですが。」
「そんな。でも構いません。解呪の手助けになったのでしたら。」
「……そうですか。」
何でセピアさんの方が泣きそうな顔をするの?
「あの美しい宝石が。もうこの世界にないなんて。残念です。」
そんなにトパーズが好きなのか。ならば。
「あの、同じだけのモノが出来るかわかりませんが、セピアさん。貴方にもお守りをご用意しましょうか?」
「えっ!」
目を見開くセピアさん。
「色々お世話になっておりますし。でもね、ディックさんへの効果は思い込みだったと思うのですよ。
私にはとてもそんなチカラは。」
「それならば、」
セピアさんは真顔になる。
「貴女の想いがその奇跡を可能にしたのですよ。」
そして私の目をじっと見た。
「ありがとう、いつでも良いですから、守り石を用意してください。
楽しみにしています。」
深々とセピアさんは私に頭を下げた。
そのまま立ち去ろうとして、
「あ、忘れてました。今日の午後にもサリーさんが帰って来ますよ。サードさんご一家と一緒にね。」
「えっ。」
「それって、ご婚約が整うって事ですね?」
ラージイ兄も目を開く。
「ま、ダンさんとの話しあいをされるのは間違いないですね。」
「おめでたいですな。」
ビルさんは微笑む。サリーさんはこの人達にとっては娘みたいなものなんだ。
「彼等のガードの1人として、それから連絡係として、しばらくグランディにいます。またお会いしましょう。」
そしてセピアさんは掻き消すように消えた。
「ブルーウォーター公国物語」の136話の、「割りと良くあるタイプの悪霊よ。」に詳しいです。
そちらをみるとセピアの心境が良く分かります。




