変化。
ディックはこんな人だったろうか。殺気と倦怠感がまとわりついている。
時々、彼の周りに何かまとわりついているのが見える。
――私の少ない霊感でもわかるくらいのモノが。
「まず確認させて頂きたいのですが、ダン様。
私が、マナカ国にいく前にサリー様の事を考えて欲しいと言われましたが。その話は無くなった、という認識で宜しかったでしょうか?」
「あ、ああ。うん、そうだね。
ウチのサリーを、あのその、グローリー家のサード様が気に言ってくださったようで。
先日、サード様から婚約の打診のお手紙が届いたんだ。」
ダン様はしどろもどろだ。
婚約の打診。やっぱりか。そこまで進んでいたならば。
高位貴族からの縁談なら断れまい。
サリー様がサード様と仲睦まじくお過ごしならそれは良い事である。
「いえ、良いんです。私とアキ姫さまのことはご存知でしょう?」
「……ああ。その再会して気持ちが通じ合ったとか。」
ダン様がセピアさんをチラリと見る。
「その通りですよ。アアシュラ様もお喜びです。」
セピアさんの言葉に、
「はい。彼女を何よりも大事に思っております。」
その口元に浮かぶ微笑みは優しい。
――心臓を掴んで揺さぶられる気持ちがした。
「ジャック兄貴。いや、ディック様。もうこちらには戻って来られないんでやんすか。いや、わかってはいたことなんですけどね。」
「寂しいでげす。」
二人は泣いていた。
「ヤッキーにザリー、世話になったな。」
「うううう。」
「ロージイ様も。」
彼の水色の瞳が私をとらえる。
「わ、私は何も。こちらこそ世話になったわ。いつも守ってくれてありがとう。」
おや、とディックは眉をあげた。
「随分と素直だ。」
そしてダン様に向き直る。
「ダン様。貴方は命の恩人です。貴方が助けてくださらなければ、私はこの世にいなかった。
その後二年以上もお世話になりました。
本当にありがとうございます。」
深々と頭を下げる。
「アアシュラ様からもこちらに便宜を図るつもりだと伺っております。
……マナカ国での王室御用達の看板を許可すると。」
「…!!なんと!これまで頑張っても頂けなかったのに!何ということか!おおお!」
ダン様は泣きそうだ。
そんなに王家のお墨付きが欲しいのかしら。
「それは重畳。多分サード様とサリー様がご結婚なされば、ブルーウォーター公の御用達の看板も頂けるかも知れませんな。」
ビルさんが微笑む。
「そうか!そうだね、ビル、ブラン。これからも頑張って支えてくれたまえ。」
「旦那様。」
ビルさんがじっとダン様を見る。その目はどこまでも澄んでいる。
「もう、私達老兵の出る幕ではございません。」
「え?」
「ええ。二人とも退職させていただきたく存じます。そして所帯を持つつもりなんですの。」
「そ、そんな。ブラン。」
ダン様は口をあんぐりと開けた。




