兄達。
それから、ホテルの改装は何の障害もなく、気兼ねもなく進んでいった。
「ロージイ。こっちにあった占いグッズの在庫だよ。色々世話になったね。」
ダン様自ら荷物を運んで下さった。
(荷車を押してるのは商会の若いモノだが。)
「ありがとうございます。」
ヤッキーやザリーが受け取ってくれる。
「サリーが寂しがるだろうな。」
ポツンと呟かれる。
「……私もです。サリー様とは時々お会いしたいですわ。サード様が何もおっしゃらなければ、ですが。」
「そうだな。マナカ国の件も落ち着いたから、そろそろ帰って来るだろう。
ただ、サード様もご一緒にいらっしゃるから、それで帰宅が伸びているんだ。」
ダン様は頭を掻きながらため息をつく。
「今日はな、サード様の弟君のレプトン様と、カレーヌ様の結婚式なんだそうだよ。」
「えっ。」
「入籍だけはしていたが、カレーヌ様のお母様や、兄上のジャスティン様のご要望もあってね。身内だけで式を挙げられるそうだ。」
カレーヌ様のご実家のヴィトー家はグランディの大貴族だ。
新当主のジャスティン様は妹君のカレーヌ様を、とても可愛がってらっしゃると聞く。
「それじゃあ、サード様もご出席されますね。」
ケイジ兄も頷く。
「ウチのサリーは結婚式はともかく、お祝いのパーティーには呼んでもらえるそうなんだ。」
ダン様は微笑む。
もう本当にご婚約も間近なのね。
そこにラージイ兄がやって来た。
「様子を見に来たんだが。順調そうだね。」
「これは!ラージイ様。」
ダン様が頭を下げる。
「アラン様のご信頼も厚いとか。アンディ様から伺いました。」
「いえいえ。私なんかがとんでもない。」
ラージイ兄は苦笑した。
「アラン様が心を許しているのは、お母様のルララ王妃様とご自分の妃のエラ様とご子息。そしてアンディ様だけです。」
え、そんなに仲がよろしいの。
思わずアンディ様に嫌われている自分が恐ろしくなる。
「アンディ様は何度も自分の命をかけてアラン様を守って伯爵にまでなられた。それに美しく気さくで、お優しいリード様に絆されない御方です。いつもアラン様が1番だ。」
そこで小さくため息をつく。
「何しろアラン様ともあろう御方がですよ。
長生きして欲しいから危険な事をするな、アンディ。とおっしゃってる。
普通臣下に言うことではありません。」
ラージイ兄は口元を片方上げて薄く笑う。
「そうなんですか。」
ダン様は深く感じ入ってらっしゃる。
やだわ。お二人は秘密の恋人なんじゃないでしょうね。
「ですがね、私もアラン様の方がリード様より好きですね。あの方は王になる器だ。」
ラージイ兄は優しく微笑んだ。
「私の耳にはラージイ様は最近御出世されて十番目の側近と伺っておりますよ。」
笑顔のダン様が、手を揉みながら言う。
「ええ、まあ。ロージイやケイジを守る為にも頑張ります。
下位貴族の私を抜てきして、目を掛けて下さったアラン様のお役に立ちたいと思っておりますから。」
「兄貴。」
ケイジ兄の目が潤んでいる。
「ケイジ、ロージイを頼むぞ。何、心の闇を抱えている女性達は沢山いる。城の女官とかな。
本格的に占いをやるようになったら紹介しよう。」
「ありがとう!兄さん!」
そうだ。
「ラージイ兄さん。」
「うん。何だいロージイ。」
振り返る兄の顔は優しい。
「メルヴィン様は、お元気ですか?私がお城に勤めた時、あの方だけは公平でした。」
何故か思い出された。
ピン、と張った背筋。色眼鏡で見てごめんなさい、と言ってくれた人。私の指導係の班長。
(そんな人でも、私は利用しようとした。)
「……ああ。おまえが怪我した時、大丈夫かと聞きに来たな。まあ善良な人だ。
どちらにしろ二年前のことだが。今も新人の世話をしているとは聞く。
おまえが世話になったと言うのなら、声を掛けてみよう。」
「宜しくと。元気でやっております、と、お伝えください。」
確かあのメルヴィン班長はラージイ兄に興味があったようだ。喜ぶかも知れない。
「ロージイおまえ。他人に感謝するなんて随分大人になったな。以前はまわりみんな敵!って感じだったじゃないか。オレたち以外。」
ケイジ兄が軽口をたたく。
「それはやはり、ダン様やサリー様。ヤッキー達のおかげですよ。人に感謝することを学びました。」
本当にそう。
以前はカリカリと尖っていたと思う。
「ロージイ…。」
あら、ダン様が涙目になっている。
「だけどな、ロージイ。私が独り身だからって気を回すなよ。オレもケイジもおまえ以上の美人でなければ結婚しないだけなんだ。」
ラージイ兄は苦笑して出て言った。




