訪問者。
それから1時間程経っただろうか。
呆然としているサリー様。それを慰めているダン様。
居心地悪そうに見ているヤッキーにガリー。
腕を組んで考えこむケイジ兄。
みんながいる応接室兼食堂のドアを叩く者がいた。
「今日は。呼んでもどなたもお返事がないのでここまで来てしまいましたが。」
眉を下げて顔を出したのはジーク様だ。
「おお!失礼しました、ジーク様。」
「あちらのね、店舗で見張りをしていましたら、ものすごい見幕でダン様に会わせろと。この方が。」
「失礼する。お久しぶりですね。ダイシ商会のダン様。」
そこに顔に怒りを浮かべて入ってきたのは。
「サード様!」
そう、私と因縁があるグローリー公爵家の新しい公爵であり、レプトンさんとメリイさんの兄、サード様だった。
「……ロージイ。やはり、あんた……いたのか。」
その目が私をとらえ、憎々しげにつぶやく。
「…サード様、これには訳が。」
「ダン様、あんまりじゃないですか。うちがこの女にどんなに煮え湯を飲まされたか!
メリイがどれだけ泣かされて、みじめな思いをしたか!
他の誰が許しても私は決して許さない!」
私を指差し糾弾するサード様。
みんな黙り込む。
「確かにダイシ商会はウチとは昔から縁があった。
親父がマトモな時は良い関係を築いていたよ。
それに、あのルートにも良くしてくれていた。
その好人物の貴方が。
何故うちの国に拠点を移して、我が商会の、商売仇になろうとするんだ?
ロージイを連れていくとき、グランディには顔を極力出さない、と、言ったよな!?」
「それは……申し訳なく。」
「そりゃあ、商売のことだ。そちらにも言い分があるだろう。
だけど、せめて挨拶に来てくれれば。
半年も前から潜伏していて、新店舗まで作っていたなんて!」
「……まったくその通りです、しかし。」
私のせいだ。私のせいでダン様が責められている。
口を開こうとした途端、
「お怒りを鎮めてください!お願いします。」
サリー様が奥から出て来られた。
「 !! おまえは出てこないでいいんだ!あっちに行ってなさい!」
慌てるダン様。
さっきサード様が怒鳴りこんで来た時、ヤッキーがそっと奥に隠したのを横目で見ていた。
「…え?ええ?ア、アキ姫さま?なんでこんなところに?」
いきなり立ち尽くして、口をポカンとあけるサード様。
縦ロールのカツラを振り乱して出てきたサリー様をアキ姫さまと見違えたのか。
そんなに似てるの?
「あ、良く見たら違うか。目の色が少し。貴女は?」
「ダンの娘、サリーですわ!父を責めないでくださいっ!」
潤んだ目でサード様を睨み付けるサリーさん。
「あ、ああ。そうだったんですか。まいったな。」
すっかりサード様から毒気が抜かれている。
「マナカ国の毒姫さまに、目をつけられて。こちらに逃れてきましたの。ご挨拶が遅れたことはお詫びしますわ!私たちも緊急避難のつもりだったのです!
でも、身の危険が迫って、従業員もこちらに来てしまったのです。」
そこでサリー様は涙を落とした。
「なるべく、なるべく!商品が被らないようにしますから!お願い。追い出さないでっ。」
「ご、ご令嬢。そんな追い出すだなんで。」
サード様は顔を赤くしたり青くしたりしている。
「わかった。話を聞きましょう。」
それから双方の事務方の従業員を何人か呼んで業務の擦り合わせが行われた。
話し合いも終わる頃、ダン様がサード様に頭を下げられた。
「実はですね、私は神龍様には御恩があるのです。」
「龍太郎君に?何です?」
「私の妻は長患いでした。」
「ええ、それは聞いています。あちこちから滋養がつくものを集めてましたよね。」
「去年亡くなりましたが、最後の日々のつらさを救ってくれたのが、龍太郎様のウロコなのです。
入手はアンディ様が骨を折ってくださいました。」
「なんと、それは。お悔やみ申し上げます。」
サード様も頭を下げられた。
「貴方は龍太郎様のお身内だ。御礼申し上げます。」
ダン様の声にダイシ商会のみんながうやうやしく頭を下げた。
――つられて私も下げる。
「龍太郎君が偉いだけだ。私が偉い訳ではない。」
ため息を1つ吐くサード様。
そして何かに思い当たったように顔をあげた。
「そうか、でも。」
言いよどむ。
「…もし、可能なら龍太郎君に直接会って礼を言いたいですか?」
サード様はサリー様を見ている。
「 ! ええ!可能ならば。」
弾かれたように顔を上げるサリー様。
「実はね、龍太郎君はアキ姫さまと仲が良いと言うか。まあ、お気に入り?とでも言うか。
彼女の為にイカをとって振る舞ったと、聞いている。」
「え、そうなんですか。」
「誰でも会える訳じゃないが、アキ姫さまによく似た貴女なら。
母君様のことで御礼を言いたいと言えば、会っても追い返さず話を聞いてくれるかも知れませんよ。」
サード様は笑った。
「ブルーウォーターまで来られたら、私が口をききましょう。」




