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骸骨と少女  作者: きてつれ
序章
3/10

<第三話> 老人

「ああ言ってるけど? 私喰ってきていい?」


「あんな分かりやすい嘘を信じるな。奇形がない。間違いなく強敵だぞ。そして陰湿だ。とりあえず逃げ――」


 戻が言い切る前に、エンリは走り出して老人を襲う。


 エンリの爪が老人に当たる。が、老人はなんの素振りもなくなんら傷を負っていなかった。エンリはそのまま首元へ飛びつくも、不可思議なことに空中で蝋人形のように固められてしまった。


「(老人の能力だな)」


 身動き一つ取れないエンリを前にして、老人は直立不動のまま、淡々と語り始めた。


「そこに隠れているお方。あなたは賢明だ。臆病で、争いを嫌い、怯えている。自我を持たず、人に付き従う。私と同じだ。そうやって上り詰めてきた。こういう暴れ馬が、勝手に道を切り開き、勝手に死ぬおかげで私達のような者が生き残れる。実にありがたいことだ。なんせ危険なく成功できるのだから」


 老人はエンリの頭を撫でる。戻は動けなかった。


「私はこの前の戦争で生き残った。戦争とは悪そのものだ。お前さんたちくらいの歳ではわからんだろうが、どんなに他人が死のうとも何も思わない者たちがその正義(エゴ)らしき駄々から始めるのだから。長生きすると身に染みて理解できる」


 戻は勇気を出して尋ねた。


「お前は何の目的があってここに来た? お話なら聞いてやるが、できればその子を解放してほしい」


 老人は聞こえていないのか、自分の語りたいことだけを話し出した。


「第四次大戦後の対西側の革命の潮流。それに乗った日本での革命の仕打ちがこれだ。それでいてどうかね。奴らは再びこの国の玉座に座って平然とした顔で人をまた殺している。奴隷たちも解放されたと思い込んでいる現状だ。私も家族を捨て、友を売って殺した。支配されたくなかったからね。そして私の地位を脅かすものをつ――」


 固定されていたエンリが解除され、腹から地面に落ちた。地面を抉りながら攻撃し、距離を取った。老人は盲人のようにエンリが見えていないのか、躱さずにまだ語り続ける。


「この嬢ちゃんは戦争をしらない世代で、何も努力していない世代だろうから、しっかりと教え込まねばならない。戦争の恐ろしさ、平和のすばらしさ。そして骨の出現から、人間が一気に退化したことを。私は絶望したよ。人間とはかくも容易く私の地位を――」


 エンリが戻に近づき、興奮気味に言った。


「あのジジイ。意味わかんない能力を持ってんな。爪が効かん。噛もうとしたら止められたから、そこになにかあるかもしれん。レイ、何か分かったか?」


「いや。……こういう骨とは何回か遭遇したことがあるが、どれも癖の強い能力であることは違いない。それと今なら逃げれそうだ。あのガラス片の近くに向こうへ渡る通路がある。そこから逃げ――」


「なんで逃げんの? 今喰えるなら喰うべきだ。喰い殺さなかったから好き勝手やって、ずっと残り続ける。そうなれば、この世は骸骨まみれだ」


 戻は顔を顰めた。


「エンリ、別に今食べなくてもいいだろ? 逃げていてもいつかは食えるからさ。な? だから逃げよう?」


「一番の実りを過ぎて、誰にも喰われなかった、喰わさなかったのが奴だ。私が喰わなかったら、いつ誰があいつを喰い殺すんだ?」


 エンリが引き下がらないことに苛立ちを覚え、強めの口調で戻は言う。


「いいから。あの骨はどのみち誰かに殺されるから。エンリが生きていることだけが今の僕にとって重要なんだ。ほら、おいしいご飯なら僕の帰る場所にいっぱいあるから。ね。だから一緒に――」


「そんなに私が大事か? ならお前の友達とやらはなんで死んだ? こういう風には守ってやらなかったのか? あのジジイの言う通り、臆病だな。その友達に縋りついて、自分を捨てたか? 脳無しさん」


 戻は何も言い返せなかった。怒るほどの余裕もなく、かといって手を出すわけにもいかない。


――一矢はなんで死んだ?


 あの老人の能力はおそらく……。


――なんで僕は先に一階に降りた?


 エンリと逃げないと……。


――縋りついて……。


 うるさい! それはエンリが勝手に言ったことだ!


――僕は自分を捨てた? 


 今はそんなことを考えるな! そうだ。エンリが勝手にいかないように腕を掴んでおかないと……。


 戻の脳内は怒りや興奮のみならず自責感や恐れといった種々の感情の坩堝だった。フリーズ寸前のコンピューターのように、その複雑に入り混じった感情を声にならない声で出し、織り交ざった表情のままエンリの腕を掴んだ。そして、絞り出しながらエンリの目を見て言った。


「僕の任務は生きて帰ることだ。こいつと戦って生き残れる保証はどこにもない。エンリを庇ってまで逃げ切れない。だから――」


「放せよ。弱いお前なんかに私を守れるか。何も考えられないなら、そこでじっとしていろ。あいつの弱点が分かったら聞いてやる。それまでそこで考えておけ」


 戻はエンリの腕を放さなかった。強く握って放さなかった。そして、感情がその負荷に耐え切れず爆発した。


「わかんないんだよ! 僕だって頭がいっぱいいっぱいなんだ! 親友が殺されて、笑いたくもないのにお前に笑って話しかけなきゃいけない! 保護して帰らなきゃいけない! ここでお前に死なれたら、僕は何しにここに来たんだよ! お前みたいな奴が、一矢の夢には必要なんだ! だから! だから逃げよう? お願いだ……。逃げてくれ……」


 涙ぐむ戻を見て、エンリは冷たく言い放つ。


「知ってる。その薄気味悪い笑顔、気づかい。で、お前は誰なんだ? レイ。親友を喰えないお前はなんだ?」


 エンリは戻の腕を払う。


「まぁ、もういい。お前だけで逃げろ。逃げて、逃げて、逃げ続けろ。ずっとだ。私はここでこいつを喰う。だから、もう私の邪魔をするな」


 そういうとエンリは戻を引っ張って、駅のホームまでつれていく。天井へ向けて大きく右腕を振りかぶり、吹き飛ばした。ガラガラと瓦礫が崩れる中へ戻を放り投げる。戻は地面にぶつかる間際、何とか受け身を取った。陥没する道路を見て、苦い顔をする。そして振り返ることなく走り出した。


「(逃げてやるよ。そこまで言うのなら。……もういいや。どうせ一矢は死んだんだから。……お前は誰かって。お前こそ誰なんだよ。名前も碌にない、一人で生きてきた、それだけの、奴が……)」


 走ってもすぐに息が苦しくなる。逃げて離れれば離れるほど、走れなくなる。戻は少し離れた場所で立ち止まった。


 一方のエンリは、老人へと瓦礫を投げつけて様子を伺っていた。間違いなく老人に瓦礫は当たっている。が、老人はかすり傷一つできていない。もう一度、エンリは老人の首元へ攻撃をする。爪による攻撃のふりをしつつ噛みつく。また同じく、エンリは空中で固定されてしまった。老人は気にせず喋り続ける。


「騒々しい。お前さんはもう少し落ち着きを覚えた方がいい。そして、もう一方は逃げたのか。はたまた囮にしたのか。賢明で合理的な判断ではある。お前さんと違って」


 老人はようやく動いたかと思えば、エンリの首元を掴み、猫を投げるようにエンリの開けた大穴目掛けて投げ飛ばした。投げ飛ばされている最中に固まった体は解け、エンリは身軽に着地する。


 ひょっこりと老人は顔だけ穴から出す。エンリは爪の能力で地面ごと抉りながら切り付ける。老人の被っていた帽子だけが四枚に切れた。老人はエンリの服を掴み、近くの建物へ投げ飛ばす。


 エンリは空中で回り、逆に建物の壁を利用して、老人へと突っ込む。ぶつかる直前にまた固定されてしまった。老人は地上に上り、エンリの首元を正面から掴む。


「お前さん、骸骨を何人も食べているね。身体強化や爪、牙といったところか。なら、私の食べ方も分かっているはずだ。ここだ。ここ。この首裏の喉仏が私の本体だとも。ぜひ、食べてもらいたいものだが、お前さんではない。お前さんに私を喰う資格はない。残念だ」


 老人はエンリの腹を殴りつける。エンリは睨みつけた表情で固まっている。もう一発、二発と殴りつけ、固定されたエンリはようやく解除され、吐瀉物をまき散らした。


 その様子を戻は見ていた。


「(言った通りだろ。勝てる保証なんてないのに。勝手に挑み、勝手に負けた。それだけだ。僕には関係ない。……死んだら意味ないじゃないか。何のために生きて……。何のために……生きて、いるんだろ。僕は……)」


 エンリが吐きながらも大きな声で言った。


「お前ら骸骨は私が全部喰い殺してやる! 骸骨なんてこの世から全部消し去ってやる! だから、安心して私に喰われろ!」


「負け犬の遠吠え。死んでしまったら何の意味もない。あるいは、新しい命乞いか? みっともない」


 老人はエンリを蔑む。下らない妄言や譫言(うわごと)の類だと。


 戻は違った。不思議と体が動いた。懐かしくも苦い感覚が全身に走る。エンリの方へと足が動く。駆り立つ使命感が背中を押し、近づくたびに心が軽く、思考が明瞭に冷めてゆく。


 星明りが照らす中、戻は手斧で老人の首を砕き、エンリを救出した。そしてすぐさま小路へと隠れた。


「エンリ! 大丈夫か? 一旦距離をおくぞ」


「まだ逃げてなかったのか! また逃げるのか!」


 エンリは血反吐を吐きながら言った。戻は今度はいつものように笑って、エンリに言う。


「いいや、今度は喰うために逃げる。必ず今日、あの老人を喰うぞ!」


 戻は路地の端でエンリを寝かせ、パーカーをめくる。肋骨が折れていた。また内臓にも損傷が見られる。


「頑丈だな。僕の能力は回復でね、とりあえず殴られる前くらいには回復させる」


「……どういう気の変化だ? さっきとは別人だ。嬉しそうにしやがって。まさか、骸骨か! お前!」


「違ぇーよ。ただ、昔を少し思い出しただけだ。一矢に助けられたあの時の自分が、エンリ、お前と重なった。自分のしなきゃいけないこと、見たふりして逃げてたんだ。一番見なきゃいけない僕自身が、直視せずにいた。なんかスッキリした気分だよ。不思議と」


 戻はエンリに触れて回復させる。


「レイと私が同じな訳ないだろ。弱っちいのに。まぁ、でも。これなら戦えるな」


「一匹でも多く骨を殺す、だろ? エンリも。昔の俺もそうだった。……なんて非合理的なんだろうな。死んだって骨を殺す。そのために生きる。ホント、なんで忘れてたんだろ」


 エンリは笑った。それはもう嬉しそうに。そして立ち上がった。


「なんだ、なら同じだったな。さて、なら私があいつを喰うから、囮になれ」


「分かった。が、その前にあの老人の能力について確認しておく」


「ああ、固定する能力だろ。私に使用したやつ。爪とか瓦礫とかをそれで防いでいた」


「瓦礫も? ……エンリの傷を見て思ったんだが、どうも拳で殴っただけには見えないんだ。傷跡は拳大の岩を思い切り押し付けたような切り傷もあった。人の手ではそうはならない。つまり、体を岩のように変化させる能力があるんじゃないかってこと」


 エンリは下を向いて考える。


「なら、爪の攻撃もそれで防いだのか? 私の爪はそんなに柔じゃないぞ」


「最初の攻撃の時は、おそらく固定化の能力だろう。思っていたよりも強力で使わざるを得なかった。だから次の噛みつきの前に固定化した」


「もしその能力があるとしても、なにも警戒しなくてもいいな。むしろ隙だ」


「そう。だけど、初見では固定化する能力ばかりが目立つ。固定化の能力も無敵って訳じゃない。インターバルがあるとしたら、その岩の能力で隠す。それが奴の能力の全貌で、インターバルこそ倒せる隙だ」

「いんたーばる? まあ今はいいか。能力は三十秒くらいで切れる。その間は数えられる。対象も多くないはずだ。範囲も、回数も」


 老人の能力を推察し、ある程度の方針が決まった。そして、戻が作戦を伝える。


「それで初めの囮はエンリがやってくれ。老人の警戒からすると、エンリが一番だ。真の囮は僕がやる。固定化されるが、三十秒は僕へ老人の意識を集中させる。解除されたと同時に速攻で喰い殺してくれ」

「……大体、分かった。私は喰うことだけ考えてればいいんだな」


 エンリは颯爽と老人のいる方へ向かった。戻は銃弾を込め、左手にもう一発を持つ。手斧を腰に提げ、静かにエンリの後を追った。


 大きな穴が道路の横で老人は立ち呆けていた。すっかり首も修復されていた。


 エンリが老人の前に姿を現す。老人も生気を取り戻したかのように、目を見開いて言った。


「逃げたのかと思ったよ。いや、逃げるべきだった。あの臆病者の男はどうしてそのまま君と共に逃げなかった? そんな愚かなことをするようには見えなかったが。合理性の欠片もない情動的で無意味な小汚い少女を見殺しにするとは。見込み通りだ」


「レイをお前と一緒にすんな。死にたがってる癖して、死にたくないんだな。そんなにそのままの自分でいたいのか? 同類を見て優位に立てるのがそんなにいいか? 喰われるのは怖いか? 喰いものにしてきたもんな。よく知ってるはずだ」


 エンリは不用意に近づかず、かといって遠すぎない距離を保ってタイミングを計っていた。老人もエンリを警戒し、目で追っていた。


 静寂のまま音もなくエンリは猛烈な勢いで老人に突っ込む。エンリは拾っていた瓦礫を老人へ投げつける。老人は避けることもせず、瓦礫を顔面で防ぐ。相変わらず傷一つつかない。


 エンリは右手を振りかぶり、大きな獣の鋭い爪を具現化させる。加えて、そこに火炎を纏わせた。老人にあたる寸前でやはり固定されてしまう。が、炎を纏った右手だけはそのまま老人の腹を抉った。


 老人は後退ることも狼狽えることもなく、爪を腹から外して、近くの瓦礫を拾った。


「生憎、火は効かない。もう懲り懲りだがね。しかし、よく火を隠していたものだ。火のその全てを止めることはできない。危なかったよ。だが、これでお終いだ」


 老人が瓦礫でエンリの頭を殴ろうとしたその瞬間に、戻は老人に向けて銃弾を放った。弾は胸に命中した。そして戻は叫んだ。


「そいつは炸裂弾だ! 爆発するぞ!」


 老人の骨がそんな言葉を信じるはずもなく、戻の方を向く。そして、近寄る。


「お前さん……。どうして逃げていない?」


 弾丸が爆発し、老人の胸部から下腹部辺りまでが吹き飛んだ。が、背骨は綺麗に残り、仰け反りながらも戻へと向かっていく。もとの速度に比べ、随分と鈍足になっていた。


 戻は弾丸を装填し、頭へ命中させた。すぐさま手斧に持ち替え、老人へ向かう。


 老人は首を狙われると思い、左手で首を守っていた。戻は左肘を切り落とす。


「小僧! なぜ突っ込んでくる! 爆発で死ぬ覚悟ができてるとでもいうのか!」


「(爆発しねーよ。その弾は)」


 老人は怒りの形相で戻を見て、固定させた。


「ならば、この爆発でお前さんを殺す。すぐに能力を解除して、爆発させて――」


 エンリの解除に気づくも遅く、老人は全身を火で纏ったエンリに首を噛み千切られた。老人は力を失い、倒れ込む。固定された戻も解除される。バキバキと噛み砕き、ごくりと喉仏を飲み込んだエンリは、老人へ向かって言い放つ。


「そのまま死ねとは言わない。私がお前を喰う。お前は私の血肉となって、私がお前を背負う。だから、もう眠れ。亡霊よ」


 エンリを覆っていた炎は次第次第に弱くなり、そして消える。老人はしゃがれた声で唸るように言った。


「ふざけるな……。若造共が! 私を喰いものにしよって。私がどれほどの思いでここまで生きてきたと思っている。私がどれほどの思いでしがみついてきたと思っている。……ぅう。こんな、見知らぬ愚図に、どうして、私の、…………」


 塵となって消えた老人を見て、戻は勝てたことを、生き残ったことを強く実感した。ちらりとエンリを見ると、なんとも言えない悲しげな、あるいは弔っているような表情で骨の跡を見ていた。


「……なぁ、エンリ。この老人の能力は獲得できたのか?」


「いいや。私は骸骨ばかり喰ってたから、その辺は鈍ってるのかもな」


「そうか。ともあれ、殺せてよかった。……荷物を取りに行くか」


 戻は道路に空いた穴を見て、エンリの力の恐ろしさを感じながら、駅の階段へ向かった。


 荷物の元へ着くと、エンリは耳のような髪をピコピコさせながら頭で小突いてきた。


「レイ、お前のことを少しは見直したぞ。逃げ腰で弱い奴だと思っていたが、案外敵に臆さず戦える強い奴だった。悪かった。酷いこと言って。でももっと早くにそうしておけば、あの骸骨たちも喰えたのに」


 エンリはニッと笑って戻を見た。戻はというと、つぶれた荷物を見て固まっていた。


「おい、レイ。何固まってんだ。あのジジイはもう死んだんだぞ? ん? ああ! 私の食料が!」


 エンリもつぶれた携帯食料の残骸を見て、急いで瓦礫を退かした。つぶれた荷物を見て、戻はここに置いていくことにした。


「(はぁ、これは怒られるなぁ。まっいっか。エンリもいるし、大事なことも思い出せた。一矢にばっか自分の考えを託してたな。でも、その一矢は死んだ。なら、僕も一矢を喰わなくちゃ。僕は骨をこの世から全て消し去る。それで結果としてどこでも人間が住めるようにする。そうだろ。一矢。エンリ)」


 戻はゴーグルを外し、踏みつけて壊した。


 エンリは何とか携帯食料を手に取っていたが、汚れて食べられそうにはなかった。悲しそうに戻を見て、飛びつく。戻もなんとなくエンリの頭を撫でる。エンリが戻のポケットに手を入れた。戻は急いで、エンリの手を取り、携帯食料の一つを取り返す。


「これは僕の分だ。さっきいっぱい食べてたろ?」


「吐いてなくなった。それもよこせ!」


 しばらく二人で食料の取り合いをして、結局、携帯食料は底をついた。


 戻は一袋しか食べられなかった。エンリも全然足りなさそうだった。


「さっさと帰るか」


「うん……。早く飯喰いたい……」


 さっき食べてたのは何だったんだと戻は思いながらも、夜道をエンリと進む。


「最初はエンリのことを保護するつもりだったけど、やめた。一緒に戦ってもらう。いいな?」


「弱っちいレイなんかより圧倒的に戦力になるぞ、私は。というか、私を守ろうとするなんて、百万年早い!」


 エンリは顎を上げてドヤ顔をした。


 二人は星明りの下を歩き続けた。日が昇る頃に偵察任務開始場所である八王子の家に着くと、二人は倒れるように眠った。正午には起き、新首都山梨の検問所へと向かった。


 エンリは空腹を我慢しながら、時折ブツブツ言いつつも戻についていく。戻も空腹で体力的にも限界だったが、気合で検問所まで歩いた。およそ半日の長い道のりだった。検問所には戻を待つ二人の影があった。


最後まで読んでくれてありがとうございます。

これにて序章はお終い。戻とエンリの物語が始まる。

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