仲間。
それから、三日後。
サリー様はサード様とブルーウォーターに行かれたそうだ。
「とうとう状況が動きだすな。」
ケイジ兄はラージイ兄と、業者を連れてきた。
これから改修工事が始まる。
もう、ダイシ商会のひとはほとんど泊まっていない。
古株のビルさんとブランさんだけだ。後はヤッキーとガリー。
「申し訳ないけれど工事が始まるんです。他所に移ってもらえないだろうか。」
「オレらは姐さんの護衛です、庭にテントでも張りますよ。」
本当に彼等は庭にテントを張った。
私とケイジ兄はギリギリまでホテルにいて、どうしても無理な時はラージイ兄の部屋に行くことになった。
ラージイ兄は最近、王宮の寮を出て小さな家を借りて住んでいる。
ビルさんとブランさんはとりあえず、商会の寮に入るそうだ。
彼等四人には事情を話している。口外禁止で。
ここを女性専用のホテルにする事。
ダン様と距離を取る――私が辞めて独立することを。
「オレらもね、ダン様のなさりようにはあんまりだと思ってます。」
ヤッキーが口を尖らせる。
「確かにサリーお嬢様が、サード様と結婚したらロージイさんは商会には居られませんな。」
ビルさんは頷き、白いものが混じる頭を掻く。
「チラリと聞きましたが、仲睦まじくブルーウォーターでお過ごしとか。」
「こちらのホテルが女性専用になったら、私はここで雇って貰おうかしら。」
ブランさんが微笑を浮かべた。
「えっ?!」
「そりゃ、人手は欲しいですけど。
ロージイには占い師の仕事を再開してもらおうと思っていますし。
でも、ブランさんは長年ダイシ商会におられましたよね?ダン様の信頼も厚い。辞めて良いんですか?」
ラージイ兄が言う。
「今、随分と若手の社員が増えました。私たちみたいな古株は彼等にうっとおしがられているんですよ。
サリー様とダン様には良くしてもらってますが、それも贔屓に見えるらしくて。」
ビルさんもため息をつく。
「サリー様のご結婚で商会が合併したら、さらに居場所が無くなる。
だから、この際引退してどこかでのんびりと暮らそうかと思っていたんです。」
ブランさんが言えば、
「二人でね。」
ビルさんも言う。
「えっ!二人はそんな関係でやんすか?」
「まったく気がつかなかったでがす。」
ヤッキーとガリーが驚きの声をあげる。
「昔、ちょっとだけ付き合っていただけですよ。」
「何となく機会を逃しましてね。もう、同志みたいなものです。」
二人がお互いを見る目が優しい。
「こちらでロージイさんのホテルを手伝うのも楽しそうです。」
ブランさんが私を見て笑う。
「ブランさん。」
「貴女は私の妹に似てるのですよ。」
男に騙されて早世したと言う妹さんか。
「ええ、ティナね。似てます。可哀想な事をしました。
あの男を無理にでも引き離していれば。あんな亡くなり方はしなかった。」
ビルさんもため息を吐く。
「それでは。」
ケイジ兄がおずおずと切り出す。
「二人揃ってウチに来てくださると?」
「ええ、良ければ。お世話になります。」
ぱあっとラージイ兄の顔も明るくなる。
「では、業者に言って増築しましょう!住み込みのお部屋を用意しますよ!助かります。
食堂も広げるし。うん、忙しくなるな。
さて、親方をつかまえて話をしなくっちゃ。」
「あの、ラージイ様、ケイジ様。」
「何でしょうか?ヤッキー君。」
「俺らも雇ってもらえないでやんすか?ホテルで護衛をやりやすよ。」
「ダイシ商会よりコチラがいいでがす。」
「どうして?」
「ロージイ姐さん。貴族のサード様に使われるなんてごめんです。」
「そりゃ、ダン様やサリー様にはご恩がありやすがね。
あんな偉そうな青二才に威張られるのはいやですよ。」
二人とも顔をしかめている。
私の胸に温かいものが広がって行く。
「二人とも。」
……ありがとう。
「それは!願ってもないお話だ!もともと君達にロージイの護衛を頼みたかったんだよ!」
ケイジ兄が破顔する。
「では、入り口あたりに君達の部屋を用意しよう!」
ラージイ兄も微笑む。
「ええ、どうせ働くのなら、ロージイ姐さんみたいなキツい美人に、こき使われたり罵られたいんでがす!」
何言ってるの?ガリー?
「実はあっしも、そうでやんす!げへへ。」
ヤッキーまで!何で顔を赤くしてるのよっ!
「ははは。女王様にひれ伏したい男性は一定数いるんだよ。良かったな?ロージイ。」
ラージイ兄は口元だけで微笑んだ。




