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骸骨と少女  作者: きてつれ
第一章 狂骨編
5/10

<第五話> 揺らぎ

<<登場人物>>


倉井戻くらいれい】:骨を全て殺すことを目的としている青年。しかし、本人はまだその意味や生じた訳を理解していない。主な能力は、回復。


【エンリ】:旧首都東京で戻と出会った少女。オオカミのような風貌だが、骸骨によるためかも? 主な能力は、牙、爪である。


谷川香凛たにがわかりん】:戻の同僚で三つ上のお姉さん的存在。実は育ちが良かったり。主な能力は、火である。


晴山氷はれやまこおり】:戻の同僚で六つ上。普段は忙しそうにしており、あまり付き合いがいいとは言えない。鋭い目つきをしてしまいがちだが、本人はそこまで睨んでいるつもりはない、主な能力は、氷、雪である。


虫明鳴牙むしあきめいが】:戻の同僚で五つ上。氷とは同じ大学の先輩後輩であり、そのころからの知り合い。気さくで馴れ馴れしい感じだが、服装はどちらかと言えば電波。主な能力は、雷、電気である。


宍戸尽ししどじん】:戻の同僚。戦闘には参加しないが、後方部隊として物資の補給や装備類の買い揃えをやっている。日村の右腕として、日々頑張っている。主な能力は特にないが、強いて言えば相手の話を聞くことが得意だ。


雨宮弘和あめみやひろかず】:戻の同僚。実は昔に一度、今のこの団体に所属しそしてやめている。日村とは長い付き合いである。能力は、雨、水である。


日村憲和ひむらのりかず】:戻の所属する団体のトップであり、三十年近く前に設立し、今尚現役で続けている。昔は随分と乱暴だったそうだが、今は大分落ち着いたらしい(本人談)。日本刀を用いた戦闘スタイルで、能力は、身体能力向上などである。


草壁一矢くさかべかずや】:戻の親友で、今はもう亡くなっている。昔に戻を救って以来、ずっと行動を共にしてきた。ゲームが好きでよく一人でやっていた(戻はあまり興味がなかった)。妹もいたが亡くしている。それきり少し暗くそして何かに焦っているようになったそうだ(戻による見解)。故郷は東京の西の方だったらしい。主な能力は???。

 冷たい北風が吹き抜ける。エンリは風上の方を向いた。


「骸骨だ。なんだこの町、骸骨と共存でもしてるのか?」


 その言葉を聞いて、三人は黙り込む。戻が香凛の方を向く。


「香凛、どうする? 骨だとよ」


「一応行くだけ行ってみよっか。事件でもなさそうだし」


「いや、事件だ。しかも複数個所で。俺も今呼ばれた。暴徒なのか、この数。にしてもばらけすぎだろ。あ、あと、目立つなよ。面倒になるからな」


 そういって有田は風下の方へ走っていった。サイレンの音が遠くで聞こえる。三人は風上の方へ向かった。


 第一北区に入ると必死になって逃げていく人たちとすれ違う。叫び声や爆発音も大きくなって、騒ぎの現場に着くと、強盗がコンビニの中を白昼堂々漁っていた。コンビニの対面の銀行からは煙が立ち上っていた。


「エンリ、あれが骨か? なら喰ってきていいぞ」


「あれじゃない。あれはただの人間だ。もっと奥にいる」


 エンリの肩に手を置いて、戻は日村へ電話を掛ける。


「日村さん。今、どうなっていますか? こっちではコンビニ強盗が暴れていますが」


「戻君。そうか、今はそこにいるのか。なら、近くに銀行強盗もいるから警戒するように。山梨都六区すべてで暴徒、テロ、殺人、強盗、立てこもりが起こっている。戻君、エンリ君は第一北区の対処を頼む。第二は必要ない。それで香凛君も一緒だったら同じく第一北区で対処を頼む。では」


 最後の方はやや早口で、返答する前にぶつ切りされてしまう。戻は香凛に状況を伝える。


「でもどうするの? あの強盗とここコンビニ強盗。先に片付ける?」


「どうせ警察が来る。北区にいる骨を探す方が重要だ。ほら来たぞ、『お人形さん』たちが」


 大量のパトカーがやってきて、中から人がぞろぞろと出てくる。警察の特殊部隊の一つ、TF隊がコンビニ、銀行を取り囲む。それぞれどこかしらに金属の反射光が見られた。


 戻はエンリにそのまま骨を追跡させる。他の場所でも暴徒と警察が対峙していて通れそうになかった。路地裏から進もうとしたとき、暗がりで大柄な男が二人座って何かしていた。


「骨のにおいの元はこいつらじゃない。が、片方は骸骨だ」


 エンリの声に振り返る男二人。その手には血の滴る刃渡り十五センチの包丁が光る。地面に転がる人間を刺していたようだった。


「喰ってはおくか……」


 エンリは上物の前に出された下劣で見るに堪えない下等な物を見るかのように、そして何より酷くつまらなさそうにして言った。香凛がエンリの前に立つ。


「先に行ってていいよ。レイ、エンリちゃん。ここは私に任せて。二人はその元凶?なのかな、骨の方へ向かって」


 戻はエンリの手を引いて、別の路地から向かうことにした。


「いいのか? カリン一人に任せても?」


「いいんだよ。香凛は強いから。ついでに暴徒もやるつもりなのかな」


 二人は香凛と離れて、元凶の元へと急ぐ。


    ◇


 香凛は笑みを消し、男二人の方へと少し近づいた。


「さて、骨さんはどちらかな? あんまり人は殺したくないからね。できれば、言ってくれると嬉しいな」


「女が一人で何を言ってんだ? 俺たちに殺されるってのに」


「へへ、どうやって切り裂いてやろうか。(はらわた)を食ってやろう。いい肉付きだ」


 顔に傷のある男がした舐めずりをする。もう一人の男は包丁で倒れている人間を刺して喜んでいた。

男たちはじりじりと近寄り、一斉に香凛に切りかかった。


 香凛は避ける動作すらせず、地獄の如き烈々たる炎を一気に放出させ、二人を焼き尽くした。骨の方は焼かれ死に、消えかかっていた。人間の方は皮膚が焼かれ黒ずみ、瀕死の状態だった。


「あちゃー。火力強すぎたかな。あんまり人に向けてやったことなかったからなぁ。やっぱり、人を焼いたにおいって臭くて嫌になっちゃう。……証拠隠滅しなきゃ」


 そういってまだ息があった全身黒こげの男を再度、燃やした。今度は先の火よりも高温だった。


 ぼうぼうと火が燃えている。香凛がこの場から立ち去ろうとしたときに奥からローブを被った人らしき何かが現れた。


「人が人を殺した。人が人を殺した。これは、これは。いけませんね。あなた、どこからの指示でこんなことを? 誰からの指示でこんなことを?」


「誰? 私はそこに倒れている人を殺した人間と骨を倒しただけだよ。人殺しなんて、この時代に生まれたらみんなどこかではやってるでしょ? こんな狂った時代なんだから」


「はは、そうだ。そうだ。八つ当たりのようにも聞こえますけどね。やはり我々と同じだ。我々と行動を共にしませんか? あなたの能力は想像以上だった。これなら共に国家を操れる。支配でキル」


 香凛は顔を暗く翳し、手を向ける。


「私、国家側の人間だよ? まぁ忠誠なんて絶対に誓わないけど。言いたいことはそれだけ?」


「国家側でも構いませんよ。そういう人もいる。我々はあなたを買っている。せいぜい生き残ってくださいね。競争です」


 香凛は攻撃しようとした。が、その何かはローブを脱ぎ捨て、香凛の攻撃対象をローブにさせて、闇へと逃げていった。ローブだけが燃え、灰となった。


「……私だけでいい。こういう役回りは」


 焦げて黒ずんだ石畳やコンクリートの壁、灰とかした焼死体からは残火より立ちゆく煙がつんとした臭いと共に空へ昇る。


 戻とエンリはあちこちで蜂起している暴動集団やテロに出くわしては、回り道を選ぶ。道路の封鎖により行きたい方へと進めずにいた。エンリは急いているのか、路地裏で低層ビルの壁をよじ登って戻を置いて先へ行ってしまう。戻もなんとか追いかけるも見失ってしまい、その場で一呼吸置いた。そして日村に電話を掛けるも一向に出なかった。


「エンリの奴、勝手に行きやがって。日村さんも電話に出ないし……。とりあえず、上から探すか」


 近くにある比較的高いビルに忍び込んで屋上へ上った。辺りの状況を見回す。遠くの方でも煙が立ち上っていた。雷の音や爆音が響く。東区は何事も起こっていないようだった。ただ、エンリの姿はどこにも見当たらない。


 不安が頭を擡げてくる。目を凝らして探していると、隣のビルの屋上に気取った雰囲気で佇む人を見つける。こっそりと上から写真を撮って、すぐに階段付近へ隠れる。写真を見返すと、同じ年くらいの青年だった。服装もそこらにいる一般的な大学生と同じような感じで、髪型も茶髪で綺麗に短く揃っていた。拡大して手に持っているものを見ようとしたときに、日村から電話がかかってきた。


「戻くん、様子はどうだ? 氷くんが南区を鎮圧させたのだが、犯人の一人が指示役の情報を吐いたそうだ。端的に言う。青年が主犯格だ。見つけ次第、すぐに向かってほしい。それでは」


「日村さ――。……。切れたか……」


 青年が主犯格、という情報を得て、今まさにそこにいる青年ではないのかと疑っていたが、エンリが来ていないことや日村のあまりに一方的な言い方に足を動かせずにいた。


「(先にエンリと合流したほうがいいな)」


 硝子の割れる音が近くで聞こえた。戻は息を潜めて、そっと隣のビルの屋上を覗く。そこには青年の姿がなかった。嫌な予感の中、見下ろして探したが見失ってしまったようだった。


「そこのお前。俺のことをこそこそと嗅ぎまわって何者だ? 政府の犬か?」


 戻の後ろにその青年が立っていた。戻は平静を装い、振り返る。


「いや、違う。単純な興味でね。気を悪くしたのならすまない。こんな混沌とした状況で、ああも楽しそうに眺めていたから、気になったんだ」


「……そうか。なら、一緒に見るか。この地獄に救済を与える瞬間を」


 その青年は鉄格子の方まで歩き、再び見下ろし始めた。


 戻としても、今逃げ出そうと思えばできることだったが、それよりも情報を一つでも聞き出すべきだと判断し、エンリが来るまで時間稼ぎをしようと考えていた。青年の隣に立って、同じようにする。


 青年は淡々と話し始めた。


「見ろ。テロリストたちがこの辺りの住人を襲っているぞ。特に、老人をまず殺せと、言ってある。居ても何の意味もないからな。次にそれを庇おうとした奴らを殺せ、と言ってある。そいつらも同罪だ。どのみち捨てられる人間だ」


 戻は見ていてすごく不快だった。とはいっても、いざ助けに入れるかと言われれば、たとえ回復できるとしても難しいことも感じてはいた。ただそれに勝る濁った不快感を、青年に対し思っていた。暴徒を目の前にして冷静なままでいられる神経、ましてそれを指示する人間など、より一層。


「ほら、あそこを見てみろ。女と子供を攫っているだろう? まぁ、どのみち死に絶えるなら、俺たちの役に立ってもらおうってことだ。銀行や企業への強盗も、南区での金持ちの誘拐と殺害も、俺たちを喰い物にした罰だな。西区も同じだ。俺たちを見下している庶民たち、何も動かない被虐者(マゾヒスト)な愚民共、そいつらも粛清だ。最後に政府機関へそのまま侵攻し、革命を起こす。その後、各地で貪る外来種のゴミも一掃する。老害共、無能共がいなくなれば、ここは楽園だ。俺たちは理想郷を造る。どうだ? お前も俺たちと一緒に来ないか?」


「理想郷ってどんなところだ? 俄然興味が湧いてきた」


 戻は心の底では、賛同できなかった。しかし、その理由を明確に言語化することはできずにいた。


「若者だけの理想郷さ。誰も差別されない、虐げられない、見下されない。自由と平等が共存できる世界。相容れない自由と平等を融合させるために、まず奴隷制を復活させる。そうすれば、みんな多様で、認め合えて、いいねって言い合える世界ができる。だって、僕らは奴隷の上に、平等で自由なんだから。人種も限られている。骨とだって共存できる。どうだ?」


「(こいつ、自分が年取ったら自害でもしてくれるんだろうか)」


 心中でそう思いつつも、青年を下手に刺激せず、かといって当たり障りないことを言うのでもなく、心に刺さるような、簡単に支配できると思わせるような言葉を戻は咄嗟に考える。


「その世界だと、オレはモテるのか? 寿司もいっぱい食えるのか?」


 青年はにんまりと笑う。


「もちろん。だって奴隷がいるからね。女など飽きるほどいるし、寿司も奴隷たちに魚を取らせればいい。身の回りの世話も、インフラの整備も、ネットの環境も、言論統制も、面倒な仕事を全て、奴隷にやってもらえばいい」


「やったあああーーーー! 自由最高ぉおおおおーーーー!」


 戻は叫びたくもなかったが、叫んだ。自身では下手な演技だと自覚していたが、それでもそうせざるを得なかった。


「ふふ、嬉しそうで何より。でも、この計画は今、潰されようとしている。南区でのお前の同僚の活躍によってね。聞いていたよりもうんと強いね、彼女。半機械の連中じゃ、骨には勝てないのに、お前たちが邪魔をする。お前はどうして、現体制を守ろうとする? 世界を変えたくはないのか?」


 青年の顔から笑みが消えた。戻も演技を見破られたなどとは思わず、初めから気付いていたのだろうと、察した。


「分かっていたのか。なら、単純な話だ。僕は骨を全て殺す。この世界からいなくさせる。それだけだ」


「なら一緒じゃないか。政府は人よりも骨の方が大好きなのに。知ってる? ここ最近の誘拐事件の首謀者。メディアが取り上げるのは哀れな生贄の子羊さ。まん丸太った羊じゃない」


「それは昔から変わらないことだろ? 言論統制には一番早い」


 青年は「ああ、そうだ。そうだ」と小さく呟いてから、空を見上げた。


「政府は『人体把握検査』とかいって、人間たちを連れ去っている。『そいつは骨だ』って言って。一般庶民には訳も分からない。だってそれまで知らなかったんだから。ネットにすら転がらない。お前はそれでも政府に従う。間抜けな老人共、いや狡猾な老人のしもべにすぎないんだよ、お前たちは」


「妄言だな。実際に今日、骨が人間のふりをしていた」


「はぁ、学が知れるな。一つの事象がすべてに当てはまる訳じゃない。お前が出くわしたのは何百万の内の一人、つまり偶然による外れ値であって、ほとんどは人間だ。俺の妹は連れていかれた。ありえるか?」


 少年は一呼吸置いた。そして大きく息を吸って、怒鳴るように言う。


「ありえないだろ! 俺が人間で、母親も人間、父親も人間で、どうして妹だけが人間じゃないんだ! 他の被害者にも聞き回ったさ。もしかすると俺の家だけかもしれない。でも違った! ほとんどの人は僕とおんなじで、人間だった! 赤い血の流れる人間さ!」


「だとしても、なんでこんな方法なんだよ。他にも方法があるんじゃないのか。こんな暴力で強行するなんて」


 青年は戻の胸ぐらを掴んで、必死の形相で言う。


「お前も暴力を否定するのか? お前自身は暴力を使えるのに。洗脳極まれりだな。今の体制も暴力で作られたってのにさ。それで暴力をもって制圧してくる。……骨を殺すって言ってたな。だったら、その前に人を殺してくれ。胡坐をかいている無能をさ! 一人でも多く殺してくれよ! なんで黙って支配されているんだ!」


 戻は黙るほかなかった。青年のそれが演技である可能性も十分にある。政府側の人間を寝返らせられれば、情報も引き出しやすくなる。ただ、戻としては一人の人間の圧殺されそうな状況の中から生じた抵抗、その大きな反動を持った主張に聞こえた。最近の暴動の根本的な原因にも思えた。そして何より、この青年が骨だとは断じて思えなかった。よしんばそうであったとしても、人間とどう違うのか、食うべきなのか、迷わせるほどであった。


 それでも戻は冷たく引き離した。


「……お前の言うことが全て事実だったとしても、僕は骨を殺すだけだ。それが僕のやるべきことだから」


 戻は青年に銃口を向ける。


「この騒動を止めろ。一般人を巻き込んでまで、理想郷を造りたいのか? 行き着く先は独裁者だぞ」


「いいよ。殺せ。殺したところで止まらない。いいじゃないか。独裁でも。今とさして変わらない。言ったろ? 自由で平等な世界を造るって。こんな地獄に生きて何の意味がある? 俺は何のために生まれたことになるんだ?」


 戻は撃てずにいた。撃ち殺しても止まらない可能性もあり、引き金にかかる指が重たくなる。いや、そんな理由ではなかった。その隙を見たのか、青年は鉄格子を飛び越え、暴徒の集団の中に落下した。


「おい! 待て!」


 戻は青年の行方を見る。蠢く虫の如き暴徒たちは、青年が飛び込んだあと、不思議と散らばり始めた。そして、あっという間に道路にいた人だかりはなくなり、ただ散らかったゴミや道具が散乱するのみだった。


    ◇


 戻は日村に電話を掛けるもまた一向に出なかった。


「日村のじいさんもなんかあったのか? それより、あいつ……。あ、エンリを探さなきゃ! はぁ、携帯を持たせておくべきだったか。いや、使えないか」


「おい、レイ。ここで何してんだ?」


 エンリがいつの間にか鉄格子に乗っかっていた。返り血なのか、髪が濡れ、顔にも泥のようにこびり付いていた。


「びっくりした! ってどこに行ってたんだよ。それよりも、骨らしき奴がいたんだが……」


「言わなくてもにおいでわかる。辿ってきた場所がここだから。奥の方は全部喰ってきたから安心しろ」


 戻は不思議と安堵感を覚えた。


「主犯格は青年らしいんだ。さっきまで僕と話してた奴かもしれない。それで逃げた。エンリもにおいを辿れるのがここまでなんだろ?」


「そう。だけど、なんだ。また喰えなかったのか? まぁ私が喰うから構わないけど、レイはそんなに私へ貢ぎたいんだな」


 エンリがにんまりと誇らしげな顔で戻を見る。


「……そういうことにしておくよ。一先ず、香凛と合流しよう」


 戻とエンリは近くにいた香凛と合流し、本部へ戻った。突然暴徒たちが撤退した、と香凛も言う。道中、戻はエンリにあの夫婦のことについて尋ねていた。


「なぁ、エンリ。なんで駅の近くにいたあの夫婦の、父親に擬態していた骨を喰ったんだ? 特に害もなさそうなのに」


「ん? 骸骨に同情でもしたのか? 初めから間違ってる。害だから骸骨になる。だから、代わりに私が喰う。それだけだ」


 香凛がエンリの頭を撫でる。


「うん。エンリちゃんの言うこともわかるけど、でもあの母親の方、ちょーこっち睨んでて、恨んでそうだったよ? ね、戻?」


「ああ、エンリのことを睨んでたな。一般人は骨についてはあまり知らないと思うんだけどな」


「恨む? むしろ恨むならこれまでの自分の行状をだろ? 片親だけで育てるのが嫌だったんだろうけど……」


 エンリは冷たく言った。


 本部前で、戻たちは氷と鳴牙(めいが)と鉢合わせる。氷の方は、全身に血の跡がついていて、戻と香凛をすこし怖がらせた。氷は低い声でエンリを呼ぶ。


「エンリちゃん、こっちに来て?」


 氷はハンカチを取り出し、エンリの頬と額についた泥や血を拭く。エンリは「ありがと」といい、氷を見つめる。


「コオリ、靴紐ほどけてる」


 エンリの指摘に氷はしゃがみ、結び直す。エンリも屈み、氷の頬を自分の服の袖で拭いてあげた。氷の表情が和らぐ。


「あとがとう、エンリちゃん」


 二人の姿に微笑ましく思う三人であった。そして、本部へ入ろうと歩き出したとき、氷は転んだ。鳴牙がすぐさま駆け寄る。


「大丈夫? 氷ちゃん。……ってなんで両足の紐、片方ずつ真ん中で結んでるのよ?」


「エンリちゃんが拭いてくれたときに、見えなくて……」


 靴ひもを結びなおす氷。それから、五人は本部へ入る。


 入口付近では宍戸と日村が慌ただしく、車庫へ向かう姿が見えた。鳴牙が事情を聞こうとするも、すぐさま車を出して行ってしまった。


 鳴牙は大きな声で残った全員に聞いた。


「そういえば、雨宮さんは? 誰か見てないの?」


 氷が口を開く。


「私は見かけたよ。西区は鳴牙だったよね。多分東区からだと思うけど、私とすれ違い様で制圧した南区へ入っていったよ。随分慌ててた様子だったから、声かけても届かなくて」


 香凛が気の抜けた声で言う。


「今月でもう六件目だよー? それで今日ので七件目。ホントどっから湧いてくるんだろうね。疲れたよぉ」


 その言葉に皆、完全に同意していた。そうして戻は一度、香凛と氷にエンリを預け、自室へ戻った。


 壁を見つめながら、あの青年の言葉を思い返していた。エンリの言う様に骨に対して同情してしまったのかもしれない、そう思いながらもあの青年がもし骨だったら喰うべきなのか、あるいは人間だとしたらどう止めるべきなのか、巡る考えに悩んでいた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

もうすっかり春ですね~。長閑ですね。気が緩んでしまいます。

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