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ロージイの話。〜ずっとあなたが好きでした。だけど卒業式の日にお別れですか。のスピンオフ。  作者: 雷鳥文庫


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20/48

お守り。

 「ちょっと失礼。ディックの旦那。荷物は残してますか?」

セピアさんが固まってるダン様をスルーして、ディックの方に寄る。

「あ、ああ。」

「じゃあ、行きましょう。ロージイさん。事務所に入っていいですか?鍵、貸してくださいよ。」

「あ、はい。確か荷物はこちらに移したの。改修工事があるから。」

「どこです?」

セピアさんが私を促す。


三人で廊下に出る。

「ふうっ。これからあの古株さん達とダン様。揉めるんでしょうねえ。付き合いたくねえや。」

「…こっちに荷物があるわ。」

倉庫に案内する。

「大体のものは捨てて貰っても構わないのだが。」

「では分別して。」


「ねえ、ロージイさん。言いたいことは言っといた方が良いよ。」

セピアさんがポツリと言う。

この人はいつも思わせ振りだ。


……今さら何を言えと。アキ姫さまと出会ったディックに。


ディックは無言で荷物を分けていく。

「……この辺のものは、ヤッキー達が欲しがったらあげて下さい。後は…ああ、あった。」

ディックはふわりと笑った。

「これを探してたんです。ロージイ姐さん。

貴女が昔私にくれたものです。魔除けになると言って。……貴女の目の色と同じ石だ。」

その手には、トパーズのペンダントがあった。


……それは。去年私がディックじゃなくてジャックに助けて貰った時。

古戦場で何かにまとわりつかれて動けなくなった時。

抱き上げて長い距離を運んでくれた彼にお礼にあげたものだ。

少しずつ、呪われた場所から離れたら楽になったから。


「俺には霊障は良くわかりませんが。物理的に離れたら良くなるもんですね。」


そして重くないですよ、気にしないでと笑った。

ああ、太陽のような人だと思った。



だからペンダントに祈りを込めた。全身全霊で。

【ジャックが怪我をしませんように。

 古傷が痛んだりしませんように。

 夜悪い夢を見ませんように。

 幸せになりますように。】

……………。

わかっていた。ジャックはシンゴ様とは違う。

つい重ねて、距離を取ったり突っぱねたりしたけれど。

私を完璧に拒絶したあの人とは違うんだ。

ほら、私を抱くジャックの手はこんなに暖かい。


だから祈った。私にチカラがあるのなら。

ジャックにしあわせを、と。



「ああ、少しラクになった。」

首にネックレスをつけて肩をまわしている。

今はディックだ。ジャックではない。

「これを付けると、以前から体調が良くなったんですよ。貴女、本物だ。」

「え。」


その時、彼にまとわりつく黒いもやが人の形を取ったように見えた。

 

首を絞めようとして、トパーズのペンダントに弾かれている。

「何なの!この黒いもや?貴方に襲い掛かろうとしてるわよ!」


「……あ、見えるんですか。」

ディックはニヤリと笑った。

「それはきっと毒姫ですよ。」


「何ですって?」

「毒姫は私の父を殺した。下手人はミイル王子ですけどね。その原因を作った。そして私を殺そうとした。

恨みを晴らしただけですよ。」


「……貴方、毒姫を手にかけたの?」

「そうです。紅の魔女様。」


ディックの顔から表情が抜け落ちた。


「あの女は私を恨んで。付き纏ってるんでしょうね。」


彼にまとわりつく黒いもやは一層、黒くなった。


……人殺し…私の足が震えてきた。


「……やめておきなよ、悪人ぶるのはさ。」

セピアさんがため息をつく。


「毒姫はね、自分で胸を突いたんだ。ディックの旦那の剣を奪ってね。」

そして倉庫の中の箱に腰を下ろした。


「あんまり楽しい話じゃねえんですよ。」

「ああ。あの女はな、最初私が誰かわからなかった。

アレだけ執着していたのに。」

ディックも古いトランクに腰を下ろす。


「えーと、まずね。アアシュラ様がいなくなって、あの王と馬鹿息子が毒姫を取り合った。

毒姫は自分が王族じゃないと信じられなくてね。

それにキモいでしょ。親とも兄とも思っていた男共が。妾になれとせまってくるなんて。」


「妾……。」


「お互い秘密の愛人として囲うつもりだった。王はあれでアアシュラ様と別れるつもりはなかった。

馬鹿息子もいずれ返り咲いた時のために、血筋の良い正妻を娶るつもりだった。」


「馬鹿にしてる。女を何だと。」

私の手が怒りで震える。


「そうですね。それに毒姫は、自分が王女じゃ無いと信じなかった。

それで王が証人を連れてきた。」

セピアさんの話は続く。

「証人?誰なんですか?」


「あの女の父親です。側妃の元婚約者でアーリンと言うんですがね。

王はね、昔、側妃に自分の物にならないのなら、コイツを殺す、と言ったらしい。」

「生かされていたの?」

「ええ。ディックさんの父上、ルーデンベンク氏が助けていた。」


え。そうなんだ。


「私は領地の奥に隠れる様に住んでるものがいるのは知ってました。でもまさか。」

ディックもため息をつく。

「まあ、側妃にも、そいつにも同情はします。」


「では、その男は。毒姫にそっくりなのね?」

「察しがいいですね。ロージイさん。恐ろしいくらいそっくりでした。

金を溶かした様な髪も。森の湖のような煌めく青緑色の目も。白い肌も。」

ディックは苦虫を噛み潰したような顔で言った。


「王に目をつけられたと知った二人。十七歳の少年と少女でした。駆け落ちしたのはいいけれどすぐに連れ戻されましたね。二ヶ月だけいっしょに暮らしたそうです。」

セピア君は淡々と語る。



「それで毒姫は彼を父だと信じたの。」

「半信半疑でしたよ。だけどね、もう1人いたから。」

「もう1人って?」

「毒姫の異母弟です。アーリンは側妃ジル様から引き離されて、森の中に隠れ住みました。そして近くの村の娘と三年後に結婚した。何しろアーリンは美しい。

恋焦がれた女性は多かったらしい。

そして息子が生まれたのですよ。」


セピアさんの言葉に、

「毒姫そっくりの美しい少年でした。本人どくひめの男装といっても通るくらいに。」


ディックは薄く笑った。



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― 新着の感想 ―
毒姫の怨霊?!Σ( ̄□ ̄) 大変!大変っ!メアリアンさんにお祓いしてもらわないとーーー 浄化する前に、ディックとアキ姫の相思相愛ぶりをタップリみせつけて、悔しがらせたい!
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