予想というものは悪い方に立てておくものだ。
誤字報告ありがとうございました
それは確かにサード様はサリー様を気にいってると思う。
彼女を見る彼の目はとても優しい。
ジャックいや、ディックがサリー様を見る目も優しかったけども、サード様のその目には熱がある。
「あれから一週間の間に3回も来られた。」
「そうだけど。彼は公爵様よ。商会の娘のサリー様では釣り合いが。」
「グローリーの血筋だな。惚れたら一直線だ。
メリイさんは結局王家の影と結婚した。あれだけ各国からの王侯貴族から望まれていたのに。
レプトンさんは憧れのカレーヌ様とだが、お相手は、傍から見れば未亡人でコブ付きだ。
あのアキ姫さまを断ってね。
あの厄介な前公爵様だって。バーバラ叔母さんに執着していたな。子爵令嬢だったのに。」
なんだか嫌な予感がする。
「つまりだ。もしサード様とサリー様が御結婚と言うことになれば、ダイシ商会とグローリー商会は合併するって事だ。お互いに悪い話ではあるまいよ。
グローリー商会はグランディの王都内にいくつも支店を持っているんだ。
本店はグローリー領内だがね。ダン様は嬉しいだろうよ。
何しろ相手は公爵家がやってる老舗なんだから。」
「ええ、確かに。」
「それに、」
兄はコップの水をあおる。
「サード様にとっても悪い話じゃない。
ダン様は各国を股にかける大商人だ。人脈だって半端ない。
胆力だってある。毒姫とだって対面して生きて帰れた。
あのアンディ様とだって仲良くしてるし。」
人の良い笑顔を浮かべる雇い主の顔を思う。
「それにサード様は、最近は女性視点からの商品を開発してそこそこ当てていた。だけどそのスタッフが、みんな辞めたと言うトラブルもあったんだ。
サード様に嫁ぎたい女性陣が揉めたらしいんだがね。
それもあって早めに身を固めたいと、思ってるのではないだろうか。」
そんな。二人が結婚して商会が合併する。
そんな事になれば。
「なあ、サード様がお前を、自分の所に置くと思うか?」
「……いいえ。」
私の喉もカラカラだ。水差しからコップに水を注いで飲む。
「ロージイ。腹をくくっておけよ。
悔しいだろうが、ゴネるより素早く撤退した方が良いぞ。」
ケイジ兄はまわりを見回す。
「ここの一室を占い師の部屋にして、あとは改装するか。」
「改装?」
「うん、女性専用の宿としてオープンする。」
「兄さん?なんで?」
「多分だが。もうすぐダイシ商会の寮が出来るだろ?
そしたら、ダン様達もあちらに移るはずだ。
ま、ダン様はそのうち家を買うかもしれんがね。」
「ええ。」
「すると、ウチのホテルをそのまま社員寮に出来ないか?、と打診が来ると思う。何しろ立地が良い。
合併したら社員も増えるだろう。まだマナカ国に残ってる社員も来るだろうから。
そのまま俺に管理人をしてもらうつもりでな。
めでたく俺もダイシ商会に雇われるって事だ。」
フン、と鼻を鳴らすケイジ兄。
「その前に、ホテルを改装して女性専用にすると主張するんだよ。
やはり女性の1人旅で安心して泊まれるところは少ない。
コンセプトはこうだ。
『兄妹で経営する女性専用の宿。中でお食事取れます。酔客に絡まれません。女性好みのメニューを用意してお待ちしております』ってな。
もちろん、護衛は雇うよ。不埒な奴等が侵入しないようにね。ヤッキー君やガリー君がこちらに来てくれれば1番いいけどね。」
兄はそこまで考えているのか。先の先を読むとはこう言うことか。
「もちろん、毒姫が失脚して、安全になったマナカ国に戻る、と言う話になるかもしれない。
サリー様がサード様を受け付けないかもしれない。
何しろまだ、本格的に申し込みもされてないんだし、やはりジャックがいい、と言われるかも知れない。」
兄は髪をかき揚げながらひとつひとつ可能性を挙げて行く。
「だけどな、サード様が本気になって求婚なさったら、平民だと断れない。
しかも彼には神龍様がついているんだ。」
ケイジ兄はため息をついた。




