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回想、そして。

 もう二年は前のことだ。


グランディのモルドール領を出て、マナカ国へ向かっていた時。

馬車に揺られながら流れる景色を見ていた。

雇い主の親子と一緒に。

「先ほどは冷や冷やしたよ。無事で済んで良かった。」

「ええ、お父様。てっきり切られると思いましたわ。」


「申し訳ありません。私のせいですわ。」

手にした冊子は王妃様がお描きになった物だ。

「赤い髪の妖女の呼ぶ声」

このモデルになったのは今は亡き叔母、バーバラ。

それに似ていると言われる赤い髪を撫でる。



さっきまで、私達は王家の影のアンディ様と対峙していた。彼の冷たい瞳に煌めくナイフ。

夫人のレイカ様が止めてくれなければクビを掻き切られていただろう。

私は彼等に疎まれているのだ。自業自得ではある。



私はロージイ・ベリック。

赤い髪と琥白色の瞳を持つ。先日まで人妻だったが、夫を亡くし、このダイシ商会に拾われた。


馬車は森沿いの道を進んでいる。


「ねえ、お父様。何か動物が死んでないこと?」

馬車の前に倒れているものがあった。

薄い金色の毛がみえる。

「いや、これは。人じゃないか?おい、止めろ!」


――そこには汚れた布につつまれた若い男が行き倒れていた。


「おい、アンタ。しっかりしろ!」

ウチの雇い主は人が良い。ズタボロの得体の知れない男を助けた。

「凄い傷だ!」

近くのホテルにつけて、医者まで呼んでやったのだ。


「命は助かるとは思いますが、この頭から顔にかけての傷。片目も潰れていますよ。何があったんだか。」

医者はため息をついた。

「ハシナ国との小競り合いに巻き込まれたのかも知れないな。この若さで気の毒な事だ。」

「ねえ、お父さん。この服はマナカ国の?」

「うーん、グランディかブルーウォーターかもしれない。貴族のようだけどなあ。」


「ダン様、厄介ごとに巻き込まれたら大変ですわよ。」

「でもな、ロージイ。」


そこで男は目を開けた。薄い水色の目だ。

「アンタ、名前は?」

「…思い出せません。」


その男は記憶を失っていた。頭の傷のせいなのか。

顔の傷も深く、元の顔は伺いしれなかった。


そしてその男は、サリーさんの顔を見て目を見開いた。

「あっ、ああ、ア…!」

「おい、どうしたんだ?サリー知り合いか?」

「いいえ?」


「お嬢様の顔を見た瞬間何か思い出しそうに……!」


「そうか。もしかしたら知り合いなのかも知れないな?うちは手広く商売をやってるからね。」


「ねえ、○○?□□?▽▽?」

いきなりサリーさんが話しかける。

「ええ、●●、■■、▶︎▶︎。」

「ほう、ルルド国、メンドン国、ハシナ国の言葉がわかるのか。」


ダン様の目が輝く。

「うん、使えるかも知れないな。病院代は私が持とう。元気になったらウチで働く気はあるかい?」

「あら、良いかもね。」


「お二人とも!」



「まあ、良いじゃないか、ロージイ。お前に嫌な態度を取っていた男共をクビにするつもりなんだ。

言葉が堪能な使用人は是非欲しい。ガタイもいいし。」

「だからって!こんな得体の知れない!どこかの間者かも知れませんよ!」


「うーん、だけどね、この人どこかで見たような気がするんだよ。」

ダン様は頭を掻いた。

「それにもしそうなら、アンディ様にご相談しよう。

…会ってくださればだが。」




そして、現在。


あの男……仮名・ジャックはまだ居座っている。


頭から頬へと一直線の傷。左目には眼帯をしている。

結局、左目の視力は戻らなかった。


時々、サリー様を熱い目で見ている。


気にいらない。


「どうしました、紅の魔女様?」

「からかわないで。私は占い師。魔法が使えるわけじゃない。

だいたいこの世界、神獣はいても、魔法はないでしょう。」

そう、あれから私は占いができる美魔女キャラとして、タロットや占いグッズを売っている。


「男に舐められるのは、搾取されるのはもう懲り懲り。」

「良いじゃないですか。高嶺の花だ。女王様だ。なっ?ヤッキーにガリー。」

「そうですね。ジャック兄さん。俺ら三人はロージイ様の下僕でやんす。」とヤッキーが言えば、


「そのまま強気の女王様、美しく高慢な魔女のキャラでいてくださいよ。

貴女に傅きたいお客様はたくさんおりやす。」とガリーも続ける。

三人とも、ガタイが良くて強面だ。

カタギに見えないが、私のボディーガードである。


「ア、姫さんが来た。」

そこに来たのはサリー様だ。

「ロージイ!貴女凄いわ。今月も貴女の監修した占いグッズの売り上げはウナギのぼりよ!」

「ありがとうございます。」


優しく微笑む雇い主。


「姫さん。お久しぶりです。」

ジャックが話しかける。その目には私に見せるとげとげしさは全くない。


「ジャック、姫さんはやめてよ。ただの商人の娘なんだからね。」

「だって貴女は私の命の恩人だ。それに、貴女を見ると姫さん、と言う言葉が浮かんでくるんです。」


顔の傷を引き攣らせながら、優しくジャックは微笑むのであった。


少しずつ更新します。

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― 新着の感想 ―
あ~ここで拾われたんですか。 『海に突き落とされた』説もあったから、レイカさんの実家(カニやら海産物を扱ってる)の領地で身元不明で保護されてたりして...とか妄想してました。
ロージィは悪女だけど不憫なかんじもするんですよね・・・ 「妖女」はだれなのか?マキリップは読んだけれど思い出せない・・・ この「ジャック」と出会ったことでどうなっていくのか。 あまりかわいそうな展開に…
あ…もしかして彼は…ニヤリ
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