表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/25

毒姫。

 「ロージイ。お客様だ。お供の三人を連れて占いの仕事を頼むよ。」

「どちらですか?」

「中央にあるグレイデンホテルだ。」

「ホテルに出張は気が進まないのですが。」

「大丈夫、女性客だよ。」


二月のある日、ダン様から出張占いを頼まれた。

基本的にはこのマナカ国の端にある、占いの館でお願いをしている。

私の美貌によからぬ事を考える男性客がいるからだ。

ホテルのスイートなんかに行くのはごめんなのだ。


「ですが、厄介な連れの男性たちがいるかもしれませんね。」

ジャックが顔をしかめる。女客を囮にしてと、いう事か。


「そこそこ身分が高いお方なんだ。こちらに呼び付ける訳は行かないんだよ。失礼があっては行けないので私も同行する。

それに今回は特別に、もう1人用心棒を付けるよ。」

「……そうですか。」


「宜しく、真紅の占い師様。」

セピア色の髪をした若い男性がすっと影から出てきた。

「王家の影みたいね?貴方。」

「ロージイ様。確かにそう言う家に生まれましたよ。でもね、嫌気がさして飛び出して用心棒として食って行ってます。御贔屓に。」

ニッと笑ってその青年は消えた。


「彼は、ジンジャー。腕が立つんだ。」

「そうなのですか。」


仕方ない、腹を括った。

次の日。

仰々しいメイクと衣装。紅き美魔女の出立ちでホテルの門をくぐる。


女性客か。恋の悩みだろうか。

私は顧客の悩みを聞くことをモットーにしている。

そして最もらしくカード占いをして、彼女たちが望む答えを告げてやるのだ。


――大丈夫、貴女は素晴らしい人。少し誤解されやすいけど、ウチに秘めている才能は今にも溢れそう。

そのうち貴女を理解してくれる人が現れるかも知れません。そのサインを見逃さないで……


だいたいはこれで済む。彼女達は肯定して欲しいのだ。自分を。


才能だって、溢れてオモテに出てくるとは限らない。

だから、本当は何もなくても構わない。

理解してくれる人は現れる()()知れないが、現れないかも知れない。

(サインを見逃してしまったなら自己責任でお願いします。)

 

彼女達は求めている。つかの間の安らぎと希望を。

愚痴を聞いてくれる人を。

「わかりますわ。」と同意してくれる人を。


「占い師様、そのカードはタロットで?トランプでもありませんね。」

ジンジャーが私がカバンに入れたカードに付いて聞いてくる。

「ええ、私が開発したもの。それにこれは特注品の一点ものなの。私にしか真の意味は読み取れないわ。」


「違いねえ。うちのネエさんは頭がまわる。」

「どんなアドバイスも取ってつけられるって寸法さね。」

「それに、特別におわけしますわ?って言って廉価版を売ってるでしょ。」


ギシシ、とヤッキーたちが笑う。


ふん、良いじゃないの。カウンセリングに行くのよ、私は。



さて、戦場に行くか。



部屋に着いたとき、しまった。と思った。

この護衛は。この物々しさは。


依頼人は王家の女性か。

王妃のアアシュラ様ならまだ、良い。

気性の激しいところはあるが、ちゃんと話は通じる御方だと聞く。

百歩譲って、長女のマキ姫さまでも良い。

皮肉屋で冷たい笑みをいつも浮かべてらっしゃるが、理不尽な事はなさらないらしい。


もし彼女なら、胡散臭い占い師の化けの皮を剥がそうとやって来たってところか。

議論をふっかけて打ちまかそうとされるのか。


――問題は。

第三王女の毒姫だ。

ジョセフィンという名前の側妃の姫のことである。

王が甘やかして、元々の難ありの性格が、毒を煮詰めたようになったと聞く。


どんないちゃもんをつけらるかわからない。

次女のアキ姫さまは彼女にいびられてブルーウォーターに逃げ込んだらしい。


あの国は神獣が守っている。悪意を持つものは入れない。

もちろん、神獣様たちの怒りを買ったものも。


……下を向いて唇をかむ。私は入れない。

神龍様はメリイさんの守護神だ。

私は彼女の婚約者を寝取ったのだから。



中に通された。

ずっと頭を下げて平伏している。


「ダイシ商会のダンでございます。お呼びにより参上いたしました。

麗しきジョセフィン様。」


――毒姫か!毒姫に呼ばれてしまったか。


汗が額からしたたり落ちる。

「顔をあげよ。……ふん。この女が例の占い師なのか?

お付きの男ども、そろってむくつけき奴らよ。

おお、この男なぞ傷ものではないか。

そんなものしか仕えてくれぬとはのう。

美女だと言うても、ほほ。ざまあないのう。」


外側だけは絶世の美少女である、ジョセフィン姫。


口から早速毒を吐いてきた。

手を口にあててカラカラと笑う。

まわりは美丈夫で固められている。美男たちは姫の言葉に愛想笑いを浮かべる。


騎士か、護衛の為か。見かけで選んだな。



「そなた、グランディでは男達を手玉に取る毒婦であったそうじゃな。ふふ、それがこの様に占い師に身を落としてのう。貴族の娘がなあ。

男など、よりどりみどりだったろうに、このていたらくとはな。」


「ははっ。」


いたぶる為に呼んだのか。

とりあえず嵐が過ぎるのを待つ。

金を溶かしたような髪。まっすぐに長く艶やかで。

肌はどこまでも白く。

青みがかったグリーンの瞳は星を散りばめたように光る。

唇は赤くみずみずしい。


こんなに美しいのだが。

気まぐれに使用人を打ったり怪我をさせたり、毒の効き具合を試したりとやりたい放題らしい。


ダン様からここのものは何ひとつ口に入れるな、と言い含められている。

王族の前で粗相をするなと言う事か、と思っていたら命の危機に直結だったのか。



「ふん、まあ良いわ。今日は呼んだのはな、ある女を呪って欲しいのよ。」


毒姫は舌なめずりをして、嫌な顔で笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ