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ロージイの話。〜ずっとあなたが好きでした。だけど卒業式の日にお別れですか。のスピンオフ。  作者: 雷鳥文庫


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14/48

幻想。

 「では、私達は事務仕事にもどりますよ、ロージイ、ちょっと。」

ケイジ兄は私を事務所に連れていって、ドアを閉めた。

「ロージイ、大丈夫か?」

「え?」

「その手。」

無意識に手を握り締めていて、手のひらに爪が食い込んでいた。血が滲んでいた。


「おまえ辛かったな。」

手のひらに薬を塗ってくれる。

「そんなに痛くないわ、ありがとう。」

「違う。怪我のことじゃない。

あえてディックではなくて、ジャックと言うが、彼が気になってたんだろ。」


心臓を掴まれた様な気がした。


「な、何を言うのよ。」

「やはり無自覚か。側から見ていたらおまえが彼に気がある事はすぐわかったよ。」

「そんな事ないって!」

「ロージイ、おまえは今まで上手くやろうとしてきて、心に幾つも蓋をして生きてきた。

ルートの事だって特に好きじゃなかったろう?」


「嫌いではなかったわ。でなければ結婚してません。」

「大体の男はおまえがその気になれば落とせたよな。

全然なびかなかったのはシンゴさんだ。」


「あれは!」


「それにジャック……いや、おまえは落とそうとはしてなかったな。」

「彼はサリーさんがお気に入りだったから。」

つい俯いてしまう。


「うん、だけどな。ジャックはおまえのことを意識してはいたな。サリーさんよりな。」

「え?」

「2人とも素直になれなくて刺々しい言葉の応酬をして、そして傷ついてしまうガキみたいだったぜ。

10代ならともかく、ハタチを越えた奴等がナニやってんだって感じだったよ。」


「兄さん……」

「でもおまえの方がやり過ぎた。彼はおまえに嫌われてると思っている。」

「……。」


「俺だって、ダン様だって、ジャックはサリー様とのほうが幸せになると思ったから、ほっといたんだ。」

「…なんで。」

「彼女は素直で明るい。それが良いんだよ。

おまえも自分の気持ちに素直になるべきだったよな。」


足が震えてきた。

「兄さんは、間違って…る。私はあんな奴、好きじゃない…。」

「そうか。俺の勘違いか。それなら良いんだ。」

ケイジ兄は軽く息を吐いた。

「もう、どっちにしろ遅いから。」


「…え?」


「ジャック、いや、ディックは記憶を取り戻した。

それからおまえにもサリー様にも冷淡と言うか、線を引く様になった。

それに人格も変わってきたというか、騎士っぽくなってきたというか。

せいぜい俺なんか半年ちょっとの付き合いだがね。」


「…どう言うこと?」

「確かに、サリー様にアキ姫さまとやらを重ねていたんだろう。それで優しい気持ちになっていたんだろう。

だけど、だんだん思い出してきたんだ。

アキ姫さまとの事を。」


「それって。」


「ディックが愛しているのはアキ姫さまなんだよ。ジャックならわからなかったがね。」


何を言っているのだろう。


「ジャックの時はね、俺と妙に気があって。仕事の合間には一緒に飲んだりしゃべったりしたものさ。

おまえの事もな、ちょこちょこ聞かれてはいたんだ。」


息を飲む。


「だけど俺も慎重だった。サリー様がジャックに気があるのはわかってたし、ダン様がそれに反対してないのもわかっていた。

彼がおまえと仲良くなったとしても、いずれダン様から縁談を打診されるだろう、そしたら乗り換えるかもしれないからな。」


兄の言葉に身体の震えが強くなり、椅子につかまる。


「それをな、セピア様もわかっていて、おまえに遠回しに告れば、って言ってきたよな。

おまえの方から動けば事態は変わるかも知れないと。」


そこで兄は、薄く笑う。


「セピア様はな、任務じゃなかったらおまえを口説きたいなあって言ってたんだ。それを聞いたジャックが目を剥いてね。

ウチのロージイ姐さんに遊び半分で手をだすな!って怒ったことがあったんだよ。」


「知らなかった。」

頭の中を色んなことがぐるぐると回って行く。


――無礼な男性客に本気で怒ってくれたジャック。

――私がコーヒーを手渡したときにっこりと笑ったジャック。

――少し霊感がある私が、古戦場で気持ち悪くなって動け無くなった時、抱き上げて運んでくれたジャック。


「だけどな、ロージイ。今の彼はもうジャックじゃない。ディックだ。

彼の心を占めているのは三年前に別れたアキ姫さまなんだよ。」


目の前がぼやける。泣いていると自覚するより先に言葉が出た。


「兄さんは、誤解してるのよ。嫌ねえ。

誰があんな男、好きなものです、か。」

「ロージイ。」


頬が濡れていく。涙と言うものは目の中にあると温かく感じるに、流れた途端冷たく感じるのは何故か。


「確かにシンゴ様に感じが似ていた、かもしれない。それで気になったかも、しれない。

ただそれだけ。……それだけなのよ。」


「そうか。」


「だって兄さん!私はもう男は要らないの!ずっと独身ひとりで生きていくって決めたの。

身勝手な奴等に振り回されるのは真っ平なの!」


「ロージイ。」


「……私には兄さん達だけいてくれれば。それだけで。」


そう、それだけでいい。

ボタンが掛け違っていなかったら。タイミングがあっていたら。

上手くいったかもしれないなんて幻想は、


――――もう、要らない。



これからしばらく二日に一回になります。

本編の「ブルーウォーター物語」に追いついてきましたので。

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― 新着の感想 ―
つらいねえ、ロージィ。 周りにはバレバレだったかもと思うと余計に、今更何を聞かされてもって。 確かに、幻想ならもういらない。 せめて今は、おにいちゃんに甘えて泣けばいい。
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