護衛。
サード様が退出された。それと共にジーク様も出て行こうとする。
「ジーク様。」
ダン様が声を掛ける。
「何かな?」
「サリーがブルーウォーターに行くときは同行していただけませんか。」
「ダン様、私達だけではダメなのですか?」
ヤッキーやガリーが色めき立つ。
「……おまえ達が弾かれなければ良いが。」
「……あ。」
二人とも気まずそうに顔を見合わせる。
何か二人ともスネに傷持つ過去があるのか。
「ディック氏が戻ってくるのでは?彼と行けば良かろう。」
「それは、そうですけども。」
言い淀むダン様。もしかしたらディックがしばらく戻ってこないのではと思っているのね。
そこに入ってきたのは、
「おい、ジークさん。同行してやれば良いじゃないの。」
「ロンド様。」
「あんたは、元々ブルーウォーターの出身じゃないか。」
「まだ、レッド領と呼ばれていたときな。それから何年も帰ってない。」
「そうなのですか、ジーク様。里帰りも兼ねて是非お願いできませんでしょうか。」
ダン様の目が輝く。
「しかし、一応グランディの騎士だ。そうホイホイとこの国を出る訳には。」
「うーん、せめてセピアが戻ってくればなあ。」
「ヤマシロに相談するか。……付いて来てんだろ?」
その時壁の一部が盛り上がり、ひとりの男が出てきた。
「お庭番!いつのまに!」
ケイジ兄が声をあげる。
「初めましてかな?私はヤマシロ。宜しく。」
「【改名様】のおひとりがここに?」
ダン様の声が驚きで掠れている。
「ええ、シンゴの相方です。宜しく。
ちょっとね?ロンドさんの後ろからついてきて、隠れてました。」
ヤマシロと言う人は、私を思わせ振りに見て笑った。
――この人も私が彼を好きだったことを知っているのか。
唇を噛む。
「最近見かけなかったな?ヤマシロ。」
「ふふ、ロンドさん。嬶がコレだったでしょ。めでたく産まれましてね。」
お腹のところを丸く覆うゼスチャーをして、ソバカスだらけの顔をくしゃくしゃにする。
「シンゴのとこはまだか。あいつと結婚時期はあまり変わらなかったろう?」
「あー、まだめでたい話は聞かないな。
ロンド、アンタもシンゴとは仲が良かったな、そういえば。
結婚式でスピーチを泣きながらやるくらいだものな。」
「ホラホラ。おしゃべりはそのくらいにして。護衛の件なんだが。」
ジーク様が口を出す。
「このお嬢様を護衛してブルーウォーターにか。ジークさんが一番良いとは思いますけどね。
でもま、それが難しかったら、リーリエに頼みましょうか。アイツも息子に会いたいでしょうし。
喜ぶでしょ。」
「リーリエ様って?」
「サリー様。ご心配なく。クノイチですよ。腕は保証します。今はサードさんの所にいるんですよ。」
サード様も王家の影が付いているのか。
「リーリエはね、息子をブルーウォーターの養母に預けて働いているんです。」
「ご主人は?」
「とっくにこの世にはおりませんね。」
ヤマシロさんは的確に説明して行く。
「サードさんは、あまりにも女性慣れしていなくって。
それであえて女性従業員を沢山採用するように、王妃様やリード様に言われたのです。
そこに護衛のためにリーリエも忍んでましてね。」
そこで私達をじっと見る。
「サードさんはメリイさんのお兄様です。その身に何かあれば神龍様の怒りを買うでしょう。
あの人は守られているんですよ。」
ヤマシロさんの黒い目はキラリと光った。
「ま、ブルーウォーターの方の様子を見てリーリエにも話を通しましょう。」
そして掻き消すように消えた。
「サード様ってやはり大物なんですね、お怒りを買ってしまってないかしら。」
顔を覆うサリー様。
「大丈夫。アレは怒ってはいなかったと思う。」
ダン様が肩に手を置いて落ち着かせる。
「ええ、アキ姫さまに似てるサリー様に好感を持ったみたいでしたわ。」
「ロージイ、そうかしら。ではこのカツラは被っていた方が良いかしら。」
サリー様のこんなところは本当に可愛らしいと思う。
「フフ、そうですね。サード様が来る時だけでも。」
「しかし、神龍様に御目通りが叶うかも知れないのか。とても光栄で名誉なことだ。
お顔を繋げるだけでもありがたい。」
ダン様の顔は立派な商売人のそれだった。




