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そこの王子様ちょっと邪魔!

作者: 春野美咲

いや~、こんなつもりはなかったんだけどな……。



「やぁ、可憐な君は今日も素敵だね。夜空に瞬く星星も、君の輝きには敵わない……」


 あぁーうざい。早くどいてくれないかしら。この“王子様”

 すごい邪魔だし、すごい喋ってうるさい。

 彼が私に声をかけてから私一度も口を開いてないし、なんなら相づちの一つも打ってやしない。何考えてるんだろう。というか周囲の状況見えてないのかしら?


 こんな広いホールで目の前の遮蔽物の向こうに見えるご令嬢たちが、互いに顔を突き合わせこちらをチラチラ盗み見してくる。(バレバレ)

 本当、なんでよりによって私に声かけてくるのよ。

 華やかなパーティ会場で一人でいたのがそんなに目立ってた?あの淑女の大群の中に今目の前でくさいセリフを永遠に垂れ流すこの男が顔を出せば、それこそ会場中が一気に盛り上がるのに。

 あぁ、早くどっか行ってくれないかしら。


 散々私が無反応を貫いても、目の前の狂ったようにその口を閉じない王子様は気にしない。ここまで相手から反応がなかったらある程度察しが付くだろうに。

 いや、つかないからいつまでもくっちゃべってるのか。しかも私に声をかけてきた時点で期待薄である。


 ………………もう、帰ろうかな。


 もらった紹介状につい浮かれて何も考えることなくお気に入りの若草色のドレスを着てきたが、特にこれと言って取り上げられるような話題もなく、相手もいない。この王子様に声をかけられる間際まではイートインコーナーで食事に洒落込もうかと考えていたけど絶望的に空気の読めない頭空っぽの王子様がいるせいで動けない。

 だいたい、壁の花たる女性に声をかけるのはダンスに誘うか、食事に誘うか、会場から連れ出し二人きりの夜に洒落込むかの三択だろうに。(偏見?事実でしょ?)


 なのにこの王子、暖簾に腕押し並みに私からの反応が得られていないにもかかわらず、その口をつむぐこともなければどこかに連れ出そうとする気配もない。

 もちろんそんなことをされそうになれば全力拒否った上で、場合によっては人攫いで訴えようかとさえ思ってる。

 …………もしかしてそれが感づかれているんだろうか?意外にこのマヌケできる?


 少しばかり先程よりはほんの僅かにかすかに一ミクロンくらいは目の前の男に興味が出てきたところで、その奥にある人物の影が目に入った。


「……るの太陽の眩しさを思い出し、夏の風のように……」

「ちょっと邪魔っ。そこどいてっ!!」


 一瞬で視界を遮っていたものを押しのけ、私はその人物に走り寄った。


「アレン様っ!」

「…………!ロザリア、来てくれていたのか」


 はしたなくない程度に小走りに近寄り、その名を呼んだ。すると相手も私の声に気がついてくれて、こちらを振り返ってくれた。私は自分が彼の視界に入れたことが嬉しくて、つい顔を俯けてしまう。


「……当たり前です。アレン様から頂いた会場チケットですもの。無駄にできるはずがありませんわ」

「いい加減、タメ口にしてくれ。俺のほうが身分が低いのに、これじゃ真逆だ」


 彼の親しみのこもるその言葉は嬉しいが、やはり素直には頷けない。だって彼は私の憧れの人だもの。


「アレン様は立派な騎士様ですもの。尊敬の意味も込めてこの話し方ではいけませんか?」


 そう強請るように彼を上目遣いで見上げれば、彼は困ったように片手で首の裏を掻いた。


「いや、いけないっていうか……。悪い、ロザリアの意思を否定したかったわけじゃないんだ」


 普段は凛々しいその眉をだらしなくも思えるほど垂れ下げた姿に胸がキュンと音を立てて高鳴る。

 ずっとそれを見ていたい気持ちを抑えながら、私も謝る。


「いえ、私こそアレン様のご期待に添えなくて申し訳ありません。……でも、その理由をお聞きしてもよろしいですか?」


 どうしても気になって謝罪の次に尋ねてしまえば、アレン様は最初私が何を指しているのかわからないようだった。

 私が「お気にされる理由を……」と継ぎ足せば、彼も「あぁ……」と納得してくれた。


「……そんな大したモンでもないんだが。…………前から少し、気にしていただけだ。スマン、男のくせに女々しいな」

「そんなっ! …………そんなアレン様も、すてっ……良い、かと思います」


 私は。と、もどかしくもそれを付け足すことはできなかった。けれども彼を目の前にすれば、どうしても普段よりうまく言葉が紡げない。不思議で、しかしどこかもどかしいその感覚はかえって心地よさがある。

もっと彼の声が聞きたい。言葉を聞きたい。そう思うのにもっと話していたいとも思う。いつか二人で語り合いながら、互いに笑い合うこともあれば……っ。


「そうか!君の名はロザリアであったか!君のその容姿によく合う美しい名だ。きっと国一誇る薔薇の園のどの花よりも君は美しく凛と……」

「あ、アレン様、今度の遠征は国外になるのですよね?次はいつコチラにお戻りになられるのですか?」

「ん?……あぁ、次はウォルター原だからな。帰りは一月から二月ほど先だろうか」


 まぁそんなに……っ!

 私が驚き、次にお帰りになられる時期を心に留めながら、次の言葉を問いかけようと口を開く瞬間、あえなく横から別の雑音がかぶさってきた。


「アレン様っわたs……」

「やはり僕と君は運命の赤い糸で結ばれているようだっ!互いに小指を絡め、約束を誓おうではないか。無論野薔薇の中に咲く一輪の君という美しい花を僕は見逃しはしない!!」


 まさかの私の言葉の上からかぶさってきたそれを、これ以上無視できるはずもない。いい加減ブチりと音を立てそうな頭をどうにか抑え込みながら私は騒音の方を振り返る。


「いい加減にしてもらえないかしら?!」

「いい加減そのうるさい口を閉じろ!!」


 蟀谷にシワが寄りつつ私がそう叫べば、同時に予想もしていなかった方向から私の叫びもかき消すほどの怒号が響いた。

 確かめるように声がした方向に視線を動かすとそこには…………。


「今めちゃくちゃ良いところだっただろうがっ!余計な邪魔をするなバカッ!!今すぐ引っ込め!!つか退場しろ!!」


 ………………自分の息子を罵倒し、あまつさえ追い出そうする父親。…………陛下がいた。


「せっかくロザリアちゃんが意を決して想い人に何かを言おうとした大事な場面でその声にかぶせるなどっ!お前は一体何を考えてるんだ?!馬鹿なのか大馬鹿者め!!」


 まさかの予想外過ぎた。一瞬脳が読み込みを拒否したくらいだ。これがアレン様だったなら私もついうっとりと彼の勇姿に見惚れていただろうが、彼は一国の王子に向かってそんな不敬の連発をするような方ではないし、実際これまでの騒音の元凶たる王子を黙らせているのは他でもないこの国の国王様だ。…………うん?想い人??


「なっ父上どういうことですかっ」


 そう、王子様そう思うのも当然。


「普段夜会の場になるたびに彼女を探し、夕食時のたびに彼女の愛らしさについて語っていたではないですか!?彼女がお気に入りだったのではないのですか」


 …………はい????パードゥン??


「あぁお気に入りだ!お気に入りさ!!ロザリアちゃんほど超“キュート”で超“ラブリー”な女性など我が妻だけだ!!」

「父上が何をおしゃっているのか全く理解できないのですが!?!?」

「そんな超絶キュートでラブリーなロザリアちゃんをお前みたいな馬の骨に誰が嫁がせたいと思う?!」

「父上は僕の父上ですよね!?僕はあなたの息子ですよ?!」


 ……急に会場で親子喧嘩(王族主催)が開催され、私は戸惑う。

 え、どういう展開??


「……ったい父上は何を為さりたいのですか!?」

「そんなの超絶ラブリーなロザリアちゃんの恋を見守りつつ密かに応援して想い人との行く末を眺めたいに決まっているだろうがー!!!!」


 ……ぇ、ぇえっ!?お、想い人!!やだっ王様ったら何を……


「ロザリアちゃんのあのいじらしい仕草!今夜だってきっと想い人の騎士から会場のチケットをもらって、『もしかしたら今夜彼に会えるかも』『以前褒めてもらえたドレスにも気がついてもらえるかしら』と期待を胸に淑女としてある程度取り繕った状態でこの会場まで足を運んだんだぞ!!そんな彼女が想い人を見つけたときのあの瞬間の目の輝きっ!お前も目の前で見ていただろう!!羨ましいっ」


 えっえぇー!!!!やっやだ!王様ったら何を言ってるの?!

 キャー!!私そんな目してた??そんなにわかりやすかった?!……ってちがうわ!こんなところでそんな大きい声でそんな事言われたらっ!!!!

 私が不可解な親子喧嘩を前についうっかり舞い上がってしまいそうになったときようやく正気に戻れた。

 慌てて一番この会話を聞かれて恥ずか死ぬ相手を振り返ろうとしたところで……


「……あなた、いい加減におなし」

「ユーリ……」

「母上」


 突然また新たな乱入者……ではなく今度は王妃様!?


「あなたがロザリア嬢を思う気持ちはわかるわ。けれど彼女を応援したいと思うのなら今この場で醜い争いを彼女たちに見せるより、息子の回収だけして立ち去るのが理想だったわ」


 頭を抱えるような仕草の王妃様。相変わらずどんな姿でもお美しい。もはや女神のようだ。


「ロザリア嬢、我が夫と息子が迷惑をかけたわね。わたくしから謝罪するわ」

「ぇ、いえいえっ王妃様に頭を下げさせるわけには……」


 そのまま頭を下げようとする彼女を引き止めれば、王妃様自身も「そう?」と微笑み許してくれた。

 ……うわぁ、本当にお美しい。

 一度王妃様が私の後ろの方に視線を流し、すぐにこちらを微笑み直した。


「今度、王都の料理店で夫が考案した“スイーツバイキング”となるものがあるの。ぜひそこの優待券を贈らせてもらうわ」


 二枚分、ね。とそう耳元で王妃様に耳打ちされ、あらゆる意味で私は溶けるかと思った。

 …………王妃様、お美しいぃ。


「もちろんその日は王族が城下を降りることは“絶対に”ないから、安心して」


 本当に、王妃様はお美しすぎるぅ~!!

 複雑な心境ではありながら、私は王妃様には感謝感激である。


「じゃあ、あとはゆっくりパーティを楽しんでね」


 そう言ってあっさりと問題児二人(王族)を引き連れて王妃様は去っていった。

 残されたのはゆでダコになった私とそして……。


「…………ロザリア」


 これまで一度も一言も何も発しなかったアレン様。

 はい、とか細くなりそうになる震えそうな声を抑え私は彼の方向へと振り返る。

 彼はずっと私の後ろで同じく王族の方々のお話を聞いていたのだから。

 彼が次に何を言うか、想像もつかない。


 …………もしかして、私の気持ちにも気が付かれてウザがられるのでは……っ。


「………………」


 沈黙が怖いっ!もしかして言葉もないくらい嫌われて……っ!!


「……その、“すいーつばいきんぐ”とやらには誰かと行くつもりだろうか?」

「……え?」


 まさかの彼の一言目が「スイーツバイキング」?!えっそこ!?……まさか私が知らなかっただけで彼は甘党……。


「いや、もし一人で王都に向かうのなら、と。……ただ心配しただけだ」

「そ、そうなのですねっ……。ぁ、アレン様は、お優しいですものね」


 うっかり彼を疑うような思考に入りかけた自分を内心叱り飛ばしながら、すこしがっかりしている自分がいることにも気がつく。

 ……だって、先程の言い方ではまるで他の誰かと行くことに嫉妬するようなお言葉だったんですもの。

 そう自分の都合よく考えてしまう自身を恥ずかしく思う。

 すると…………。


「いや、これは優しさというよりは……っ」

「…………?」


 彼は何かを言おうとしてすぐに口を閉じた。そのことに不思議に思った私はついそのまま首を傾げてしまう。

 彼はなにか言い迷うように視線を泳がせたが、すぐに意を決した様子でこちらに向き直ってくる。


「ロザリア」

「は、はいっ!」


 これまでのどの場面でもないほどに、真っ直ぐで真摯なその瞳に吸い込まれてしまいそうになる。

 本当に、彼はどうしてこんなに真っ直ぐな瞳ができるのだろう?

 思わず見惚れてしまいそうになる。

 彼の呼びかけに応えてから、私からも彼をまっすぐ彼を見上げる。

 彼はその瞳をそらすこともなく、私を正面から見つめてくれる。


「俺はいずれ、立派な騎士になる。なってみせる」


 もうすでに十分なほどに立派な人が何を言ってるんだろう。

 それでも、彼の言葉の続く先が聞きたい。知りたい。

 まっすぐに輝く彼から、私は目をそらせない。


「その時はロザリア。君を迎えに行きたいと、そう思っている」


 ぇ……。迎え?それって……っ!


「それまで、待っていてくれるだろうか。きっと、その間は君を一人にさせてしまうが」

「…………ま、待ってますっ。ずっと。……ずっとお待ちしておりますっ。待って、その後に貴方が迎えに来てくれるのならっ、いくらでも。どれだけ長くてもっっ!」


 まっすぐ、そらすことなく私を見続けてくれる彼に、私からもまっすぐ見上げる。

 貴方が好きだから、と言葉にしなくても通じてしまいそうになるほど、まっすぐに。


「……それは、嬉しいな」


 安堵したような落ち着かせた彼の言葉が、声が私を骨から魅了する。まるで“魔眼”みたい。

 貴方のすべてがこんなにも好きで、こんなにも愛しい。

 たとえ貴方が悪い魔法使いで、私を騙していたって構わないと思えるほど。私は、貴方が好き。


「待っていてくれ。必ず、出来得る力で早く、君を迎えに行く」

「はい。お待ちしておりますっ」


 あぁ、なんて幸せなんだろう。何という幸福だろう。アレン様が私をまっすぐ見つめて、そのとおりまっすぐなお言葉を私に向けてくれる。

 こんなに嬉しいことがあって良いんだろうか。


「あ、その。それで何だが件の“すいーつばいきんぐ”なるものは他の相手を誘うつもりなら……」

「はいっ。ぜひアレン様とご一緒したくっ」


 私がもちろんだと答えれば、彼今度こそも安心したようにその肩を落ち着かせた。

 あぁ、やっぱり私は……。


「ところで日付はいつなんだ?」

「えっと……、あ」

「ん?」


 貴方のその声に、言葉に、


「アレン様の、遠征期間中です……ね」

「なッ……」


 まっすぐ私を見つめてくれるその瞳に、


「本当に貴方って人は肝心なときに役に立たないわね!?」

「す、すまんっ。せめてバイキングの日付をずらせば……」

「父上、母上っ声が大きいですっ!!」


 ……恋、をしてるんだ……!




「ところでロザリアは王族の方々と何か親交が?」

「伯母様と王妃様が友人なんです。あ、王妃様は否定してますけど」


 なるほどと納得する彼は、私が見上げていることに気がつくとすぐにその眦を和らげまっすぐ私を見つめ返してくれる。


「だからあんなにも殿下と親しげだったのだな」

「アレは見た目王様似なだけのただの残念な馬鹿です」


 少しも嫉妬の素振りを見せない彼に少しばかり惜しい気持ちになある。その八つ当たり先があるだけマシなのだけれど。


「だが、俺に対するのより彼に対する方が君の本心に近い気がするんだ……」


 あれ?この反応…………


「……っすまない。聞かなかったことにしてくれ。男らしくないことを言った気がする」

「いえ……いいえっ!そう言っていただけて、思ってもらえて嬉しいです!!」


 まさか本当に嫉妬だったなんて……っ!


「…………喜ばせる気でもなかったんだがな」


 仕方なさそうにそう言って笑う彼は今やこの国一の立派な騎士だ。

 約束が果たされるのはきっと、それほど時間はかからない。


「アレン様」

「ん?」


 彼を呼び止め、意を決して私は彼を見上げる。


「お早いお帰りを、お待ちしております」


 ずっと言いたくて、言えなかった言葉。

 そして……。


「……あぁ、またすぐ、必ず君のもとに帰る。ロザリア」


 早くその時が来て、彼に伝えたい。

 私の気持ちを。今はまだ伝えきれない想いを。


『おかえりなさい』と、一緒に。


 ちゃんといい子に待ってますから、必ず迎えに来てくださいね。

 愛しい愛しい、未来の旦那様。




 いずれ二人の娘と息子が私達の間にできるときは、きっとこれ以上ないくらい私は幸せに満ちている。

おかしいな、良いところで王族が邪魔しに来る。いや、今回はそれがタイトルなんですが。うーん。


ちょいちょいあちこちに他作品ネタが登場してますけど、多分あってます。あ、主成分は一つですけど。

なにか気がついたことがあれば是非コメントを。

子どもたちの未来が楽しみですね。クスクス。


最後までお付き合いくださりありがとうございます。

少しでも面白いと感じて下されば、ご気軽に評価コメントしていただけると嬉しいです。

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